嘘の日
日が昇る頃から大きなサイレンが街中に響き渡る。とある記念日を理由にして世界は治安が悪くなり、犯罪の件数が大幅に伸びた。ある者は放火をし、ある者は強盗をした。人々は
「エイプリールフール!!」
という呪文のような言葉を連呼し、現場を逃げ去った。多くの事件は街中を混乱へと導いた。
S氏はこの日を良く思っていた。世界で小さな嘘から国家を変動させるレベルの嘘が飛び交い、テクノロジーの力でたくさんの嘘はどこまでも広がり続ける。日常に飽きていたS氏はこの日を存分に楽しんだ。楽しむだけじゃ物足りないと感じたS氏はこの記念日を使い、ある事をしようと考えた。彼にはお金が無く、三食食べることさえ出来なかった。働きたくはないがお金は欲しい。そんな人間が考える事は銀行強盗だった。これだけ多くの犯罪が飛び交っている状況でひとつの銀行が強盗にあったくらいでは警察は動けない。なぜならもっと多くの卑劣な犯罪が起きているからだ。そう解釈したS氏はカバンに目出し帽や拳銃を入れ黒い服を身につけ銀行へと向かった。家を出る時に時刻は11:50を回っていた。15分かけて銀行に着き大声でこう言った。
「おい!!強盗だ!!手を上げろ撃つぞ! 」
「ドン!!」
天井に1発鉛玉をぶち込み客や従業員を怯ませた。
従業員は急いでS氏にお金を渡し、同時にS氏に見られないように警察署へ連絡をした。その行動のおかげで完璧だと思い、家路を走っていたS氏はすぐさま捕まった。
「おい離せ!エイプリールフールの日なんだから他にもっと酷い犯罪が起きているだろ!」
反抗するS氏に警察官はしびれを切らして大声で怒鳴った。
「犯罪に大きいも小さいもあるか!!それに今の時刻は12:16だ。エイプリールフールで嘘をついていいのは正午まで。どっちにしろもう犯罪は殆ど起きていないぞ。」
それを聞いたS氏は落胆し、大人しくパトカーに乗り込んだ。