3「魔術師の華やかな死」
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問題の花壇がある場所はすぐに分かった。池の西側だ。行ってみると二十人ほどの人だかりができていて、年齢層こそバラバラだけれど全員がセーラー服を着た生徒達。何人か見覚えがある。おそらく〈桜生の会〉の会員だった者だろう。先日の域玉と同じく、桜野は彼女らを自分の手駒として使っているのだ。
蘭佳という女性生徒(胸の名札にもそう書かれている)は、花壇の中に血まみれで倒れていた。赤い薔薇と白い百合に囲まれて、華やかな死に様だ。聞いていたとおり、両腕両脚をまるまる失っていて、奇妙な〈飾り付け〉を施されている。
まず、制服の上から羽織っている赤いマント。腰には蛇の死骸を巻いていて、この蛇は蘭佳の臍の下あたりで自身の尾を噛んでいる。それから、死体そのものへの粉飾ではないが、死体のすぐ傍によく教室にあるような机がひとつ置かれており、その上には竹刀、木の棒、ガラスのコップ、交通安全のお守りが並んでいた。
悲惨な死体だが、蘭佳の表情はいっそ誇らしげで、口元には微笑みさえ刻まれている。
「げげ、グロテスクぅ……ちょっと聞いてないよ……」
現場に着くまでは意気込んでいたはるかちゃんだけれど、手で口を塞ぐと誠くんの背後に回った。誠くんの方は「はるか先輩ー、この程度で出鼻くじかれてどうするんすかー」と適当に笑っている。
「ふむ。これは明らかに見立て殺人ですね。推理小説マニアの桜野さんらしい!」
こくこく頷くジェントル澄神に、桝本さんが「どういうことだ」と訊ねる。
「見立てをご存知ありませんか? その名のとおり、死体や犯行現場に装飾を施し、それとは別の何かに見立てるのですよ。童謡の歌詞に沿ってみたり、一枚の名画を再現したり」
「どうしてそんなことをする」
「目的にも種類にも色々ありますね。たとえばミロのヴィーナスを愛する犯人が、想いを寄せる女性を殺害して両腕を切り落としてポーズを取らせて石膏で固めたりしたなら、これは被害者女性をヴィーナスと同化するためでしょう。一種の妄念や変態性欲が動機となっているケースですね。しかしそんなふうに見立て自体を目的としているふうに装いながら、実は何らかの理由から被害者女性の指紋を採らせたくなくて、そのために両腕を切り落としたということを隠したかったのだとも考えられます」
「それで……この死体も何かを見立ててるのか? 何を見立ててる?」
「そうですねぇ……」
首を傾げるジェントル澄神に代わって、無花果が呆気なく答えを述べた。
「タロットの大アルカナ、一番『THE MAGICIAN』ですね」
「あーなるほど、タロットカードっすか」
いち早く反応したのは、意外にも誠くん。
「『魔術師』ってどんな絵柄でしたっけ?」
「ウェイト版タロットの『THE MAGICIAN』がこれに最も似ています。聖衣――白の衣装の上から赤いマントを羽織った魔術師は、聖杖を持った右手を天上に掲げ、左手では大地を指し示します。薔薇と百合に囲まれ、腰にはウロボロスの蛇を巻き、頭上には∞(インフィニティ)の文字。また、傍らのテーブルには小アルカナを構成する剣(ソード)、杖(ワンド)、杯(カップ)、護符(ペンタクル)が乗っています」
「それで間違いなさそうだな」
レイモンドさんが遠慮なく花壇に踏み入って行く。道中で簡単な自己紹介があったのだが、彼――門戸嶺助さんは私立探偵で「レイモンドと呼んでくれ」とのことだった。くたびれたような印象と芯の通った力強さみたいなものが同居しており、そこそこの年齢にも若者にも見える。年齢不詳。ただ、僕よりは年上だろう。
「聖杖もちゃんと落ちてるぜ。こりゃリレー競走で使うバトンだな」
