33話 再生の力
一部間違っていましたので修正しました。感想で指摘してくださった方、ありがとうございます。
本来であれば、今日はエレンとカチュアさんの三人で薬草集めをする予定だったのですが、朝早くにエラールセの兵士さんが訪ねてきて、グローリアさんが私と話がしたいと言っているから、お城に来るよう言われました。
薬草集めは楽しみにしていたクエストだったので、お城へ行くのを断ったのですが、兵士さんはどうしてもと帰ってくれませんでした。その兵士さんの姿を見て、エレンが「レティ、大事な用みたいだし行ってあげたら?」と優しい事を言うので、仕方なくグローリアさんに会いに来てあげました。
まぁ、私をわざわざ呼ぶのですから、マイザーを滅ぼす準備でもできたという事でしょう。
「さて、グローリアさん。今度こそマイザーを滅ぼすんですか?」
ついつい笑顔になってしまいます。
「滅ぼさねぇが、あまり滅ぼすって言葉で楽しそうにするなよ」
「はぁ?」
あれ?
滅ぼさないのですか? それは面白くありませんねぇ。
「滅ぼさないと分かったら、急に不機嫌になるな。レティシア、お前には俺とマイザーに行って欲しい」
「マイザーに行くのですか? やはり王を殺すんですね」
「いや……お前にはマイザー王を改造して欲しいんだ」
「改造ですか? 私には人の記憶や性格を変える事はできませんよ」
これだけは【創造】の力を使っても不可能でした。操る事はできても都合のいいように作り変える事は不可能でした。
私としても面白くなかったので、あれから山賊や盗賊を何度か実験体に使いましたが、一度も成功しませんでした。まぁ、別の楽しい実験はいろいろできましたけど……。
「あぁ。それはこいつから説明がある」
こいつ?
いったい誰でしょうかと思っていたら、グローリアさんの足元から黒い蛇がでてきました。
「ヨルムンガンドですか。最近見ないと思ったら、グローリアさんのところに来ていたんですね」
『あぁ。お前の能力についていろいろと聞かれていてな。いろいろ相談に乗っていたんだ。それでお前に一つ聞きたいんだが、お前は【再生】の力はもっているのか?」
「【再生】ですか? 持っていませんよ」
『そうか。なら、まずは【再生】の力を会得した方がいいな』
「会得? 一つ聞いていいですか?」
『なんだ?』
「【神殺し】の能力は本来一つしか持てないんじゃないんですか?」
『お前はすでに【創造】と【破壊】という二つの能力を持っているだろう。これだけでも非常識なんだから三つ目を会得できてもおかしくはない』
「非常識というのは腹が立ちますが、そうなのですか?」
そう言えば、確かに前にヨルムンガンドが言っていましたね。【再生】は歴代の【神殺し】の殆どが覚えていたそうですから、会得するのも簡単と言えば簡単だと思うのですが……。
私がそう考えていたら、エフェットさんが一つの花瓶を私の目の前に置きます。
『レティシア、その花瓶を割ってみろ』
はぁ?
