30話 男三人の秘密の会談 ギルガ視点
セルカの冒険者ギルドからギルドマスターであるカンダタさんを連れて、オレはミーレル鉱山に戻ってきていた。
カンダタさんはあまりグローリア陛下に会いたくないのか、嫌そうな顔をしている。
「なぁ、ギルガ。なぜ俺まで呼び出されたんだ?」
「さぁな。考えられるのは、オレ達二人がレティシアの保護者だからだろうな」
「保護者はお前だろう?」
「ははは。カンダタさんも協力すると言っていたはずだが?」
「そんな事を言ったっけな?」
「とぼけるなよ……」
オレ達が鉱山入り口に立っていると、宰相であるエフェット殿がオレ達に声をかけてくる。
陛下がいると案内されたのは酒場の一室だった。部屋の中では陛下が一人で酒を前に目を閉じ腕を組んでいた。
「よぅ。来たな」
「陛下。お久しぶりです」
「カンダタ、俺とお前の仲だろう? そんな堅っ苦しい言葉遣いはいらねぇよ。二人共、座ってくれ」
オレ達は陛下と対面になるように座る。すると陛下が酒を取り出しオレ達に注いでくれた。王族に酒を注がれる事は滅多に……いや、普通はあり得ない。
「まぁ、飲みながら話そうや」
「そうか? なら普通の口調で話をさせてもらう。まず聞きたいのは、俺達をここに呼んだのは、俺達二人がレティシアの保護者だという事と関係があるのか?」
「大ありだ。お前等はレティシアをどうしたい?」
「どうしたい? まさかと思うが、アイツを利用しようと思っているんじゃないだろうな……」
一国の王としてはレティシアを利用したいというのは理解できる。そのくらいレティシアは強力な力を持っている。
例えばだが、レティシア一人がいればすべての戦況がひっくり返る。今回だって、マイザーを滅ぼそうと思ったら、レティシアをマイザー城に放り込めばいいだけだ。
……だが。
「レティシアを利用しようというのなら、あんたが皇王だとしても許さない」
さすがに不敬だとは思うが、これだけは譲れない。
アイツは今までは無茶苦茶だったが、まだ十六歳の女の子だ。できれば普通に生きさせてやりたい。
「許さん? それは本当にレティシアの為か? それはお前等のエゴでしかないんじゃないのか?」
「な!?」
「それはレティシアの意志か? もし、アイツにとってその行為がストレスに替わっていたとしたらどうする?」
これは否定できない。
アイツは戦闘ができないと、とてもつまらなそうにしている……。
「おいおい。二人共。自分達が正しいと思うのなら、必死に反論するなりなんなりして来い。そうじゃないと、お前等まで、俺みたいな奴に良いように使われるぞ?」
「「くっ」」
オレ達二人は何も反論できなくなる。
……しかし……。
「ギルガ。俺が一番心配しているのはレティシアの奴がギルドに利用される事だ」
ギルドに?
まさかと思うが、ギルドまでレティシアを狙っているのか? カンダタさんがレティシアの事を上に報告したのか?
「ギルドだと? 冒険者ギルドのギルマスの俺にはそんな話は下りてきていないぞ。それどころか、俺はレティシアの情報をシンマスターに報告していないんだぞ?」
「カンダタから洩れたんじゃない。レティシアの情報をシンマスターに報告したのは恐らくラロだろうな」
「ラロ? マイザーの英雄か?」
「あぁ。俺独自の諜報機関からの情報だが、ラロにはいくつかの神の加護……特殊能力が報告されている。それが【神眼】【未来視】七つの美徳【知恵・知識・読心術】の三つに加え、ラロ自身の経験則と考察力、それによりSランクの本当の使命に気付いたそうだ」
「な!? じゃあ、ラロにレティシアを見られていたら……」
「あぁ。ラロならレティシアの異常さにも気づくだろうな」
「しかし、もしレティシアを見たのなら、その存在は危険さに気付くはずだ。正直、扱いに困ると思うんだが……」
確かに……。
レティシアは仲間に対しては行動としては大人しいし優しいと言えるだろう。しかし、それにいい気になって、もし利用しようと考えて敵認定されれば、こちらが殺される。アイツは危険すぎる力を持っているが、考えが幼いから好意を見せてくる相手には結構簡単に懐いたりする……。
「扱いきれる前例があるじゃないか」
「ぜ、前例?」
「リーン・レイ、お前達だよ。お前達はレティシアを完全に制御している。アイツがセルカに来るまでに殺した人間の数を知っているか? 特にカンダタ。お前は特に詳しいんじゃないのか?」
「そ、それは……」
カンダタさんはカススの町の事を知っている。って、ちょっと待て。どうして陛下がその事を知っている?
