表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
甘施無花果の探偵遊戯  作者: 凛野冥
桜野美海子の逆襲・探偵学校編
64/76

7「使えない探偵には死を」

    7


 校舎二階の花組の教室。はるかちゃんが血や脳漿のついた顔を洗い、制服を着替えてくるのを待ってから、僕らは状況の整理を始めた。誠くんが黒板にまとめる。


・第一の被害者 蘭佳(月組、バレー部) 花壇にて発見。『魔術師』に見立てられ、四肢を切断される。

・第二の被害者 観篠(雪組、生物部) 生物部室にて発見。四肢を縫合され、蜘蛛に見立てられる。

 ――蘭佳の四肢を持ち去り、観篠を殺害したのは、呉山(月組、美術部)。

・左条(雪組、天文部)が、一週間前から行方不明。呉山に犯行を促した?

・久架(雪組、天文部)が、本日(十月十八日)から行方不明。

・教師や用務員など、大人(という設定の人々)全員が、本日から行方不明。失踪の意志を示す書置きあり?


 それから、各人が割り当てられた区画を――はるかちゃんから呼ばれるまでの短い時間だったけれど――見て回って簡単に聞き込みした成果を発表し合った。〈空原堂〉と校舎一階・二階はレイモンドさん、校舎三階・四階ははるかちゃんと誠くん、校庭と体育館はジェントル澄神と桝本さん、空原神社は無花果と僕。

 いまいち大事そうでない情報ばかりだったが、これらも誠くんが簡潔にまとめる。


・食堂は(食堂のおばちゃん達も消えてしまったために)ボランティアの生徒達が調理をしていて、現在は行けばいつでも食事ができる状態。食糧には充分な蓄えがある。

・校舎一階は下駄箱、事務室、応接室、会議室、職員室、校長室、放送室、保健室、家庭科室、茶道室、美術室など。

・校舎二階は雪組・月組・花組の教室、空き教室が複数、図書室など。講堂へ通じる渡り廊下、体育館へ通じる渡り廊下、それぞれあり。

・校舎三階は空き教室が複数、パソコン室、視聴覚室、生徒会室、文芸部室、書道部室、将棋部室など。

・校舎四階は空き教室が複数、音楽室、第一理科室、第二理科室、理科準備室、化学部室、生物部室、天文部室など。

・校舎の南向きの窓はすべてカーテンで塞がれ、ガムテープで固定。「校内の明かりを外に漏らしてはいけない」との校則あり。人がいることを麓の町に勘付かせないための配慮?

 ――校舎の周りは手入れがされておらず木々が伸び放題。これにより、麓の町からは〈空原堂〉や校舎の上部が見えるのみ。

・部室棟は主に運動部の部室だが、写真部なども混じっている。

・体育館は一階に柔剣道場、卓球場、簡易ジムなどがあり、二階が室内運動場。

・空原神社には鳥居と社殿があり、厄火という名の巫女がひとりで住んでいる。

・空原神社から、久井世冬詩という人の墓まで小径を下りて行ける。校舎裏の久井世池の名前と関係あり?

・エリアは塀や背の高いフェンス、有刺鉄線などで囲まれている(地図の赤線)。

・基本的にどこも綺麗に掃除されているが、備品は足りていない場合が多い。

・固定電話はどれも使用できない。

・電気や水道も止められているはずだが、電気については校庭に装置を設置し自家発電、水道は校舎屋上の貯水タンクに溜めた水を使っていると思われる。

・生徒達は現在、めいめい好きな場所で自由に過ごしている。事件の手掛かりを集めようとしている者、行方不明者の捜索をしている者、生徒会や風紀委員や保健委員など、責任感を持って行動している者も多い。

・雪組が三年、月組が二年、花組が一年に相当すると考えてよい。これは実年齢(設定ではないそれという意味)とは無関係と思われる。

・雪組・月組の生徒達は、全員が女子生徒。それぞれ何らかの部活動に所属しており、委員会活動がある者もいる。

・陸上部、ソフトボール部、バスケットボール部、バレー部、剣道部、空手部、バドミントン部、卓球部、演劇部、文芸部、科学部、生物部、将棋部、茶道部、書道部、軽音楽部、合唱部、美術部、写真部、天文部。部員数はバラバラで、ひとりのみの部もあり。