薔薇と百合に隠れて見えなかったそれを拾い上げ、僕らに示す。
「頭の上には∞(インフィニティ)の文字も土に書かれてる。しかし分からんのは、両腕両脚の切断だ。これはタロットと違うだろ?」
「ダルマだね! ダルマさんの見立てだよ!」
はるかちゃんが一歩進み出た。視線は死体から逸らしているが。
「犯人の目的は死体をダルマに見立てることだった。それを隠すために、さらにタロットカードの見立てを被せたんだよ。にゃはは」
「隠せてないじゃないっすか。『魔術師』には両腕両脚あるんですから」
「んー? じゃあ逆で『魔術師』の見立てを見破られたくなくて、後から両腕両脚切ってダルマの見立てに見せかけたんだ」
「見せかけられてないじゃないっすか。全然バレバレじゃないっすか」
「もーあんたはケチばっかり付けて! とにかく犯人は両腕両脚が切りたかったの! そこのペテン師野郎もさっき指紋を採らせたくなくてそういうことする奴がいるって例に出してたでしょー。あ、そうだよそうそう、本当は切りたかったのは両手首だけだったんだけど、それじゃあ目的がバレちゃうから両腕両脚切ってダルマに見立てて、それでも何か足りない気がするもんだから、さらにタロットカードの見立てもやっちゃえーって悪ノリしたんだね。たまたま此処が花壇で薔薇と百合が咲いてたから思い付いたわけ」
「そんな行き当たりばったりな……それにしては随分と用意が良いっすね? こんな小道具たくさん集めて。ただでさえ現場に長く留まってたら発見されるリスク増えるのに」
「あんた、あたしの味方なんか何なんかどっちなんだー!」
わしゃわしゃわしゃーっと誠くんの髪を両手で掻き回すはるかちゃん。笑う誠くん。
桝本さんが咳払いをした。
「澄上、指紋を採らせたくなくて両腕を切るケースがあるというのは、どういうことなのだ? 犯人じゃなく被害者の指紋を採らせないってのは?」
「頭が固いですねぇ桝本さん。それは死体を別人と誤認させていることに気付かせないためですよ。たとえばAという人物がBという人物を殺したとしましょう。Aは逃亡するのですが、捕まらないよう一計を案じます。Bの死体をAの死体と誤認させるのです。すると警察はAが殺されてBが逃げたと考え、Bを探しますね――しかしBはもう殺されており、逃げているのはAです。Aは逃亡が楽になるというわけです。さて、AはBの死体をAと思わせるために、死体の顔を潰して自分の服に着替えさせます。しかし指紋を採られては元も子もない。ですから両手首も焼くなり切って持ち去るなりしなければならない。ですがそれではあまりに露骨だ。ここで見立てを目くらましに用いる必要が出てくるのですよ。分かりましたか?」
「うーん……いちおうな」
「じゃあこの死体、蘭佳って人じゃないわけ? 顔ははっきり見えてるけど……名札は簡単に付け替えれるもんね。おーい貴女たちー、」
はるかちゃんは僕らを取り巻いている生徒達に呼び掛けた。雪の結晶や三日月を象ったバッジを付けている彼女らは彼女らで何やら話し合っていたが、呼ばれると素直に「なーに?」と反応を示す。
「この死んでる人、本当に蘭佳って人なの? 顔ちゃんと見た? 間違ってない?」
「間違ってないよ」
名札に『磐床』と書かれた月組の女性が応える。
「腰に巻いてる蛇の死骸も、蘭佳のペットで蘭佳がこっそり鞄に入れて学校に持ってきてた蛇だし」
くっくっく……とレイモンドさんが忍び笑いした。それとは別に誠くんが「はるか先輩、それよりもー、」と口を挟む。
「タロットカードに凝ってる人とか訊いた方がよくないっすか? 死体をタロットの絵柄に見立てようなんて発想する人は限られてると思うんすよ。実際、はるか先輩も『魔術師』の絵柄なんて知らなかったでしょ? 普通、知らないっすよね、日本だと」
