悪女と呼ぶなら呼ぶがよろしい
市民が平等であることを謳って、だれもが幸せであるようなふりをするのです。
そのようなことがありえるはずもありません。
私を崇めなさい。
これは決められたことなのでした。
権力と財力を授けてくださり、それに加えて、この美貌もくださった両親には、しっかりと感謝しなければなりませんね。
生まれ落ちたその瞬間から、選ばれた存在であるこの私は、運が良いだとか、そういう次元の話ではありませんでした。
この美しい顔が、あとほんの少しばかりでも醜かったなら。
父が母だけを愛する愛妻家ではなく、よりたくさんの子を作ってしまっていたなら。
まるで同じ条件であったとしても、少しだけでも時代がずれてしまっていたなら。
僅かな違いでもこうはいかなかったであろうからこそ、私がいかに神に選ばれた存在であるかということの、証明であるような気がしました。
生きていくことさえ困難で、日々の命を繋ぐために、右往左往しているだなんて笑えてしまいます。
「お疲れ様です」
零れた笑いに気付いてもいないのか、私の慈悲の心を思い込んで、ありがたがってなどいるのです。
米作りを協力して行い、格差などない平等を信じる、そんな古い時代はもう終わるのですよ。
そもそも、私の頭の辞書は、いくら探そうと協力という文字が見つからないのです。
他人と協力して、努力してだなんてこと、経験がないものですから、私は知っているはずもないのですよ。
私は私であり、唯一無二の、特別な存在であり続けました。
私を崇めなさい。
それが正であることは間違えないことであり、確実なことでありました。
この世界においては、私を崇めることが、正しいこととして罷り通ってしまうのです。
もちろん、そうなる道は両親が私のために用意してくれたものでありますし、私が維持しようと凛としているところです。
けれども信じきられて、私が神であることが、常識的な事実になって来ていることは、やはりどうしても面白おかしく思えるのでした。
このまま上手く騙していけば、くにの全ては私の思いのままになりましょう。
滅ぼすつもりはありませんが、私が消えてしまったときに、滅んでしまうこととなりましょう。
そうなったら、私を悪女として後世へと伝えていくがよろしい。
私の生きている間さえ、夢を見させておけば良いのです。