・生徒会、風紀委員会、保健委員会、広報委員会、図書委員会、園芸委員会、美化委員会など。

・生徒達はこちらの質問には素直に応えてくれる場合が多いが、都合の悪い質問(どうして有刺鉄線が張られてるのか、どうして新入生の入学がこんな時期なのか、どうして生徒会が武器を所持しているのか、等々)に関しては決まって誤魔化す。設定のつくり込みには甘い部分が多い?

 ――おそらく生徒達は高いメタレベルでの発言や行動(さらには思考?)を許されていない。

・桜野美海子は存在しないものとされている。


 後ろの黒板までに渡って板書を終え、誠くんは「ふぇ~腱鞘炎っす~」と適当に笑った。

「それにしても、遅いっすね。出殻でがらさん」

 出殻という生徒には、講堂まで行ってもらっていた。僕らが第二理科室を後にした時点で時刻は午後二時半を過ぎており、陽子さんは約束どおり、其処に戻っていると思われたからだ。

「陽子さんが講堂にいなくて、他を探してくれてるのかも知れませんね」

「なるほどー。そうなると、陽子さんの身に何かあったんすかねぇ? はるか先輩、時計塔はどんな感じだったんですか?」

 陽子さんは時計塔を調べる担当だったらしい。だが、はるかちゃんは其処で彼女を発見できなかった。すれ違いになったのか、そもそも陽子さんは時計塔に行かなかったのか、いずれにしても彼女のことは後回しにして、僕らを問題の生物部室まで連れて行ったというわけだ。

「ん……」

 先ほどから心ここにあらずといったふうに俯いていたはるかちゃんが、顔を上げた。気落ちの原因は推理が外れたからというより、目の前で呉山が射殺され、その血を浴びせられたことのショックだろう。

「説明したでしょ。塔の入口のところに天文部の人達が溜まってて、中に入れてくれなかったんだよ。陽子さんは来てないって云われて、それでも確認しろーってあたしが頼んだら何人か中に這入って行って出てきて、やっぱりそんな奴いないって」

「怪しいですね」とジェントル澄神。

「タロットカードの件からも天文部がにおうという話は生徒達から出ていますし、それに重要参考人の左条もまた天文部だ! はは、奏院陽子さんは既に帰らぬ人となっているのでは?」

 はるかちゃんの目が見開かれる。

「そ、そんなのルール違反じゃん! あたし達を襲うなんて!」

「はて、そんなルールは知らないな。私達がいつ命の保証なんてされました?」

「おい澄上、要らん脅しをするんじゃねぇ」

「脅し? ああ桝本さん、貴方まで何を寝ぼけているんですか? 桜野さんが白生塔でやったことはご存知でしょう? 彼女が殺害したのは獅子谷敬蔵、能登、藍条香奈美、首切りジャック――その後に、杭原とどめを殺したのです。杭原とどめは探偵、すなわち挑戦者でしたが、もはや真相に辿り着くことは期待できなかった。そう、期待のできない挑戦者ならば、殺したって構わないのですよ。奏院陽子さんは姉の不在によって戦意喪失していましたね? 使えない探偵には死を。大いにあり得る可能性です」

 桝本さんは歯噛みし、はるかちゃんは絶句した。自らを省みたのかも知れない。有用性を証明できなければ、標的にされてもおかしくないという危惧。桝本さんはジェントル澄神の監視役でしかないし、はるかちゃんは推理を誤って項垂れていたところだったのだ。

「そうと決まったわけじゃねぇ」

 レイモンドさんが、煙草に火を点けた。

「そいつについては、出殻の報告を聞いてからでいいだろう。もし陽子ちゃんまで行方が分からなくなっちまったなら、時計塔に出向こうじゃねぇか。とにかく、俺達がそろそろ検討しなくちゃいけないのは、このゲームの勝利条件だぜ。でないと行動の指針が立たねぇ」

「同感ですね。しかし私が考えるに、現状、それは二通りに絞られますよ」

 ジェントル澄神はその二通りを述べ、誠くんがこれも黒板に書いた。


・勝利条件は、〈探偵学校〉内の事件を解決するor桜野美海子を探し出す?


