31話 グランドマスター グローリア視点
今回はグローリア視点です。
この女がグランドマスターだと?
仮面をしていて顔は分からないが、若いというのは分かる……。こいつも不老という奴か……。
だが、こいつが本物のグランドマスターだとは限らない。表に姿を現すという事は影武者の可能性もある。
「あんたが本物のグランドマスターなのか?」
「そうだよ……。ただ、それを信じるも信じないも、お前達次第だ……」
声は低い。
体つきは女……声は男か? いや、声の低い女か?
どっちだ?
いや、今はそれはいい……。
「あんたが本物と信じて……こんな所に一体何の用だ? あんたは人前に滅多に現れないと聞いたが?」
そもそも、その存在すら疑問視されてきたのに、いきなり目の前に現れられても信じる事はできない。ただ……。
こいつからはレティシアと同じ気配がする……。
レティシアからは独特の危険な気配……ドス黒い殺意の気配を感じる時がある。それと同じモノをこいつから感じる。
「なに、君達が私の事を調べようとしているから釘を刺しに来ただけだよ」
「なんだと?」
「君達が私の正体を探ろうとしている事についてだね。まだ……死にたくはないだろう?」
グランドマスターは仮面をつけているから表情は分からない。しかし、嗤ったのは分かる。そして、グランドマスターが殺気を放ち、机の上に何かを置いた。
「「「な!!?」」」
人の頭?
この男は何者だ!?
俺がアセールを見ると、アセールは頭を見て青褪めている。知り合いか?
俺達が驚いていると、グランドマスターから殺気が消える。そして、ケタケタと笑いだす。
「ははは。何を驚く? この男は罪人だよ。この男は私の部下で冒険者ギルドのシンマスターだった男だ」
し、シンマスターだと!?
冒険者ギルドの頂点を殺したのか!?
な、何を考えている!?
「な、なぜシンマスターを殺した!?」
「彼はシンマスターの地位を使ってマイザーと裏取引をしていたんだよ。一月に一度女性冒険者をマイザー王に献上するというね……。それで情報を流したりもしていた。許せないじゃないか……。それで粛清したに過ぎない」
「な、なに?」
グランドマスター自らが殺したのか!?
「う、裏付けはあったのか?」
今まで黙って聞いていたカンダタが口を開く。
しかし、グランドマスターは意味が分からないと首を傾げている。
「なぜ、そんなモノが必要なのだ? 私がそうだと言えばそうなのだよ」
ふざけるなよ。
上に立つ者がそんな短絡的な考えが許されるわけが……。
「ご、傲慢な……」
「そうかな? 狂皇と呼ばれた皇王グローリア陛下。君も随分と好き勝手しているみたいじゃないか……。私としてもそれは看過できない」
「なんだと? ギルドと国はお互い不干渉のはずだ。それを、お前が口を出すと?」
これだけは譲れるわけがない。これを許してしまえばギルドが暴走しちまう。
「君としてもエラールセからギルドが無くなるのは困るだろう?」
「くっ……。脅しているのか?」
「別にそんなつもりは無いよ」
確かにギルドがなければ困る。確かにその通りだ。
しかし、ギルドが国王のやり方に口を出すのは許されないはずだ。いや、俺が許さん。
「ははは。威勢がいいね。でも、言動には気を付けるんだね。私はこう見えても千歳を超えている。君達のようなひよっことは格が違うんだよ。年長者にはそれ相応の態度があるだろう?」
「な、なんだと?」
やはり不老か。
しかも千歳だと? どれだけの長い時を生きているんだ!?
「ふふっ。緊張しているな。今日君達の前に現れたのは一つは釘をさす事。もう一つはカンダタ。君に言いたい事がある」
「な、なに?」
「君がシンマスターをやれ」
「な!?」
か、カンダタがシンマスターだと!?
カンダタはレティシアの事に詳しい。レティシアの情報がギルド側に漏れるのは困る。
「カンダタはセルカのギルドマスターだ容認できないな」
「なぜ皇王の許可が必要なんだ? これはギルドの問題だ。さっき君が言ったじゃないか」
くっ……。
さっき、俺が内政に干渉するなと言っていたばかりだ……。クソっ。カンダタを信じるしかない。
「ふふふ。カンダタ……どうするんだい?」
「お、俺は……」
普通であればシンマスターになれるとなれば喜ぶはずだ。しかし、カンダタは迷っている……。
グランドマスターはその様子を楽しそうに見ている。くそっ……。
「まぁ、答えは急いではいないよ。それと、グローリア陛下。これは忠告だ。私の事を詮索しない方がいいよ。私の怒りに触れたなら私は国王だろうと……躊躇いなく殺すよ。じっくり考えると良い」
グランドマスターはそう言って消えた。
き、消えた!?
て、転移魔法でもなく消えただと!?
「き、消えた……。転移魔法を使った形跡すらない……。姿を消しているのか?」
俺は気配を探る。
しかし、グランドマスターの嫌な気配を感じない。
俺はギルガにも確認を取ってみる。
「ギルガ……気配は?」
「どこにも感じない。もういないはずだ……。あれがグランドマスターか……」
ギルガの顔に汗が流れている。こいつほどの強さでもここまで緊張するのか……。
「ギルガ……お前はどう感じた?」
「レティシアと同じだ……得体のしれない強さを感じた……」
やはりギルガも同じか……。
俺はずっと黙っていたアセールを見る。アセールは俯いて黙っている。
「アセール……。あれがお前が尊敬するグランドマスターか?」
「そうや……。し、しかし……くそっ!」
アセールは机の上に置かれたシンマスターの首を見て……泣いている。
「この爺さんは良い爺さんやった。そんな爺さんがマイザーと裏取引なんて……あり得へん……。きっと誰かに騙されたんや……」
アセールは、俯いて静かに泣いていた。
しかし、グランドマスターはなぜ調べもせずに殺したんだ? もしかして、アセールの知るこの爺さんとは違う裏の顔があった?
もしくは……レティシアを手に入れる為に、カンダタをシンマスターにするのに邪魔な前任者を殺した?
分からねぇが……、一つだけ言える事がある。
「どちらにしても、これ以上はグランドマスターの事を調べない方がいいな……」
「あぁ……。アレはレティシアと同じ感じがした……危険すぎる」
ギルガも俺の意見に賛成のようだ……。
カンダタには後で話をしておかなければいけない……。
ここでアセールが虚ろな目で何かを言い出した……。
「ち、違うんや。グランドマスターは普段は優しい口調の方なんや。ギルドを立ち上げたんかって人間の暮らしをよくするためなんや。ただ自分の事を詮索されたくないだけなんや……」
「そうか……」
俺はアセールのその目を見て……何か違和感を感じたが、これ以上の詮索は止めた……。




