3話 クラス
シュラークさんが言ったクラスという言葉……聞いた事があるような気がします。
どこで聞きましたかねぇ……思い出せません。
私がクラスの事を思い出そうとしていたら、エレンが私の代わりにシュラークさんにクラスの事を聞いてくれました。
「クラスってギルドカードに書かれていた項目の一つですよね。確か……職業でしたっけ?」
あぁ、それです。
確か私のクラスは【神殺し】です。
「そのクラスとは違うよ。この学校には数百人の生徒がいる。数百人を一度に教える事はできないから、三十人ずつに分けてそれぞれ学んでいるんだ。その三十人のグループをクラスというんだよ。同じ言葉だけど、冒険者カードのクラスとは別物だね」
「そうなのですか? ややこしいですね」
同じ言葉なのに別の意味があるとは面倒くさいです。どちらかが変えればいいんです。
「確かにややこしいといえばややこしいね。でも、ギルド学校では冒険者カードの意味はあまりないから、私はわざわざ変える必要はないと思うんだよね。まぁ、冒険者カードのクラスの言葉を職業と書き換えてしまえば、一発で問題は解決できるけどね」
職業ですか……。
エレンは【聖女】……。カチュアさんは【重剣士】……。職業という事はお仕事ですよね。
……私の職業は……。
「ん? レティシア君。どうしたんだい? 複雑そうな顔をしているね」
「私の職業は【神殺し】なんですが……。例えば【治療師】ならば、治療をするという役割がありますよね。という事は、私の役割は文字通り神を殺す事なんですかね?」
神を殺す……。神と言えばアブゾル教の神アブゾルでしょうか?
という事は、神アブゾルを殺せばいいのでしょうか……?
良く分かりません。
「い、いや。【神殺し】だからと言って神を殺さなくてもいいんじゃないのかな? そもそも神なんているかどうかも分からないからね」
確かに【神殺し】と言っても、いるかどうかわからない神を殺せるかは分かりません。あまり考えない方がいいですかね。
「ここでは冒険者カードのクラスの事を職業と呼びます。実は貴女達の職業の事は事前にグランドマスターから聞いています」
「はい? それはどういう事ですか?」
「まずレティシア君の職業が【神殺し】でエレン君の職業が【聖女】。さらにカチュア君の職業は【神騎士】だね。どれも聞いた事のない職業だ」
はて?
前にカチュアさんの冒険者カードを見せて貰った時は【重剣士】だったと思うのですが、いつの間に【神騎士】に変化したのでしょう?
「え? 私のクラス……【神騎士】なんですか? 前は【重剣士】だったと思うのですが……勝手に変わっていてなぜか嫌です」
どうやら職業が変わっていたのをカチュアさんも知らなかったようです。
ここで一つの疑問が生まれます。
本人であるカチュアさんですら知らなかった事を、なぜグランドマスターが知っているのですかね?
「グランドマスターというのは全冒険者の職業を把握しているのですか?」
「いや、流石にそれは無いと思うよ。いくらグランドマスターが凄い御方でも、世界各国にいる何万もの冒険者の職業を把握しているとは思えない」
「なるほど。では、どうして私達の職業を知っているのですか? ピンポイントで調べたとでも?」
「いや。私もそこまで詳しくないんだよ。グランドマスターからは、君達が要注意人物だという事と、クラスを教えて貰っただけなんだ」
目を見る限り、どうやら嘘はついていないようです。
という事は私がSランクだったから近くにいたエレン達も調べられたと?
そうだとしても、カチュアさんすら知らなかった【神騎士】という職業を知っていたという理由にはなりません。
……一度、会ってみたいものですね。
「まぁ、いいです。話を進めてください」
「ふむ。どうやら考えがまとまったようだね。じゃあ、君達が編入するクラスに案内しよう」
私達はシュラークさんについていきます。
ふむ。
外から見ても大きかったですが、中身もかなり広い建物です。長い廊下に部屋がずらっと並んでいます。
各部屋には三十人ほどの人達が集まっています。これがクラスというモノですか……。
暫く歩くと、シュラークさんが立ち止まります。
「三人とも、この教室だよ。入りなさい」
「「「はい」」」
部屋に入ると、二十五人の様々な人が座っていました。そのうちの一人が私を睨みつけています。
ガラがとても悪そうです。目がムカつきますね。抉り取りましょうか。
私は懐からナイフを取り出し男に投げつけようとしますが、カチュアさんに止められてしまいました。
はて?