「私達は成り行き上、いまは前者に注力する格好となっています。事件を解決せよ、とは支槻生徒会長から全校生徒に指示されたことでもあり、これは支槻を通した桜野さんからのメッセージであるとも受け取れる。しかしながら、私達が事件を解決した瞬間に、どこかに隠れている桜野さんが出てきて敗北を認める、なんて光景はいささかイメージし難い。ええ、桜野さんが存在しないものとされていることもまた、私達にとっては――やもすれば最大の――謎なのです。なにせ、桜野さんの居場所を示すという暗号を解いてやって来たのですからね」

「だが、いま起きてる殺人事件がまるまるフェイクだってのは無理があるんじゃねぇか? そっちを無視して桜野美海子を探すことにした場合、桜野美海子は存在ごとない設定にされてる以上、当てずっぽうで探していくことになる。そいつは歓迎されねぇだろ」

「その通りです。その通りですよ、レイモンドさん。ですから私の考えはこうなのです――この事件の解決が、桜野さんを見つけ出すことに繋がる構造となっている!」

 レイモンドさんはニヤリと笑って、煙草の煙を吐いた。同意見ということだろう。

「桜野さんは確実に〈探偵学校〉のエリア内にいます。それは桜野さん自らが、この場所を示す暗号を〈自分の居場所〉と云ったことから保証されています。フェアプレイに重きを置く桜野さんだ。此処で桜野さんが存在しないものとされているのは、あくまで設定上のこと――低いメタレベルでのことですからね。いるのですよ、桜野さんは此処に。しかしながら、当てずっぽうの捜索で見つかるような場所に彼女が隠れているはずもありません。ここでもまた、白生塔事件を思い出しなさい。あの事件において獅子谷敬蔵がいた十一階と同じです。事件の謎を解かなければ辿り着けない、思いもよらぬ隠れ場所。この〈探偵学校〉でも、桜野さんはそのような場所にいるに違いない!」

「ふむふむ」

 誠くんが、さっき板書した文章の『or』を『and』に変えた。

「こういうことっすよね? この二つは同じこと。事件を解決したとき、桜野美海子が見つかる。低いメタレベルでも高いメタレベルでも謎が解けて、僕達の完全勝利ーっと」

「飲み込みが早いですね! ふはっ――ふくくくく……」

 口元を歪めて、ジェントル澄神は底意地の悪い目つきではるかちゃんを見た。

「事件とは関係ありませんが、ここでひとつ、君達の秘密を暴きましょうか。なに、既に皆さん気付いていることでしょう。長閑さん、君は主役をぶってるようですが、二つの暗号を解いたのは句詩さんの方ですね? 君は優秀な後輩の力を借りて図々しくもやって来た、ただの無能です!」

「はっ――」

 はるかちゃんは勢い良く立ち上がった。眼鏡がずり落ちる。すぐには反駁の言葉が出てこず、吃音みたくなりかける。

「ち、っち、ちがちが、ちが違うわっ! 何なの、し、失礼しちゃう! あたしだから! あたしが実力で解いたんだから!」

「そうっすよ~、やだなぁ~」

 誠くんはヘラヘラしながら、はるかちゃんの傍まで歩いて行く。

「僕はただの付き添いっすよ~。お慕いしてるはるか先輩に頼み込んで図々しくやって来たのは僕の方っすよ~。ありがとうございますね~はるか先輩~」

 はるかちゃんの肩に手を置いて、優しくさする誠くん。「や、やめろやぁ……」と弱弱しく振り払うはるかちゃんは、顔が真っ赤だ。

「はるか先輩は主役っすよ~。この事件で日本中に名前を広めるんすもんね~。栄光を手にするんすもんね~。そんなはるか先輩の輝かしい人生を傍で見られる僕は幸せっすよ~」

