5話 忠告
シュラークさんに怒られて、疲れたので今日は家に帰る事にしました。
しかし、シュラークさんには困ります。喧嘩を売って来た馬鹿な人の腕の骨を砕いたからといって、人を問題児扱いするなんて酷い話です。
私達は家に入ると、ソファーに座り寛ぎます。
「今日はなぜか疲れました」
「うーん。今日は学長さんのところに連れていかれたから尚更かな。ほら。レティ、制服から着替えて」
「あ、はい」
私は自室でいつもの服に着替えようとしましたが、カチュアさんに止められます。
「エレン様。今日は疲れたので早めにお風呂を沸かしますね。レティシア様もここで待っていてください」
「あ、うん。カチュアさん、お願いね」
お風呂ですか? アレは苦手です。
「私はお風呂はどうでもいいです。もう寝ますね……」
私が逃げようとすると、エレンに腕を掴まれてしまいます。
「は、離してください」
「レティ、一緒にお風呂に入るよ」
「え? 嫌です」
「だーめ。レティは本当にお風呂が嫌いなんだから。放っておいたら、身体を綺麗にする魔法を使って、お風呂に入ろうとしないでしょう!」
「え? 嫌です」
「二回言ってもダメ! カチュアさん。お風呂の準備をお願いね。私はレティを説得するから」
「分かりました」
私は幼い頃から熱いお風呂が苦手です。できれば入りたくありません。体を綺麗にするのは〈体洗浄〉の魔法を使えばいいですし、たまに水浴びすればそれでいいです。
「熱いお湯は嫌いです。水浴びで充分です」
「だーめ」
お風呂の用意ができてしまい、私はエレンとカチュアさんにお風呂に連れていかれてしまいます。
そして、お風呂から上がった私は急激に眠くなりました……。
お風呂に……入ると……眠って……しまいます……。
全く。
まさか、初日からシュラーク殿から苦情が来るとは思わなかった……。
アイツ……生徒の一人の腕の骨を砕いたそうじゃないか……。
何を考えているんだ……?
そもそも、エレンとカチュアはどうしたんだ……。あの二人なら、レティシアを止められると信じていたんだがな。
まぁ、起こってしまった事は仕方がない。事情を聴く必要があるな……。
まだ、夜は遅くはない。
シュラーク殿の愚痴を聞かされていたら、こんな時間になってしまったが、アイツ等の家に灯りもついているし起きているだろう。
俺はアイツ等の家の扉をノックする。
「おい。レティシア、いるか?」
「はーい」
ん?
この声は……。
出てきたのはエレンだった。
「あ、カンダタさん。今日の夜に来るって言っていましたね。どうしよう……」
「エレンがでてくるとは珍しいな。何かあったのか?」
「いえ、レティ……もう寝ちゃったんですよね」
寝た?
アイツには夜に行くと言ったはずなんだが……普通寝るか?
「授業などで疲れていたから、お風呂に入れたんですが、お風呂から上がったら寝てしまいました。レティはお風呂上りは確実に寝るのに忘れていましたよ……」
風呂上がりに確実に寝るって……、アイツは子供か……。いや、確かに見た目は子供だが……。
「まぁ、いい。お前とカチュアだけでも聞いておいてくれ」
「はい。どうぞ」
俺はエレンに案内されリビングに通される。対面にはエレンとカチュア、少し離れたソファーでレティシアが眠っていた。
ただ寝てるだけだと可愛らしい子供にしか見えない。
いかんいかん。
見た目に騙されるわけにはいかんな。
「そこで幸せそうに寝ているレティシアが、早速問題を起こしたそうだな。学長が愚痴ってきたぞ……」
「問題ではありません。アレは相手が悪いのです。レティ様は私を守ってくれただけです」
カチュアが事の経緯を話してくれた。
しかし……、ギルド学校か……。
噂通りと言えば噂通りだな。
「なるほどなぁ……。確かにレティシアはなりが小さいからなぁ……。それに比べギルド学校は年齢制限のない学校だ。子供はあまりギルド学校に行かないからなぁ……。馬鹿にしたがるアホも多いんだろうよ」
「はは……」
俺とエレンは眠るレティシアを見てため息を吐く。
「レティシアの見た目がああである以上、これからも同じような問題が起こるかもしれんな。その事については学長に相談しておく。それよりもエレン、カチュア、お前ら二人に言っておく事がある。お前等の特殊能力を学校ではあまり使うな。お前等の特殊能力は強力過ぎる。特にレティシアの能力は異常だ……。もちろん、エレンの聖女の力、カチュアの美徳の力も強力だからな」
「確かにエレン様の聖女の力は隠した方が良いでしょう。色々と問題が起こりそうです。ですが、私達がAランクというのはバレていますよ」
「なに?」
「私がバラしましたし」
「おまっ!? 何してんだよ」
おいおい。
冒険者ランクAランクの奴はギルド学校普通は通っていないんだぞ。Aランクというだけで注目の的じゃないか。
しかし、カチュアが自分からランクを言いふらすとは思えないな……。
「何があった?」
「いえ、たかがCランクでいい気になっていたアホ勇者候補がいたので、黙らせるために話しました」
「勇者候補?」
ギルド学校に勇者候補なんていたか?
うーむ。
勇者といえば教会だが、そんな奴がいたならば冒険者ギルドに報告があるはずだ。それなのに報告は受けていない。
もしかして名のある冒険者が調子に乗っているのか?
「そいつの名前は?」
「はい。レギールという名です」
「は? レギール? 聞いた事もねぇな……」
Cランクになって初めて一人前の冒険者となれる。逆に言ってしまえば一番数の多いランクでもある。冒険者の殆どがCランクとDランクで占めている。
どちらにしても勇者候補を名乗っている以上、教会関係者の可能性が高いな……。
「わかった。そいつの事は調べておく」
「え? 雑魚ですよ?」
「勇者候補を名乗っている以上、教会と関係あるかもしれん。安心しろ、ギルドの上には報告はしない」
「え? 何の話ですか?」
「……いや、何でもない」
おっと。
こいつ等にはグランドマスターの事を話していなかった。知らないのであればそれでいい……。
しかし、ギルドだけでも厄介になりかねないのに、教会までかかわってくるとしたら鬱陶しいな……。一度陛下と相談した方がいいかもしれないな……。
「俺が言いたい事は特殊能力を使うなって事だ。特にレティシアには強く言っておいてくれ」
「わかりました」
「じゃあ、俺は帰る」
「セルカに帰るの? セルカならここから転移魔法陣に乗った方が……」
「いや、あと一週間はエラールセのギルド宿舎に泊まっている。何かあったらギルドに来いよ」
「分かりました」
レティシア達の家を後にした俺は、その足で、あの三人の事を相談するために学長の家に向かった。




