第一部「統郷」 都倉(11)
「時間ぴったりね。……はい、新幹線のチケット。お金は乗ってからでいいわ」
地下鉄の改札で落ち合うと、飛波は僕に切符の入った封筒を手渡した。
「いつの間に用意したんだ?」
僕が尋ねると、飛波は準備がいいでしょ、と笑った。
僕らは券売機で統郷駅までの切符を買い、改札を抜けた。ホームに出ると、折よく車両が入線するところだった。
「ここまで来たら、もう後には引けないわ。覚悟はいい?」
飛波が僕の目を覗き込んで行った。僕は半ば自棄気味に「ああ」と言った。
こうなったらどこへでも行ってやる。
開いたドアから乗り込み、乗車口の近くに収まったその時だった。
改札口の向こうから黒いコートの人物が突っ込んでくるのが見えた。
「まずい!」
僕は「ドアよ早く閉まってくれ」と祈った。願いが天に通じたのか、人物がホームに駆け込むのと同時にドアが閉まり始めた。助かった、そう思った瞬間、僕は自分の目を疑った。
僕の前にいた女性のバッグがドアに挟まり、隙間が生まれていた。車両はそのままゆっくりと動き出したが、ドアはわずかに開いたままだった。
コートの人物はゆっくり移動しながら隙間に手をかけると、薄笑いを浮かべながらドアをこじ開け始めた。
女性客はどうにかしてバッグを引き抜こうと苦心していたが、バッグはびくともしなかった。僕と飛波は思わずバッグのストラップに手をかけていた。
「せーので、思いきり引っ張って!」
渾身の力を込めてバッグを抜くと、鈍い音がして勢いよくドアがしまった。
「ぎゃっ」
うめき声が聞こえ、コートの人物がホームに尻餅をつくのが見えた。
遠ざかる黒い影を見ながら、僕は胸をなでおろした。
「やれやれ、とんだ刑事だったな」
僕が言うと、飛波は「向こうに着いても油断はできないわね」と険しい表情で言った。
そもそも、僕らは誰に狙われているのだろう。政府だろうか、それともインターネットカフェの存在を僕らに知られたくない連中だろうか。
あまりにも心もとない旅立ちに、僕は深いため息をついた。
(第一部「統郷」了)




