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零下273~君が君から去った日~  作者: 五速 梁
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第一部「統郷」 都倉(1)

                 


 部屋でぼんやりラジオを聴いていると、ローボードの上の電話が鳴った。取ると母の声で「西江さんって子から電話よ」と告げられた。切り替えると飛波の声が耳に飛び込んできた。


「もしもし、野間君ですか?」


 僕は一瞬、耳を疑った。あの上から目線の飛波とは思えない、おずおずとしおらしい口調だったからだ。


「——なんてね。……どう?今の感じ。ちょっと君に気があるクラスメイトって設定だったんだけど」


 飛波は口調をがらりと変えると、喉の奥でくっくっと笑った。


「くだらない悪戯はやめろよ。普段、うちの家族が耳にしない名前だから、あとで母さんに根掘り葉掘り聞かれるかもしれない」


「聞かれたらこう答えて。とっても頭が良くてチャーミングなアイドルだって」


 飛波は悪びれることなく、言い放った。まったく、一昔前の携帯電話だったら、こんなバカな悪戯に巻き込まれずに済むのに。


「じゃあ今日はこのくらいで止めとくわ。……それから、あれこれ聞かれても、この間からしている話は、たとえ家族でも絶対に言ったらだめだからね。もし約束を破ったら……」


「僕の居場所はどこにもなくなる……だろ?」


「ピンポン。……それじゃ、本題に入るわね。例の暗号を知っている人物は、都倉彰吾っていう三十代の男性。キャラクター商品を開発している会社のサラリーマンよ。趣味はアニメとゲームで『トーキング・キッズ』っていうゲーム好きが集まるカフェに週一で通ってる」


「ゲーム好きが集まるカフェ?」


「うん。店に現れるのは大体、土曜日の三時半ごろらしいから、まず君が先に行って待機していて。私はターゲットの都倉が店に入ったのを確かめてから、行くわ。私は店に入ったら、初心者だと言って店員にあれこれ質問する。その際、都倉の詳しい分野は調査済みだから、できるだけ話をそちらのほうに近づけていく。詳しく知りたがってる風を装ってね。で、狙い通り、うまいぐあいに都倉が食いついて来たら、大げさに喜んで「お友達になりたいオーラ」を出すわけ」


「大丈夫かよ。相手は三十代だろ?あんまり期待させたらまずいんじゃないか?ちゃんと会社勤めをしてるからって、女子中学生に手を出さないとは限らないぜ」


「私の事なら心配いらないわ。それより、暗号の事を聞き出すためには君のお芝居が重要なのよ。君にはあらかじめ、彼に対抗できるくらいのマニアックなデータを渡しておくから、メモを見なくてもすらすら言えるくらい、しっかり覚えてきて。いい?」


「あんまり自信ないなあ。暗記物は、苦手なんだよ」


「苦手かどうかはこの際、問わないわ。とにかく覚えて。そして私がオンラインゲームの事を知りたがった時、近寄ってきて自信たっぷりにこういうの。「君、Y中の子だよね?昔のゲームの事なら僕、詳しいよ」って」


「そしたら君は目を輝かせて「本当?」って言うんだろう?」


「またピンポンよ。野間君、冴えてるじゃない」


「同じ話を聞くなら、三十代のおじさんより同世代のほうが楽しい、そういう空気を出すわけだ」


「そう。ただし私がする質問の中には君に与えていないデータもあって、たぶん君は本気で「知らない」って言う。そうするとターゲットは「こいつ、そんな事も知らないのか」って自信を取り戻すってわけ」


「つまり、僕の任務はそうやってオジサンを嫉妬させる係ってわけか」


「そうよ。できるだけ自信たっぷりにふるまって、ターゲットに「この子を取られたくない」って思わせるの」


 やれやれ、本物の悪魔だな、こいつ。


「それで?僕は敗北を悟ってすごすごと店を出て行くわけ?背中に哀愁を漂わせて」


「その前に私たちが出て行くわ。君は一人店に取り残されて相手に優越感を与えるの」


「二人で出て行くって……どこへ?」


「さあ。これから考えるわ。いずれにせよ、ミッションはその日のうちに完了させる必要があるの。日暮れまでには暗号を手に入れて、バイバイってわけ」


「うまくいくかな」


「うまくいかせるのよ、君と私で」


 飛波はあくまでも強硬だった。僕はうんざりしつつ「わかったよ」と言った。


「それじゃあ、この次までに必要な台本を用意しておくわね」


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