「そうよっ。本当に――馬鹿にしてられるのも今だけなんだからっ!」

 虚勢を張るはるかちゃん。その上からは糸が吊り下がっていて、背後の誠くんが操っている。そう見える。

「澄上、余計な発言は慎めと云ってるだろうが。子供を虐めて、恥ずかしくねぇのか」

「おや、虐めたつもりなどないのですが。まぁ事実は時として、人を傷つけま――」

「澄上ッ!」

「分かりましたよ。そういちいち、怒鳴らないでもらいたいな」

 ジャラジャラと、二人を繋ぐ鎖が揺れる音。桝本さんは咳払いした。

「状況については、おかげで私にもいくらか掴めてきたよ。だが、死体をカードや蜘蛛に見立てたりするわけの分からん殺人事件を解いて、それで桜野美海子の隠れ場所が分かるというのは、どうにも私には想像できない」

「この事件の犯人が桜野なんだってことは、考えられないですか?」

 僕もいちおう、発言しておいた。無花果は気にしないだろうが、あまり非協力的な態度でいてもいけないだろう。

「事件の筋書きを書いてるのは桜野なんだからってことじゃなくて、額面どおりの意味です。桜野は此処では別の名前で、別の設定で存在してるんじゃないでしょうか? たとえば怪しいとされてる左条は行方不明ですけど、彼女が桜野なら、事件の犯人を見つけることがそのまま桜野を見つけることになりますよね」

「あり得るな。おそらく一番スマートなのはそのケースだ」

「そう云えば、気になってることがあるんすけど、」

 誠くんが手を挙げた。

「なんか桜野美海子に似た感じの人、多くないっすか? あれ何人か、整形してません?」

 少しだけ間をおいてから、ジェントル澄神が「いいでしょう」と頷いた。

「教えて差し上げますよ。去年の冬に〈桜生の会〉という宗教団体が壊滅したのを憶えていますか? 死んだと思われていた桜野さんを崇め、白生塔――彼女達は桜生塔と呼んでいましたが――そこで集団生活をしていた人々です。教祖を含め数名が殺され、残りの会員は行方不明。私はこれについて拘置所で――ひっ――拘置所で知らされましたがね、と云いますのも、私はあの会に出資していましたので」

「ああ、此処にいる連中には〈桜生の会〉の元会員が混じってるんだろう?」

 桝本さんが険しい面持ちで云う。

「奴らは指名手配中だ。写真で見た顔が何人かいるし、名前にも憶えがある」

「そうです。〈桜生の会〉の会員は、ひとりひとりが皆、桜野美海子さんを目指していました。ゆえにまずは見た目と考え、整形手術を受けた者も少なくなかったのです。此処に桜野さん風の人達が多いのは、そういうわけですよ。私と前に会ったことのある者もいますが……もちろん、此処の設定では私と面識があるわけもありませんから、そんな素振りを見せてはくれませんね。以前の彼女達には喋り方や振る舞いまで桜野さんを模倣している者もいましたが、此処では各自、与えられた設定に準じているようです」

「へぇ、なるほど、信仰心っすかー」

 誠くんは合点がいったらしい。

「だから被害者役の人達も喜んで死ぬわけっすね。信奉してる桜野美海子の命令で死ぬのは、きっと名誉なことなんすね。ほら、花壇で死んでた蘭佳さん、満足そうな顔してたじゃないっすか」

「だけど、そこも分からない点じゃないですか?」

 再び僕の発言。

「被害者達は、自分が殺されることを知らされているんでしょうか? 生徒達が桜野の筋書きをどの程度まで知っているのかは、ブラックボックスのように思えますけど」

「まさにそこですよ、塚場さん。二つのメタレベルを混在して考えてしまう私達は、そこに迷い込んでしまうと、たちまち推理の道筋を見失わされてしまうのです。嗚呼、此処の設定につくり込みの甘さが見られるのも、私達を二つのメタレベルの間で圧死させんとする桜野さんの奸計ではありますまいか!」

