1話 学校に行く事が決定しました。
新章です。
「レティシア、お前ギルド学校に行ってみないか?」
はい?
私がギルドの学校に?
「お言葉ですが、今更、私に何を学べって言うのですか? ギルドの知識も、冒険者であるなら、魔物の知識や薬草の知識だけでいい思うのですが……」
「いや。お前は常識が欠けている部分が多い。だからギルド学校から学ぶ事は多いと思う。行く価値は間違いなくあるはずだ」
「常識が欠けているとは、結構な失礼な発言ですね」
「レティ……」
エレンからも言ってあげてください。私が非常識とは失礼な話です。しかし、エレンは何も言ってくれません。カチュアさんも今日は何も言ってくれません。なぜでしょう?
「まぁ、聞け。お前の命に対する価値観を今更どうこう言うつもりは無い。だがな、冒険者をやっていくのなら、お前の価値観を覆さなきゃいけない時もある。今のお前に素直にそれを受け入れられるか?」
「はい?」
そんなの依頼書に書いてある通りに動くに決まっているじゃないですか。書いてなかったら守る必要はありません。
「じゃあ聞くが、お前一人でのクエスト中に、エレンがピンチだと気づいた場合、お前はどうする? お前は要人の護衛中だ」
「え? 護衛対象を連れてエレンを助けに行くに決まっているじゃないですか」
「護衛対象が『自分はここを離れられない』と言ったらどうするんだ?」
「え? 置いて行きますよ。私の邪魔になりますから」
それは当然の事です。
人には優先順位というものがあります。護衛対象が何者であってもエレンやカチュアさんより上という訳がありません。そんな事は当然の事です。
しかし、グローリアさんはため息を吐きます。
「やはり、お前はギルド学校で学んでおいた方がいい。ギルドの知識は知っておいて損にはならない」
「はぁ……面倒なのでいいです」
私が断ると、グローリアさんは悪い顔になります。
「エレンとカチュアも一緒に入学させるつもりだったんだがな。お前だけ行かないんだな」
「行くに決まっているじゃないですか。入学します」
「お前……分かりやす過ぎるな」
レティシア達の家から帰って来た俺は宰相であるエフェットに入学の手続きを頼む。
エラールセの皇国の普通の学校ならば俺が一声かければいいが、ギルドが運営している学校ならば、ギルドに正式な申請をしなければいけない。
「エフェット。あの三人の入学志願書をギルドに出しておいてくれ」
「いいのですか?」
「うん? どういう事だ?」
「陛下はギルドを怪しんでいるのでしょう? それなのにレティシア殿をギルドの傘下でギルド学校に送り込むなんて……。ギルドがレティシア嬢を欲しがるきっかけになるのでは?」
エフェットがそう言うのも仕方がない。
確かにその心配もしたが、そこまで気にする事でもないだろう。ギルド程度にレティシアがどうこうできると思わないからな……。
「あぁ。もし、レティシアを手に入れようと露骨だったならば対処するさ。正直な話、今はギルドが何を考えているかがわからねぇ。マイザーの事もマイザー王の謝罪だけでギルドが矛を収めた。普通は贄が必要になるはずだ」
「贄ですか?」
「あぁ。本来は王族が国を混乱させたのであれば、誰かが責任は取らなくてはならない。今回の場合はプアーが責任を取るべきだっただろうな。しかし、マイザーはこれを回避している」
「確かに……。私としてもミーレル鉱山襲撃の指揮を執っていたプアー王太子の首くらいは要求すると思ったのですがね……」
確かに意外だった。
俺はてっきりマイザー王を殺すと思っていた。マイザー王に女冒険者を送っていたとするシンマスターを殺すくらいだったからな……。しかし、殺さなかった。
レティシアがマイザー王の人間性を作り変えたからか? いや、そんな事でグランドマスターが許すと思えない。
「だからこそ、レティシアをギルド学校に入れてグランドマスターの出方を見たい……」
俺がそう言うと、エフェットが笑う。
「そうですか。それ以外にも理由があるんじゃないんですか?」
「なに?」
「本当はレティシア嬢に普通に生きて欲しいのでしょう?」
「ふん。あんな幼い子が……いや、見た目だけだが、それでも十六歳の女の子だ。普通に生きて欲しいモノと思うのは当然だろう? もし、グランドマスターがまともなら、レティシアには手を出さないはずだ。それを願っているのだがな……」
「そうですね……」
余計なおせっかいとはわかっている。でも……それでも……普通に生きて欲しい……。
「では、ギルドでの手続きは頼んだぞ」
「分かりました……」
できれば、何の問題もなく手続きが終わるといいのだがな……。
エラールセ皇国。
ギルド学校、生徒会長室。
「そうか。ギルドの傘下のギルド学校にあの【忌み子】のレティシアが来るのか……。グローリア陛下も随分と大胆な事を考えたものだ……」
「どうしますか?」
「……殺す……」
「……可能なのですか?」
「……と言いたいところだが、アレを真正面から相手をすれば私でもアレでも無事では済まないだろうね……。それに、私が欲しいのは聖女だからね……」
「では、聖女を手に入れる為に、生徒会長であるボクが……」
「それは駄目だよ。そんな事をすればレティシアの怒りに触れて学校の崩壊につながる。そんな事になれば、学校の生徒のトップである君を我が配下に入れた意味が無くなる。それにアブゾルもアレを欲しがっている。アブゾルもこの学園に配下の者を送り込んでくるだろう。それに学校はギルドの傘下だ……。もしSランクであるレティシアに手を出せば……」
「そうですね。グランドマスターまで出てくるかもしれない……という事ですね」
「そうだね。君は親切に彼女達を見守るだけでいい。頼むよ……生徒会長のグラヴィ君」
「お任せください……ベアトリーチェ様」