私が動けないでいると、エレンが私の前に立ちます。
「ちょっと、レティ。いきなり喧嘩売っちゃダメだよ」
「でも、アイツは私を睨みつけました。分際をわきまえていないのなら、目を抉ってしまえばいいんです」
「だ、駄目だよ!」
むぅ……。
エレンに怒られてしまいました。
「分かりました。大人しくします」
そう言ったのですが、睨みつけてきていた男が私に迫ってきます。
「あぁ!? このガキ、舐めんじゃねぇぞ!!」
「はい?」
完全に喧嘩を売られてしまいました。
よし、殺してしまいましょう。
「レティ、殺しちゃダメだよ!」
「分かりました」
エレンに言われたから殺しませんが、殴っても良いでしょう。
男は私の胸ぐらをつかみ持ち上げてきます。
地面から足が離れてしまいました。私は足をバタバタさせます。男の顔が近くてムカつきますねぇ。
「てめぇ。誰に口を聞いてやがる!」
「初対面なので貴方が誰なのか知るわけがありません。それと、口が臭いですので顔を近付けないでください」
私のこの言葉に男は私を殴ろうとしてきます。
……はい。
殴られたら痛いのでまずは私の胸ぐらをつかむ腕を握り潰します。
「ぎゃあああああ!」
男の手が私の胸ぐらから離れたので、私は男を一方的に殴り始めます。
今回は気絶しないくらいの強さで殴り続けます。暫くすると、男はガタガタと震えて泣きだしました。
「はい。今後、私に逆らったらこうなりますからね。よく覚えておいてくださいね」
「……は……い……。すいませんでした……グスッ」
男は泣きながら謝ってきました。
まぁ、私は優しいのでこれで許してあげますね。
「レティ……」
「レティシア様、素敵です」
エレンは呆れた目をして、カチュアさんは目をキラキラさせています。私は二人に囲まれてニヤニヤしてしまいます。
「はいはい。いきなり揉め事は困るよ。レティシア君」
なんでしょう。
偉そうな男性が立ち上がりました。次はこいつですか?
「貴方は?」
「僕は生徒会長のグラヴィというんだ。このクラスの代表でもある」
「そうなのですか? じゃあ、他の人をちゃんと管理してください。迷惑です」
「……済まなかった」
何か言い返されると思いましたが、素直に謝られてしまいました。意外でしたが、まぁいいです。
私達は座る場所を教えてもらい、その場所に座ります。私を真ん中にエレンとカチュアさんの二人に挟まれています。
私達が座ると、グラヴィという人が「担任が来るまで大人しくしておいてくれ」と言ってきました。
はて……?
「担任とは何でしょうか?」
「担任の先生とは、このクラスを率いてくれる先生の事だ」
「そうですか。どんな先生なのですか?」
「インパクトのある先生だよ。色々な意味でね」
インパクト……ですか。
面白い人だといいのですが……。
グラヴィと話をしていると扉が開きます。
「は~い。みんな元気~」
「!!?」
部屋に入ってきたのは、顔はドゥラークさんよりも厳つく、身体はカンダタさんよりも大きく筋肉に包まれ、しかし、女性が着る服を着て、なぜかくねくねしている気持ちの悪い変な生き物が入ってきました。声は女の人です。
「な、なんですか!? あの気持ち悪い生物は!?」
「あ~ら。気持ち悪いとは失礼ねぇ~」
「はい。気持ち悪いです。少なくとも顔と声が合っていません。喉を潰しましょうか? きっと似合いますよ」
この人の声は異様に高いです。この顔にはもっと低い声が似合いそうです。
「あら~? 新しくクラスに来た子は凶暴ねぇ~」
「結局貴方は何者なのですか?」
「私? 私がこのクラスの担任のイラージュよ~。ちなみに専攻は治療師よ~」
ち、治療師ですか……?
例え怪我をしても、こんな人に治療されたくありません。
「世界で一番治療されたくない治療士ですね」
「酷い事を言う子ね~」
別に男の人が女性の格好をしていても基本は何も思わないのですが、この人は気持ち悪いというよりも怖いです。
「そもそも、私が男だと思っているのねぇ~。残念、私の性別は女よぉ~」
そ、そんな……ば、馬鹿な……です。




