34話 マイザー王城への潜入
マイザー王を作り直すための力、【再生】手に入れたのでマイザー王国に転移しようと思ったのですが、グローリアさんが止めてきます。
「アレ? 行かないんですか?」
「いや。行くのは行くのだが、少し準備が必要でな。一つ、レティシアに聞きたい事がある」
「なんですか?」
「お前はマイザー王の部屋に直接転移する事はできるか?」
直接転移ですか……。
初めて行く国ではないので、城下町には外門を通らずに入れますが、王城の中は入った事はありません。
「グローリアさんも知っていると思いますが、直接転移は一度でも行った事のある場所でないと転移はできません。グローリアさんがマイザー王の部屋に入った事があるのなら、その記憶を読み込んで直接転移できますが……」
「いや、俺も無いな。そうか……そうだったな。もう一ついいか?」
「なにか?」
「今からお前一人でマイザーに行って、マイザー王の部屋に突入する事ができるか?」
「可能ですよ」
そんな事くらいは簡単です。
お城で会う兵を全て殺せばいいだけですし、あそこの兵は弱いですからね。
「兵士を一人も殺さずに潜入できるか?」
「なぜです? 邪魔なものは殺せばいいんです」
「それは駄目だ。前にシェンに作った特殊能力は使えないのか?」
確か……【隠密】【無音】【堅固・忍耐・生体完全断絶】の三つでしたね。
先の二つは使えませんが、七つの美徳は使えますので問題ありませんね。
「すべてではありませんが使えますよ」
「じゃあ、それを使ってマイザー王がいそうな、謁見室、執務室、寝室の三つの場所に転移できるようにしてくれ」
「別にいいですけど、グローリアさんはマイザーをどうしたいんですか?」
「質問を質問で返すようだが、お前はマイザーをどうしたいんだ?」
「はぁ……?」
「滅ぼしたいのか? 恨みでもあるのか? 俺はできればマイザーを真っ当な国に戻したい」
はて?
私がマイザーに恨み……ですか。
マイザー王国が私にした事と言えば、私を無実の罪で指名手配した事くらいですか。別に大した問題でもありませんし、マイザー如きに捕まりません。同じく指名手配されたエレンの事も、私が傍にいるので問題ありませんし……。
そう考えれば滅ぼす理由もありませんね。
「別に何もないですよ。強いて言うなら、エレンを手に入れようとした時点で殺してもいいかな? と思ったくらいですかね……。そうですね。別に殺さなくてもいいみたいです」
「そうだろう? なら頼む」
「分かりました。行ってきます」
マイザーの街に転移してきた私は、路地裏に隠れます。まぁ、堂々としていていいのですが、できるだけバレずに動ける時は動いた方が面白そうです。
正直な話、特殊能力も使わなくても一般人になら気付かれない自信はありますし、王城までは簡単でしょう。
王城に入れば少しはできる人もいるでしょうから、軽く気配を探って特殊能力を使うか決めましょう……。
……。
まぁ、結果は特殊能力を使わなくても、誰にも気づかれる事もなくグローリアさんに潜入して来いと言われた所に入れました。
謁見室にマイザー王がいたのですが、まったく気づかれませんでした。気配を消しただけなんですがね……。
私は転移魔法を使いマイザーの城下町へと転移します。
「ふむ。これでグローリアさんから頼まれた場所には直接転移できるようになりましたね」
しかし、マイザーの兵士というのは本当に弱いのですね……。こんな状態でギルドを敵に回してどうにかできると思っているのでしょうか?
「まぁ、マイザーがギルドに滅ぼされようと、裏から操られようと関係ありませんね。帰りましょう」
私はグローリアさんの執務室に転移します。
執務室にはグローリアさんはいません。どうやら、今は誰かと謁見中みたいです。
暫く執務室で待っていると、疲れ切ったグローリアさんが入ってきました。右手にはロープでグルグル巻きにされた誰かが引きずられています。
「レティシア、帰ってきてたのか」
「はい。随分と疲れていますが何かありましたか?」
「あぁ。さっきまでギルガが来ていたんだ。そういえば、ギルガ達はエラールセに自由に来れるのか?」
「え? あ、はい。私達の拠点に転移魔法陣を設置しました。前までは扉で行き来していたのですが、扉を通るときに結構魔力を使ってしまうので封印したんです。それで、ミーレル鉱山の時に新しい転移魔法陣を書いたのでそれと同じモノをセルカの拠点とエラールセの拠点に書いておきました」
「それで、早速抗議に来たのか……」
「抗議?」
「どこから洩れたか知らんが、お前を一人でマイザーに行かせた事への抗議だよ」
「あぁ。出発前にエレン達に連絡しましたから」
「それか……」
「ところでそちらの方は?」
「うーうー!」
この顔……どこかで……。
あ、思い出しました。
「この人は……マイザーのアホですか? 捕まえてもう何週間か経ちますけど、随分と元気ですね」
確かに、アホには〈無気力魔法〉は使っていませんが、それでも牢に入れられてたら元気をなくすと思うのですが、随分と元気です。
「あぁ。こいつは自分が王太子だから何もされないと思っているからな。飯もちゃんと与えていたんだが、おかわりを要求してくるほどの神経の図太さだ」
「なぜ、そんな図々しい考えをしているのですか?」
「こんなのでも王太子だからな。今は丁重に扱わなきゃいけないんだよ」
「そうなのですか?」
私はアホの顔を見ますが、怒りで顔が真っ赤です。でも口に布を詰め込まれているので、喋れないようです。
「それで? これからどうしますか?」
「あぁ。まずは謁見室に転移してくれないか?」
「行くのは私とグローリアさんとアホですか?」
「あぁ。この三人で行く」
「危険ではないですか?」
「お前本気で言っているか?」
ふむ。
マイザーの兵士如きにやられませんね。死ぬとしたらアホだけです。
「そうですね。危険なんてありませんね」
「そうだろうな……」
「うーうー!」
うるさいです。
私はアホを一発蹴っておきます。アホは一発で大人しくなりました。
「お、おい。殺したのか?」
「え? 軽く蹴っただけですよ」
ちょっと蹴っただけですけど、泡を吹いています。汚いです。
グローリアさんがアホが生きているかを確認しに行きます。少しホッとしているので生きているでしょう……そもそも、この程度で死なれたら困ります。
「まぁ、いい。レティシア、謁見室に頼む」
「分かりました」
私達は、マイザー王城の謁見室へと転移しました。
この話で三章を終わる予定でしたが終わりませんでした。