「それもそうね。ねぇ磐床さん、タロットカードが好きな人っている? もう口を開けばタロットカード! ご飯にタロットカード乗っけて食べるような大のタロットカードおたくは?」
「ええ……そんな人いるかな……」
困惑顔の磐床さんの横から、同じく月組の管轍さんが顔を出す。
「久架先輩は? いかにも好きそうじゃない?」
するとその周りの人達も話に加わる。
「分かるかもー。オカルトっぽい趣味あるよね、あの人は」
「って云うか、天文部がほとんどオカルト部って感じしない?」
「それは偏見だよ。袋慈ちゃんは普通だもん」
「でもさー、よく知らないけど、タロットって占星術と関わりあるでしょ?」
「占星術。あ、天文か」
「たしかに怪しいよ」
「久架先輩ってより天文部が」
何やら内輪で盛り上がっている。
「あっは! 分かりましたよ、この趣向が!」
ジェントル澄神が声を上げた。皆の注目を集めてから、揚々と話し始める。
「白生塔事件を思い出しなさい。あれは二つの別々の事件がひとつのそれに見えていたために状況を不可解にしていました。今度も同じことです。その応用だ。このひとつの死体に、二人の犯人が別々に手を加えたのでしょう。つまり『魔術師』の見立てを施した犯人と、四肢を切断した犯人は別なのです」
彼は続けて、勢い良く無花果へ向き直る。
「どうです、甘施さん。是非とも貴女の意見を伺いたいですね」
しかし無花果は取り合わず、制服のポケットから煙草を取り出して火を点けた。
「それ、没収されなかったのか?」
「暗器の技術に精通する私に何を云いますか。これくらいのもの、どうとでも持ち込めますよ」
なるほど。このぶんだと他にも色々と隠し持っていそうだ。
「くっくっ。ところでお前ら、」
まだ薔薇と百合の花壇の中に立っているレイモンドさんが、彼もいつの間にか自分の煙草に火を点けていた。
「気付いてるか? 俺達はいま、二重のメタレベルの中でそれを混同してものを考えてる」
「はー? どういう意味よ?」
眉を寄せるはるかちゃん。
「メタレベルだよ。俺達はおそらく皆、これが桜野美海子が仕掛けてるんだと承知してる。その前提のうえで、この蘭佳って女の死体が意味するものだとか、その〈犯人〉とかを検討してる。そう、〈犯人〉だよ。おい、長閑ちゃんよ、」
「何?」
「お前は〈犯人〉って言葉を使ったな。そんで句詩くんは、死体が『魔術師』を見立ててることから、タロットカードに凝ってる奴がいないか訊こうと提言した。お前らはその〈犯人〉は桜野美海子とは別だと考えたのか? そこんとこ、ちゃんと意識してたか?」
「そう云えばー……そうね。訳分からんないね、これは」
「そいつが混同さ。澄神さん、お前はいま、桜野美海子が白生塔事件のからくりを援用してるって着想から推理を組み立てた。お前の場合はどうだ? 意識してたか?」
「ええ、貴方の云わんとしていることは分かりますよ。貴方の言葉を借りるなら〈謎解き遊び〉。桜野さんの云う直接対決とは、大方そんなところだろうと予想していました。すなわち、これは桜野さんの書いた筋書きです。メタレベルとはそういうことでしょう? 私達は桜野さんの筋書きの中で起きた殺人事件の謎と対面している。ここでは作者たる桜野さんのメタレベルと、その筋書き中のメタレベルが混在している。ですから私はその構造に則って、低いメタレベル――筋書き中の〈犯人〉を、高いメタレベル――作者・桜野美海子の立場を考えながら、紐解こうとしているわけです。ええ、ですから蘭佳さんを殺害した〈犯人〉とは、桜野さんではなく、桜野さんがそう設定した別の人物でしょう」
「さっぱり分からん!」
桝本さんが吐き出すように云った。
