4話 早速の授業
この危険な生物が……どう見ても屈強な男の山賊にしか見えないこの人が……女の人?
私はあまりの衝撃についつい呆然としてしまいます。すると危険な人は一番目立つ場所に立ち、全員に座るように言います。私も言い知れぬ恐怖を感じ大人しく座ります。
危険な人は笑顔で本を開けました。
私は周りの人達を見ます。すると全員が本を開いています。はて? 私達は本など持っていませんよ?
「じゃあ、今日の授業を開始するわよ~。レティシアちゃん、エレンちゃん、カチュアちゃんの三人は今日は教科書無しで聞いていてねぇ~。今日は基礎知識くらいだから~。後で教科書を支給するから職員室にきてねぇ~」
教科書? 職員室?
教科書というのは、みなさんが開いている本ですね。しかし、職員室とはどこでしょう?
まぁ、後で聞けばいいですね。
今は黙って話を聞いておきましょう。
危険な人の話はとても面白いです。しかし、途中で気付いたのですが、誰も前を見ていません。きっと危険な人を直視したくないのでしょう。そう考えれば可哀想な人です。
「あら~? レティシアちゃん。どうしたのぉ~? 随分と慈悲深い目をしているわよ~?」
「え? 危険な人が目の前にいるから、みなさん前を直視できないみたいです。でも、貴女が可哀想なので私だけでも前を見ようと思いまして……あ、エレンとカチュアさんもしっかり見ていましたね。この三人だけは貴女を見ているので安心してください」
「あら~? 随分と失礼な事を慈悲深く言われたわ~。でも、ありがとうねぇ~。いつも誰も前を見てくれなかったら寂しかったのよ~」
二時間くらいで授業というのが終わり、危険な人は部屋を出て行ってしまいました。
「エレン。治療ギルドの話は役に立ちましたか?」
「とても勉強になったよ。今まで酷い傷は〈エンジェルヒール〉を使って治療していたけど、怪我の状態をしっかり見て判断すれば中級の治療魔法でも治療できることが分かったよ。私は無限の魔力があるから気にしなくていいんだけど、普通の治療師は魔力を調整しながら治療しなきゃいけないからね」
「エレン様は治療院のお仕事が多いですからね。きっと役に立つと思います」
「そうだね。治療ギルドで新人の治療師の人が私に治療方法を聞いてくる事があるけど、いつも困ってたんだよ。ここで学べばちゃんと答えられそうだよ」
「それは良かったです」
私達が話をしていると、変な男が私達の前に現れます。
「少しいいかな?」
男はエレンの前に立ちます。エレンは戸惑っているみたいなので私が答えます。
「はい? 貴方は何ですか?」
しかし、男は面倒くさそうに私を睨みます。
「君みたいなガキに用はないよ……!?」
男が私を見下した瞬間、カチュアさんが机を蹴り倒し男の胸ぐらを掴み上げました。怒っているみたいです。
「レティシア様にどういう口の利き方をしているのですか?」
カチュアさんは男を掴み上げたまま男を壁に叩きつけます。
「ぐぁ!? は、離すんだ。僕を誰だと思っているんだ!?」
「黙りなさい。貴方がどこの誰かなんて興味がありません。殺す……のはいけないですから、二度と歩けないくらいに痛めつけますよ」
「ぼ、僕は将来の勇者候補のレギール様だ!」
「将来の勇者ですか? 誰がそんな事を決めたんですか? 教会ですか? 国ですか?」
「僕は村で……。い、いや、僕は皆に期待されてギルド学校に来たんだ! さぁ、離すんだ!」
「つまり今はただの人ですよね?」
「んな!?」
それを言ってしまえば元も子もありません。カチュアさんは結構……素晴らしい事を言いますね。
「ぼ、僕になんて口を!? 僕はCランクの冒険者だぞ!?」
はい?
Cランクですか?