何をさせようというのでしょうか。
まぁ、良いです。
私は花瓶を思いっきり殴ります。
「えい」
私の拳が花瓶に当たると、花瓶は粉々になってしまいます。いえ、塵と化してしまいました。
『誰が砕けと言った? 粉微塵になっているじゃねぇか』
「駄目ですか?」
ヨルムンガンドは少し考えていた後、ため息を吐きます。
『うーん。これで成功すると思えんが、試してみるか……。レティシア、これを見てみろ』
「はい?」
ヨルムンガンドは花瓶の絵を持っています。この絵はさっき砕いた花瓶ですね。
『これをイメージして直るように念じてみろ』
「はぁ……」
直る様ですか……。
元の形に【創造】してしまいそうですが、そうではないという事ですね……。
直すですか……。
砕けた塵を集めるのをイメージして……。
直すのをイメージですね……。
「えい」
私が魔力を流すと花瓶だった塵が集まっていきます。そして塵が一か所に集まり元の花瓶の形に戻ります。
これにはグロ―リアさんも驚いていました。
「花瓶が直ったな……」
『あぁ。まさか、一度で成功すると思わなかった。こいつは本物の天才だな。レティシア、それが【再生】の力だ』
「これがそうなのですか? これは治療魔法ですか?」
『いや、人間には作用しないはずだ。あくまで無機質なモノだけに効果が出る。ただし、ある部分が壊れた人間には別の効果がある』
「はい? ある部分ですか?」
『あぁ。心が壊れた廃人に【再生】を使うと、どんな悪人でも真人間になるそうだ』
「確信ではないのですか?」
『あぁ。過去の【神殺し】が【再生】を廃人に使ったとは聞いた事がない』
「はて、使った事がないのにどうしてそんな効果があるとわかるのですか?」
『あぁ。それは我が読んだ文献にだな……』
「はい? 蛇になる前はトカゲでしたのにそんなモノを?」
『あぁ。今は無理だが、人間に化ける事も可能だったからな』
「そうですか……まぁ、どうでもいいですけど」
『お前が聞いといて、興味無さそうだな』
「はい。どうでもいいです」
私はヨルムンガンドを無視して花瓶を持ち上げます。ふむ。しっかり直っている様です。ヨルムンガンドは面白くなさそうです。
そんな私達を見てグローリアさんはため息を吐きます。
「二人共、話が進まない。エフェット、アレを連れて来てくれ」
アレ?
エフェットさんが一人の男を連れてきました。男の目は虚ろです。あぁ、この人はミーレル鉱山を襲ったマイザーの兵士ですね。魔法をかけた記憶が……無いですが、多分そうなのでしょう。
「まだ生きていたんですね。無気力なのによく生きていましたねぇ……この人以外はどうしたんですか?」
「あぁ。コイツとプアー以外は全員処刑した。こいつは実験に使う為に治療師の力を使って無理やり延命したんだ。プアーは交渉の為……いや、これからのマイザーの為に生きていて貰った」
どうやら間違ってはいなかったようです。良かったです。しかし、これからと言いましたか?
「これから?」
「あぁ。ヨルムンガンドの話が本当ならば、マイザーが立ち直るきっかけになるかもしれない」
「立ち直る? マイザーはギルドに喧嘩を売ったんじゃないんですか? 立ち直す必要があるんですか?」
「ある。マイザーにも国民がいるからな。マイザー王は個人であって個人じゃない。だから、王がまともになれば少しはマイザー王国という国もマシになるだろう」
「ふむ……。まぁ、いいでしょう」
私は男の額に手を当てます。
「じゃあ、【再生】」
男の体が光り、そして男の死んだ目に光が入ります。
「え? ぼ、僕は一体……。いや、僕達はなんて事を……」
男はキョロキョロと周りを見回した後、急に泣き出します。気持ち悪いですねぇ……。
グローリアさんは立ち上がり、男の胸ぐらを持ち男を立たせます。
「おい。お前が何をしたか覚えているのか?」
「は、はい。僕はマイザーの兵士としてミーレル鉱山の鉱夫達を皆殺しにしようとしました」
あの程度の強さで鉱夫さん達を皆殺しに?
ふふっ。面白い事を言いますねぇ……。
グローリアさんは男の顔をジッと見ます。
「お前はどう罪を償うつもりだ?」
「はい。命で償えるのであれば、処刑してください。うぅ……。あんな愚かな事をした僕は二度と日の下を歩くなんて恥ずかしい真似はできません。殺してください!」
「そ、そうか……」
グローリアさんは護衛騎士さんに男を牢に入れて置くよう命令します。男は泣きながら護衛騎士さんについていきました。
「確かに真人間になっているな……。気持ちの悪いくらいに……」
「そうですね。それでどうするんですか?」
「なにがだ?」
「アイツです。あのアホにも魔法をかけますか?」
プアーというアホにもかけると言っていました。あんなアホを真人間にしたらどうなるんでしょうね。
「いや、アイツはまだ利用価値がある」
「そうなのですか?」
「あぁ。覚えているだろうが、兵士には〈無気力魔法〉を使ってもらったが、プアーには使っていなかっただろ?」
「あぁ。そういえば使っていませんねぇ……今でもうるさいのですか?」
「あぁ。アイツは元のままの方が役に立つからな……」
元のままの方が役に立つですか……。
アホが何の役に立つのか見ものですね……。