「えらくゴチャゴチャしてるが、結局、犯人は桜野美海子なのだろう? だが、此処にいる我々を除いた女性方は桜野の子分たちで違いあるまいな? このガイシャもそうだ。桜野は子分を殺害した――見立てだか何だか、訳の分からん細工まで施してな。なのにそこの女性方は天文部がどうとか、まだ学生の芝居を続けてる。さっぱり分からんよ。そもそもどうして、此処では皆が学生の格好を――我々までさせられてるのだ? こんな頓珍漢な現場は初めてだ!」
「落ち着きなさい桝本さん。貴方は私に任せればよいのですよ」
嘲弄するような調子のジェントル澄神。桝本さんは険しい表情を浮かべる。
「戸惑うのも無理はありませんよ。捜査一課のノウハウは此処では生きません。通常、殺人なんてものは馬鹿がやることですね? 頭の良い人間は人を殺さずとも問題を解決できる。殺人とはこの法治国家では割に合わない行為なのです。しかし中には、巧緻に長けた人殺しをする者がいる。巧妙な殺人――それ自体が目的であるかのような場合すらある、こういう天才のやる殺人は、一般の馬鹿な殺人とはまったく異なるものです。そしてそれを解くために、私達――探偵がいるのです」
「探偵だと? お前は探偵を騙った、犯罪者側の人間だろうが」
「あっは! ナンセンス! まだ分かりませんか? 私はこの一年で、真の姿に目覚めたのですよ! 神――神を見たのです! 私は神に選ばれた名探偵なのです! それが貴方みたいな国家の犬に、逆に犬のように鎖で繋がれているなんて、道理に合わぬ逆様だ! あっは、GODがひっくり返ってDOGですか? 愚民共に十字架を背負わされたイエスの気持ちが分か――」
「すとーーっぷ!」
桝本さんがジェントル澄神に掴み掛かろうとしたところで、割って入ったのははるかちゃんだった。
「何なの、おっさん二人がみっともない! それより訊きたいんだけど、って云うか改めて自分がさっきまで何考えてたのか――つまりこの状況をどう捉えてたのか分かったんだけど、ねぇあんた、門戸さん、」
「レイモンドと呼んでくれ」
「レイモンドさん、これが桜野美海子の筋書きって、どうして分かるの? ん、これ云ったのはジェントル? まぁいいや。あのさぁ、これってイレギュラーな事態なんじゃないの? だってあたし達、入学式の予定だったのに、いきなりこんなことになったじゃん? 予定外のハプニングって云うか、桜野美海子も困ってんじゃない? 勝手に殺人事件とか起きちゃってさ」
「良い着眼点だ」
レイモンドさんは煙草をぽいっと放って頷く。
「その通り、現状ではそう考えることも可能だ。しかし、それも含めて筋書きかも知れん。刑事さんも指摘してたが、そこの生徒さん達が天文部どうこうなんてトボけたこと抜かしてんのを見ると、どうやら後者らしいと俺は思うがね」
「あー……じゃあ整理すると、桜野美海子は謎解きゲームを挑んできてて、この蘭佳さんの死体がその謎。此処の人達はみんなしてこの学校――探偵学校だっけ――の生徒って設定で、お芝居してるってわけね?」
「ええい、まどろっこしい!」
シチュエーションが特殊だから仕方ないかも知れないが、桝本さんは短気な人らしい。彼は磐床さん達の方へずんずん近づいて行って、鎖で繋がったジェントル澄神も引っ張られて行く。
「桜野美海子はどこにいるんだッ?」
しかし、生徒達の反応は冴えなかった。互いに顔を見合わせてから、少し馬鹿にしたような感じで、磐床さんが云う。
「さくらのみみこ? だれ?」
「とぼけるなッ。お前達は奴の仲間だろうがッ。日本中を馬鹿馬鹿しい殺人事件で引っ掻き回して、止めてほしければ此処に来いと云った――それも馬鹿馬鹿しい暗号でなッ。我々は桜野美海子に会いに来たんだよ。話が違うだろう、直接対決と云ったくせにッ」
「……何の話してんの?」
