ある兄妹のすれ違い
俺は東仙葉瑠、高校生だ。
高校生とは言ってもあまり真面目な方じゃあない。
今日もいつものように暇つぶしで作ったインスタントメッセンジャーをOSSリポジトリに登録している。
プログラミングは学校での勉強などよりずっと楽しい。
最近はPCようのソフトばかり書いていたので、スマホ用のアプリを書くのは久しぶりだ。
ちなみにAndroidである。appstoreは結構高額な年貢を取られるので公開していない。
Swiftがそれなりに良い言語であることは否定しないが、あの金額を払ってまで公開したいとは思わない。
カチャッ。
ssh鍵のパスフレーズを入力して今日の成果をデプロイする。
実のところあのまだるこっしい審査が無いのもandroidを選んだ理由だったりする。
「お兄ちゃん、ご飯ですよ」
階下から妹の未来の声が聞こえてくる。そうか、もう晩飯か。
「遅いですよお兄ちゃん」
「悪い悪い、ちょっとキリが悪かったからさ」
ソースを書いたらコミットするのが習慣になっているので、書きかけで離れるのはどうも心地よくないところがある。
「はぁ……しょうがないですね、あれ?」
未来がスマホを見ている、食事中にはどうかと思うのだが……
スマホを眺め終わると突然食べるペースを上げてあっという間に食べてしまった。
「お兄ちゃん、ちょっと用事ができたので部屋に戻ります。自分の食器は片付けておいてくださいね」
そういうとさっさと部屋に帰ってしまった。
両親は毎日遅いので二人きりの夕食がほとんどなのだが、たまにこういうことがある。
驚きはしないが少し寂しいものがあるな……
そういえば未来のやつスマホ買ってからLINEをやってる風でもないのに通知でワクワクしてるようなことがあったな、なんか楽しいことでも見つけたんだろうか。
湯船につかりながら、そういえば最近俺のリポジトリにスターをつけてくれるmiraiというユーザがいたなあ……などと考えていた。
風呂上がりにメールをチェックする。
パッチをマージしてくれと言うmiraiからのリクエストが届いていた。
内容をざっと見ると、「空キャッチしている部分のエラーハンドリングをお願いします」という内容でリポジトリにパッチが上がっていた。
パッチをマージしながら、この人俺の書いたソフト全部見てるんだろうかなどと思いながら修正をしてデプロイした。
一方隣の部屋-----
「よしっ!」
今日はHALさんが新しいソフトを作っていたので早速ソースを見てみた。
「相変わらず、問題にならないところは手抜きだなあ」
この人は自分以外が使うことを考えてないんじゃないだろうか?
そんなことを考えながらdiffをとってパッチを送る。
------
あっという間にマージされた。
この人はもう少しリリース前に考えるべきなんじゃないだろうかと思いながら、自分が顔も知らない誰かの役に立てたと言うことに満足しながらベッドに入った。
今日は良い夢が見られそうだ。




