第五話 安珠白臣
「眞白も僕と同じになるのか……嬉しいなぁ…………フフ……」
ボソボソと呟き、自己満足したように唇を押さえて含み笑いをした。目は半円状に弧を描き、何も知らない人間なら「気持ち悪い」とさえ思い距離を置く表情だ。
「…………何それ、キモ……」
眞白も御多分に漏れず、眉間にシワを寄せながら1m先まで聞こえるかすらどうか、わからない声で率直な感想を述べた。人間として生理的嫌悪から、口から滑り出た軽蔑の文句を訂正する気にはならない。
眞白の中で青年のレッテルが「ストーカー」から「変態」に昇格した。どちらも気持ち悪いことに変わりはないが、実際大差ないのである。
ストーカー被害の主な手法として「監視していることをショートメッセージで示唆する」ものだったが、目の前に立つ年端もいかない爽やかな青年が行っていたとなると疑問すら浮かぶ。
「ああ、まだ名前を言ってなかったね……僕は安珠白臣。眞白を護るための天使さ」
眞白の軽蔑に気づいていないのか、気づいているが気づいていないふりをしているのか、聞く耳を持たぬように青年は自己紹介をした。内容はさる事ながら、眞白はまた眉を寄せた。
「キモい上にイタい……」
眞白は青年、もとい白臣に対して恐怖ではなく中二病の匂いを感じていた。
目頭を押さえ、苦悩する素振りを見せ冷静になると同時に講堂から一人の大学生が背伸びをしながらのんきに出てきた。
だがリラックスしたのは一瞬のみで、すぐに息を呑んで硬直した。
「ヒッヒィ!」
男性の大学生は情けない声をあげ腰を抜かす。それもそのはず、廊下に出て早々、同期の目の前に見知らぬ青年が立っていたり、足元や周囲には三人ばかりの人が倒れている。驚くなという方が無茶である。
「あーあ……見つけちゃった」