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零下273~君が君から去った日~  作者: 五速 梁
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第一部「統郷」 都倉(6)

                             


 目を覚ますと、自室のベッドの上だった。


 暖房の温度設定を上げ過ぎたのか、無性に暑かった。

 僕はベッドから体を起こし、リモコンがあるローテーブルに近づこうとした。


 なぜだろう、手足がひどく重い。足を一歩、前に動かすだけで、毒液を流し込まれたような不快感がじわりと広がるのがわかる。唸りながらどうにかテーブルにたどり着くと、背後で何かがきしむような音がした。


 振り向くと、壁に密着していたはずの本棚が、十センチほど前にせりだしていた。


 ——何だ?地震か?


 そのまま見つめていると、突然、目の高さの棚板から漫画の本が、押し出されるようにばらばらと前に落ちた。


「うっ」


 本が抜け落ちた棚の隙間から、人間の顔が覗いていた。


 壁と本棚の間は十センチ程度しかない。その隙間に立っている何者かが、白く濁った死人のような目でこちらを見ているのだった。


 ぐううっ


 喉の奥を鳴らすような音が聞こえ、また、ばらばらと本が落ちた。下の段にできた隙間から、今度は骨ばった手が現れた。


 いったい、何をやってるんだ?ここは僕の部屋だぞ。


 ぐううううっ


 先ほどの音が、一段と大きく響いたかと思うと、本棚そのものがぼろぼろと崩れ始めた。

 すべてが崩れ落ち、本棚があった場所に立っていたのは、黒いコートに身を包んだ死人のような男だった。


 あいつか?飛波と都倉に声をかけた刑事。……いや、刑事を名乗っていた人物。


 男はぎこちない足取りで、ゆっくりと僕の方に進んできた。僕はテーブルの前を離れると、部屋のドアに飛びついた。背後からべた、べた、と粘ついた足音が聞こえてきた。


 僕はドアノブを握り、力を込めた。……が、期待に反してドアノブは動かない。

 開かない、そう思った瞬間、ドアの外から声が聞こえてきた。


「野間君、そこにいるの?」


 飛波の声だった。なぜ僕の家にいるのか疑問に思いつつ、僕はドアの向こうの飛波に必死で状況を説明した。


「ああ、いる。黒いコートの奴が僕の部屋に隠れていたんだ!」


「部屋の中にって、どういうこと?」


「そんなこと、僕にもわからない。……それよりドアが開かないんだ。助けを呼んでくれ」


「わかったわ。ちょっと待ってて」


 ドアの向こうから飛波の気配が失せ、僕は恐る恐る後ろを振り返った。次の瞬間、自分の物とは思えないような絶叫が喉からほとばしった。


 すぐ目の前に黒いコートと死人のような白い顔があった。次の瞬間、僕の意識は深い闇の中へと没していった。

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