妹と自立
えーと、ここはツリーを使って、と。
「お兄ちゃん、何を書いてるんですか?」
聞いてくるのはもちろん未来だ、俺は今実装しているコードをそのまま説明する。
「ヒープソートだぞ、いろいろ難しいんだよ」
「ああ、あの面倒な構造ですか」
「身も蓋もないな、その言い方だと」
「だって実際面倒じゃないですか。 ツリー構造を作るより人間がツリーにあわせて書いた方が楽だと思うんですけど」
気持ちは分かるんだがそれを言っちゃあおしまいだろう、人のために機械があるのであって機械に人が合わせるのは目的に反している。
「楽がしたいんだよ、楽が」
「む、お兄ちゃんはやっかいごとを抱え込むのが好きですね。そんなに大勢使ってくれるものを書いてるんですか? 私が使ってあげてもいいですけど、使い方を気にするほど大勢使ってくれるのは難しいですよ」
そうだな、俺のコードを使ってくれる人ははっきり言って少ない、サーバのアクセス解析がそれを証明している、いるのだが……
「いいだろ、夢と野望は大きい方がいいんだよ」
「大きすぎて普通の人の手に余ると思いますけどね……」
ビッグマウスなのは分かっているが、希望がないとそもそも書き始められないのだ、例え見切り発車でも手をつけることから始まるのだと思っている。
「見得を切るって大事だぞ、ユーザはそもそもできてもいない者にはいないんだよ。完成すれば多少拙くても数人くらいはつくしな」
「お兄ちゃんに私以外の人が関わるとか……ぃゃ……」
「なんだ?」
「なんでもない! お兄ちゃんは私を頼ってくれればいいの!」
俺も頼ってるのは自覚してるので少しは自立しないと、と思ってやってるんだが……
「俺も成長してるんだよ、一人で何かできると気分がいいんだよ」
「私はお兄ちゃんに頼ってるのにお兄ちゃんが私に頼らないなんて……」
頼ってるのだろうか? むしろ俺の方が頼ってる気がするんだが。
そうこうしているうちにお風呂に湯が入ったのでそちらに退散した、「逃げるの?」と言っていたが逃げるが勝ちだろうな。
「おっと、なんかメールか?」
風呂に持ちこんでいたスマホが音を立てる、ちなみにもちろん防水仕様だ。
なになに……「どうすれば人に頼られるコードを書けますか?」
差出人は俺のリポジトリに定期的にコードを送ってくれるMiraiさんだ。
俺よりすごそうなこの人でも悩むんだな、とちょっと安心した。
「うーん、自分の実力を説明すればいいんじゃないかな……」
そう返信して湯船から上がる。
自室に帰る途中、未来が「私はちゃんとプログラム書けるんですよ」という謎のアピールがあったが、それをいなして布団に入るのだった。