笑いを噛み殺しているみたいな表情をそれぞれに浮かべる生徒達。
「貴方、新入生でしょ?」
「何か勘違いしてない?」
「え、勘違いで入ってきちゃったの?」
「桜野って先生も生徒も知らないなぁ」
「そんなに人数多い学校じゃないし、桜野なんて子がいないのは確かだよ」
「それに私達が、何? 殺人事件?」
「ふふ、殺人事件で日本中を掻き回してんだって」
「すごーい」
「できませんし。私達、ただの女子高生ですし」
「変な云いがかり付けないでくれる?」
「礼儀の成ってない新入生!」
小刻みに震え、今にも怒りが爆発しそうな桝本さんの肩に、ジェントル澄神が手を置く。
「無駄ですよ。どうやら桜野さんの用意した謎は、かなりの難題らしい」
レイモンドさんはくっくっと笑っている。はるかちゃんと誠くんは囁き合っている。
「何何、どういうこと。此処、桜野美海子の居場所で合ってんだよね?」
「合ってるでしょ、それは。此処でもまた桜野さんを見つけるために謎を解かないとみたいっすけど」
さてさて、さすがに間延びしてきた。無花果は二本目の煙草を吸いながら正面上方――斜面に並ぶ木々の中から赤い鳥居の天辺が覗いている――を眺めているばかりだし、ここで僕が磐床さん達に訊ねる。
「さっき行方不明のかたがいるってふうにも聞いたんですけど、それはどなたなんですか?」
「ああ、左条さんのこと? 結構前から行方不明だね。もう一週間かな」
「ふむ」
ジェントル澄神も加わる。
「行方不明者が増えている、と聞きました。他にもいるのではないですか?」
「そうなの? あ、宗頃さんが観篠さん探してたのってそれかなー」
「観篠なら今朝はいたわよ」
「新たに行方不明ってことでしょ。え、本当に?」
「蘭佳が殺されて観篠が行方不明?」
「だけどその二人、あんまり接点ないよね」
「月組と雪組だしねぇ」
「左条のあれは失踪なんじゃないの?」
「左条さんと蘭佳なら、雪組と月組だけど、たまに二人で話してるの見ましたけど」
「それ関係あるかしら?」
なかなか複雑な状況らしい。
「〈初期設定〉が分かってきたじゃねぇか」
レイモンドさんが花壇から戻ってきた。
「こうやって情報集めて、そもそも設問が何かってところから考えなきゃいけねぇわけだ」
「なるほどねー把握ー。この不親切設計、初代『SIREN』と同じだわ」
「はるか先輩、ゲームの話しても誰も分かんないんじゃないっすか?」
「いいや、俺は分かるぜ」
「わっ、レイモンドさん本当? 意外!」
「『SIREN』嫌いだがな。ところでよー、お前はまだ何も発言してねぇけど、考えは一切口に出さないタイプか?」
レイモンドさんが話を振ったのは、ずっと後ろの方に引っ込んでいた奏院陽子さんだった。彼女はびくっと怯えるようにして、僕らを上目遣いで見る。
「すみません……私、月子がいないと駄目なんです……月子がいないと、鏡が一面なんです……」
双子の名探偵・奏院姉妹は〈合わせ鏡式推理〉で知られている。二枚の鏡を合わせたときにそれらが互いを映して映して映して映して映して映して――無限に奥へ奥へと映していくように、真相へと迫っていくのだと云う。
「月子さえいれば、私達に解けない謎はないのに……」
まるで月子さんが死んでしまったかのような落ち込みようだった。ほとんど泣いている。
その陽子さんのさらに後方、校舎の角を曲がって、先ほど講堂に駆け込んできたのと同じ三つ編みの女性がまた駆けてきた。
名札の文字は『染袖』。そして花壇を取り巻いている僕ら全員に云う。
「みんな講堂に集まって! 緊急の全校集会を開きます! 会長が状況の説明と今後の対応をお話するから、ほらほら動いた動いた! って、うえーーーー……吐きそう……こんなに走り回ったのいつぶり?」
それは知らないが。




