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零下273~君が君から去った日~  作者: 五速 梁
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第一部「統郷」 都倉(11)

                                 

「時間ぴったりね。……はい、新幹線のチケット。お金は乗ってからでいいわ」


 地下鉄の改札で落ち合うと、飛波は僕に切符の入った封筒を手渡した。


「いつの間に用意したんだ?」


 僕が尋ねると、飛波は準備がいいでしょ、と笑った。


 僕らは券売機で統郷駅までの切符を買い、改札を抜けた。ホームに出ると、折よく車両が入線するところだった。


「ここまで来たら、もう後には引けないわ。覚悟はいい?」


 飛波が僕の目を覗き込んで行った。僕は半ば自棄気味に「ああ」と言った。


 こうなったらどこへでも行ってやる。


 開いたドアから乗り込み、乗車口の近くに収まったその時だった。


 改札口の向こうから黒いコートの人物が突っ込んでくるのが見えた。


「まずい!」


 僕は「ドアよ早く閉まってくれ」と祈った。願いが天に通じたのか、人物がホームに駆け込むのと同時にドアが閉まり始めた。助かった、そう思った瞬間、僕は自分の目を疑った。


 僕の前にいた女性のバッグがドアに挟まり、隙間が生まれていた。車両はそのままゆっくりと動き出したが、ドアはわずかに開いたままだった。


 コートの人物はゆっくり移動しながら隙間に手をかけると、薄笑いを浮かべながらドアをこじ開け始めた。


 女性客はどうにかしてバッグを引き抜こうと苦心していたが、バッグはびくともしなかった。僕と飛波は思わずバッグのストラップに手をかけていた。


「せーので、思いきり引っ張って!」


 渾身の力を込めてバッグを抜くと、鈍い音がして勢いよくドアがしまった。


「ぎゃっ」


 うめき声が聞こえ、コートの人物がホームに尻餅をつくのが見えた。


 遠ざかる黒い影を見ながら、僕は胸をなでおろした。


「やれやれ、とんだ刑事だったな」


 僕が言うと、飛波は「向こうに着いても油断はできないわね」と険しい表情で言った。


 そもそも、僕らは誰に狙われているのだろう。政府だろうか、それともインターネットカフェの存在を僕らに知られたくない連中だろうか。


 あまりにも心もとない旅立ちに、僕は深いため息をついた。


               (第一部「統郷」了)

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