カススの町の事はギルドの中でも極秘扱い……そもそも、生き残りが一人もいなかった事から、なぜ滅びたのかも謎だったはずだ。俺の場合はレティシアと当時調査に行っていたカンダタさんがいたから知ったというだけで、レティシアが絡んでいる事は……まさか。
「陛下もラロとつながっているのか?」
「いや。俺はつながっていないぞ。ラロとは会った事もない。だが、俺の諜報員の中にも優秀なのがいてな。そいつのおかげでカススの事も知ったんだ」
「か、カススの件の事をギルドにも報告したのか?」
「いや、俺はしていない。だが、ラロが知っているかもしれない。カンダタ、お前に聞きたいのだが、グランドマスターって何者だ?」
「なに?」
「お前はギルドの上層部ともつながっているだろう? 冒険者ギルドのシンマスターはお前をかわいがっていたはずだ。お前はグランドマスターとは会った事があるのか?」
「いや、俺は知らない。正直な話、存在すらも疑っていたからな……」
カンダタさんですら知らないという事は、グランドマスターの存在を知っているのはシンマスターとSランクだけって事になる。
Sランクか……。手頃に脅せそうなやつが一人いたな……。
「陛下。アセールはもう帰ったのか?」
「いや、酒場で飲んでいるはずだ……。お前、何をするつもりだ?」
「グランドマスターの事を聞き出そうと思ってな……」
オレはついつい悪い顔になってしまう。
「そうだな。いま一番情報を持っているのはアイツだ。エフェット連れてきてくれ」
「はい」
暫くすると、泥酔したアセールが部屋に連れてこられる。
「な、なんやぁ~?」
「だめだ。完全に酔っていやがるから……話になりそうもないな……」
「殴るか?」
「いや、殴っても無駄だろう……。はぁ、エフェット、酔い止めポーションはあるか?」
「ありますよ」
陛下はアセールにポーションをぶっかけた。するとアセールの赤かった顔がみるみる赤みが引いて行く。
「なんや? いい気分で飲んどったのに……。って、グローリアはんに、剣聖ギルガ、それに鬼神カンダタか。そうそうたるメンバーやがワイに何の用や?」
「お前に聞きたい事がある。グランドマスターの正体を教えて貰おうか?」
「あ? グランドマスターか? それを調べるんは止めとけ。消されるぞ?」
「なに?」
「俺らでもグランドマスターの正体までは分からん。昔、グランドマスターの事を調べていたSランクがいたんやけど、何者かに殺された。殺した相手は誰かは分からんが、その殺されたSランクはワイ等よりも遥かに強かったんや……。多分、ラロも正体までは知らんのとちゃうかな?」
「そ、そうか……」
アセールでも知らないか……。
独自に調べる必要が……、なぜアセールの顔が青褪めているんだ?
「ぐ、グランドマスター……?」
な、なに!?
オレ達はアセールの視線の先を見る。そこには、目の穴すらない仮面をつけた銀髪の女性が立っていた。
体つきからまだ若いのは分かる……。しかし……。
「面白い話をしているな。私もぜひ混ぜて貰おうか?」
グランドマスターと思われる女はそう言ってオレ達の前に座った。
次回はグローリア視点です。
唐突にグランドマスターが現れました。(方向性がおかしくなってきたので焦るなぁ……冒険者はどこにいった……)




