愚かしくて憐れなる人へ
私には逆らわないことが利と考えてのことなのでしょう。
根端も野心も、隠れることなく見えていましたから、そういう人を見ますと、どうしても悪戯をしたくなってしまうのです。
本当に私に仕えたいと思ってくださった方とは、やはり異なる扱いをして差し上げたいものではありませんか。
そのつまらない野望のために、どれほどのことができることでしょう。
興味のままに私は動き続けました。
欲ではなく、よりよくをモットーに政策を執り行っている私ですから、ストレスの発散場所が必要だったのでしょう。
元々の私の性格のせいもあるのでしょうが、趣味とも言えるその場所で、己のために私に近付く人というものを試してみたく思えてしまったのです。
私への忠誠のために、何を疑うこともないのでは面白くありません。
私への忠誠のために、嫌なものを嫌と言えてしまうのでは、その立派さを称え許してしまうことでしょうし、そうした人の嫌がることをしたいとは思いません。
そう、嫌だと仰るのなら、私は無理強いはしないのです。
「ご主人様とお呼びなさい」
「きちんと私に跪きなさい」
「足を舐めてはいかがです?」
私の築く新しい世の中なのだと言えば、見るからに嫌々であるのに、笑顔で喜んで引き受けてしまわれるのです。
随分と強い執念を持っているものです。
私のことなど大嫌いでしょうに、犬らしく尻尾を振っているのですから。
その姿は滑稽で、私を楽しませるには十分のものでした。
従順な仮面を被りながらも、決して従順などではなくて、隙あらば私の枠を狙っているところが、空気として漏れ出てしまっているのです。
それがおかしくて、私のような人では思ってしまうものですよ。
征服したい、とね。
私の統治に、老若男女など関係ありませんし、覚悟も必要なものです。
甘い覚悟で着ているというのならば、私が直々に躾をして差し上げましょう。
この私のために忠実で賢い犬に仕上げて差し上げましょう。
悪い子にはお仕置きをして、売り言葉に買い言葉、奈良を本当に捨てるような人には、全力をもってして居場所をなくすことをしてあげるのです。
帰ってくる場所をなくす、奈良を去る手助けだとも言えますね。
徐々に新しい世界は完成へと近付いていて、徐々に私に洗脳されていくのです。
課税をするたびに不満があるようで騒ぎ立てていた人たちも、今となっては、課税を求めて抗議して、私に貢げると喜んでいるくらいなのですから。
変化していく風習は、堪らなく魅力的なものですね。
私の世界ではなくて、私が世界になることも、そう遠い日ではなさそうです。
全てを終わらせて、全てを変えていって差し上げますよ。
狂おしいほどに。変わっていることに気付かないほど、自然に、全てを覆すのです。