「またややこしくなりやがったな……」と、桝本さんが愚痴をこぼす。

「ところで甘施さん、貴女はまったく口を開いてくれませんが、考えはないのですか?」

 ジェントル澄神が水を向けた。無花果に敗北して転落人生に陥った彼はやはり無花果が気になるらしくて、要所要所で彼女をちらちらと見ているのだった。

 無花果は窓の外を眺めながら、いかにも雑な返事をする。

「考えがなければ、口を開かずともよいのですか? 考えがあれば、口を開かなければならないのですか?」

「ははっ。強制はできませんが、しかしこれは協力の問題です。協力というものには実のところ、市場経済的な側面がある。与えたぶん、与えられることを期待するのです。貴女は私達の話をタダ同然で聞いているではありませんか。家庭と違ってね、ごくつぶしは社会では弾き出されるのですよ」

「貴様の詭弁は安すぎます」

 無花果ははじめてジェントル澄神を見た。〈見る〉という行為以上の意味が、そこには何もなかった。眼球にジェントル澄神が映ったという、ただそれだけだった。

「迷惑料をもらうのならともかく、私達は何に対して対価を払うのです? 損に損を重ねることを、それこそ強制される謂れはありませんが」

「ひっ――――」

「私は『女教皇』を待っているだけです」

 その言葉に、ジェントル澄神が癇癪を起こす前に、レイモンドさんが「そうだな」と応じた。彼は一冊の本を手に取って掲げた。タロットカードに関する本だ。

「図書室で借りてきた。推理小説の棚が半分以上で、ちっと異常な図書室だったな――楚羅原高校が廃校になったときに全部持ってかれたはずだし、桜野美海子が新たに拵えたんだろう。ああ、タロットカードには番号がある。蘭佳が見立てられてた『魔術師』は大アルカナの一番。そして二番は『女教皇』だ」

「番号順に殺されてくってわけっすか?」

「結局、蘭佳殺しの方は解決してねぇ。これが連続殺人事件になるのは、間違いないところだろう。染袖も云ってたじゃねぇか――これからどんどんどんどん人が死んでいくんだってな。わざわざ通し番号がついてるもんの一番を見立てて殺されたんだ。次は二番、三番、四番と連続タロットカード殺人になるのが自然な――」

「おーい」

 その時、ようやく教室の扉が開いて、講堂に陽子さんを迎えに行ってもらうよう頼んだ出殻が現れた。

「遅くなってごめんねー。陽子って子はいなかったぞ。代わりってわけじゃないけど、転校生を連れてきてあげたから。仲良くしろよー」

 出殻は気さくな感じで云って、去って行く。そして教室に這入ってきたのは、新品の制服に身を包んではいるものの、白髭をたくわえ、ステッキをついたご老人だった。

「転校生の覇唐はから眞三郎しんざぶろうじゃ。よろしくな、同級生諸君」

 冗談めかして挨拶し、愉快そうに肩を揺する。仙人めいた出で立ちと、いかにも好々爺な優しい表情。覇唐眞三郎――無論、知っている。探偵界では重鎮だ。解決してきた事件数では、国内に並ぶ者は皆無だろう。

「これはこれは……大型新人ですね」と苦笑するジェントル澄神。「覇唐さん! お久しぶりです、以前お世話になりました##県警の桝本です」と頭を下げる桝本さん。

 レイモンドさんも驚きが顔に出ているし、「有名な人なの?」なんて云っているのははるかちゃんくらいだった。

「ほほ……接待されに来たわけと違うぞ。中断させてしまったじゃろう? どうぞ続けてくれ」

「いえ、これからちょうど、移動するところですよ」

 覇唐さん相手には、レイモンドさんも敬語だった。

「時計塔に行くんです。事情はその道中で話しますよ」

 誠くんが、黒板に新たに書き加えた。


・奏院陽子(花組)が、本日から行方不明。時計塔に向かったはずだが……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