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甘施無花果の探偵遊戯  作者: 凛野冥
血染めの結婚式・聖プシュケ教会編
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紅代1「Empty On The Inside」

   ▽紅代1


「あ、映った。すごいねぇ。ありがとう紅代ちゃん」

「うん」

 呼び出されたから来てみれば、聖プシュケ教会の聖堂に仕掛けたカメラの映像をモニターに表示する仕方が分からないとのことだった。初歩的な操作だ。機械に弱い桜野美海子でも扱えるように昨日セットしてあげたのに、それでも駄目だったらしい。

 画面は二つに分割されている。正面入口の上部から全体を俯瞰した映像と、祭壇の裏から主に新郎新婦の表情が眺められることになるだろう角度の映像。今、参列者たちが着席を終えたところだった。全員が女性。年齢層は二十代に集中している。

「集まってるね。総勢およそ九十名。これなら充分〈間に合う〉だろう」

 まだ新郎新婦の入場ではないというのに、桜野美海子は画面に釘付けだ。

「私はもう帰っていい?」

「えー、いてくれよ。紅代ちゃんも見たいだろう? 塚場くんはともかくとして、甘施さんの絶頂期だよ。この後は類を見ない転落人生だからね、ふふふ」

 随分と趣味の悪い笑い方をする。私個人は、裸で縛り上げられてひと晩そのままにされたこともあまり恨んでいないし、甘施無花果に対して大した興味を持っていないのだけれど。

「とはいえ、この結婚式は素直に挙げさせてあげるんだね」

「単なるフェアプレイ精神だよ」

「結婚そのものを認めるのにもやぶさかじゃないの?」

「あっは!」

 珍しい笑い方。

「吝かじゃない――わけないねぇ。腹立たしいよ。何が結婚だ。馬鹿かい。でもね、私もそろそろ大人の自覚ができてきたんだ。本意のためには時として不本意を我慢しないといけないんだねぇ」

 なるほど、この人が云うと説得力に欠けるが、その通りだろう。

「それに、やっぱり私としては心にゆとりもあるよ。今これに映ってる人達とは違って、こんな結婚式が噴飯ものに過ぎないってことを私は知ってる。なぜなら塚場くんが私の隣に帰ってくるのは分かりきってるじゃないか――そういうふうに創ったんだから」

「創った?」

「ふふ、聞きたかったらまぁ、後で話してあげるよ。『塚場くんの謎を解明したい』だなんて塚場くん本人には云ったし紅代ちゃんにもそう説明したと記憶してるけど、そんなの嘘なんだ。謎でも何でもない。彼は空っぽの容器で、私がそれにラベルを貼ったんだね」

 さてさて、と云いながら桜野美海子はポップコーンの袋を開ける。映画鑑賞でもあるまいに、妙なところで抜けた人だ。

 結局、私も付き合うことにした。どうせ数時間後にまた、私が必要になるのだ。

 つまり、結婚式は許すけれど新婚旅行は許さないという話。

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