Cランクと言えば、出会った頃のドゥラークさんと同じランクですね。まぁ、ドゥラークさんは最初からそこそこ強かったですけど、ここにいるレギールという男からはそれほどの強さを感じません。
しかし、同じクラスの人達からすれば驚く事だったようで、ひそひそと何かを言っています。
「そ、そんな……。Cランクと言えば一流の冒険者じゃないか……」「どうしてそんな人がギルド学校へ?」
驚くクラスの人達を見てレギールは喜んでいます。Cランクが一流? 馬鹿じゃないんですかね……。
「たかがCランクの分際で何を言っているんですか?」
カチュアさんがそう言うと、レギールの表情が険しくなります。
「た、たかがだと!?」
「そうです。でも、それは勘違いですよ。Cランクでも強い人は強いですし、冒険者としては一流というのも理解はできます。ですが、今現在の貴方はたいした活躍もせずにギルド学校でぬくぬく偉そうにしているだけです。まぁ、そんな人の何が偉いのか教えて欲しいくらいです」
「な、なんだと!? キサマは冒険者ですらない癖に「私は冒険者ですが?」……な、なんだと?」
カチュアさんは冒険者カードをレギールに見せます。
「貴方と違い、私はAランクです」
カチュアさんがランクを言った瞬間に、クラスのみなさんは絶句してしまいます。どうやら、声も出せないようです。
Cランクでも一流ならば、Aランクはどうなってしまうのでしょうね。
「さて、未来の勇者殿。レティシア様に無礼を働いた事を詫びて貰いましょうか?」
「ふ、ふざけるな!!」
「止めないか!?」
レギールはカチュアさんに殴りかかろうとしますが、グラヴィが止めます。今のはいい判断です。
もし、カチュアさんが殴られていたら、レギールという愚か者を殺していたでしょう。
「カチュア君と言ったね。君も安い挑発に乗るんじゃない!」
「安い挑発? 馬鹿言わないでください。私は本気です。その愚か者はレティシア様を侮辱しました。それだけで万死に値します」
カチュアさんから殺気があふれ出します。カチュアさんの殺気にこのクラスの何人が耐えられますかね。
「止めるんだ!」
おや?
あのグラヴィという男の魔力でカチュアさんの殺気を抑え込んでいます。器用な事をするものです。
「うるさいですね……。貴方も一緒に殴りますよ?」
殺気を抑え込まれた事でカチュアさんはイライラしています。私の為に怒っていてくれるのを見て、ついつい嬉しくなりますね。
「レティ、ニヤニヤしてないでカチュアさんを止めてよ」
「はい? 私を庇ってくれたのがつい嬉しく思えました」
「もう! カチュアさん。初日から問題起こしちゃダメだよ!」
「エレン様がそう言うのなら……分かりました」
カチュアさんはエレンに注意されて殺気を放つのをやめます。そして、カチュアさんがレギールに背を向けた瞬間、レギールはカチュアさんに殴りかかります。
させると思いますか?
私はレギールの腕を掴みます。
「これは何ですか?」
「は、離せ!?」
私は骨を折らない程度に力を込めます。
「これは何ですか?」
「い、痛い!? は、離せぇえええええ!!」
反省の色はありませんか。
私はさらに力を込めます。するとレギールの腕の骨が砕ける音がしました。
「ぎゃあああああ!」
レギールはその場で転げまわります。痛いのでしょう。
すると部屋に一人の男性が駆け込んできました。
「な、なんの騒ぎだ!」
グラヴィは男性を先生と呼び、その人に今の状況を説明します。その結果、私達はシュラークさんに呼び出されてしまいました。
私達と対峙したシュラークさんは呆れた顔をしています。
「早速、問題を起こしたね」
「あの男がカチュアさんを殴ろうとしました」
「うん。確かにそう聞いているけど、だからと言って腕の骨を粉々にしなくていいだろう? イラージュ先生も治療に苦労していたよ」
そうですか。
危険な人の治療を受けられて、レギールは嬉しいでしょう。危険な人は顔に似合わず優しい感じがしますから。
「そうですか。それは羨ましい限りですねぇ……。危険な人の治療を受け続けれるのですから」
ついつい笑顔になってしまいます。
「はは。反省の色がないね」
「だって、悪いのはあっちです」
私は絶対に譲りません。私は悪くありません。
「はぁ……。グランドマスターもグローリア陛下もとんでもない問題児を送り込んでくれたものだよ」
「誰が問題児ですか」
全く失礼な話です。
しかし、シュラークさんは呆れた顔でため息を吐きます。
「どう考えても問題児だよ……」




