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『白い鳥かごの中で』  作者: Celi
7/13

第七羽 脱走 ~雪村編~

和也くんから唯さんに会いたいとの言葉を聞いた時、私は彼に脱獄してでも本気だと言う気持ちを読み取った

やはり和也くんは私が思っていた通り彼女への想いがとても強い

だから…私はこうして和也くんを脱獄させる手伝いをしに来たわけだが

この扉を開ける前、私には少し迷いがあった

この鳥かごにいるのはまだ小鳥と呼べるほど私からは小さな存在に見えても

人をひとり殺した者だ…

私は彼をよく知らない

唯さんの為とは言え、小鳥の姿をしていても本当は凶暴な化け物かもしれない

それを外に出してもいいのかと

何より…私の愛しい人を連れ去って行く男……

考えるとこの小鳥はこのまま閉じ込めておかないといけないのではと思う

しかし…唯さんを救えるのが和也くんしかいないのなら……

私は和也くんを信じ、自分の弱い心に打ち勝って

この檻の扉を開ける事に決めた…


「私が貴方を唯さんに会わせてあげます」

私がもう一度言うと和也くんは意味がやっとわかったのかハッとする

「雪村先生!?

いや、ちょっと待って

あんたこんなコトしていいのかよ

俺を唯に会わせるって、それは脱獄の手助けしてるってわかってます!?」

言われなくても

「その大声、どうにかなりませんか

今ここで貴方と話している時間は少しもないのだと…」

私は面会の時と変わらない彼に対して呆れさしかなく、その心配が現実となって表れたかのように別の看守がやってくる

「何事だ!?」

相手は1人、いや2人か

とにかく仲間を呼ばれたら面倒だと考えたが私より先に和也くんが檻の中から出ては1人の看守をおもいっきり殴り気絶させる

目に見えないほど早い判断力と行動力

少し驚きました

もう1人は私が静かにさせると和也くんが私に振り向く

「見ていなかったケド…雪村先生って強かったんだな」

「いえ、私は貴方のように暴力的な事は嫌いなので

友人が作ってくれたこの数分間の記憶も消せる催眠スプレーを使わせてもらっただけですよ」

「何それ、医者こえーーー!!!!!!???」

二ノ宮は医師ではありませんが…

こんなものをさっと作って渡す二ノ宮を私も恐いと思う

「一撃で熊も倒せそうな貴方にだけは言われたくない

さっ行きますよ」

とにかくここで話している暇がない事がさっきのでわかった和也くんは黙って私の後をついてくる

ほとんどの看守を眠らせてきたから和也くんはそれに驚いている様子と

脱獄の手助けをする私に心配の目を向けてきたが私は黙ったままだった

「こら!!高橋!!!!

少しは大人しくできないのか」

後一歩でこの刑務所から出られると思った時、怒鳴り声が和也くんの足を止めた

振り向くと、またお前かと言った顔をした看守がかなり怒っているみたいだ

「山崎さん!俺、脱獄します!!」

「馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、本物の馬鹿かお前は」

看守に向かって素直に脱獄宣言は私も和也くんが馬鹿だと言う事には同感だ

しかし、違った

この看守の山崎さんが言う馬鹿の意味はそう言う意味とは違って

自分を大切にしろとの意味の方だった

私には相手が何を言いたいのか、何を本当に伝えたいのか…なんとなくわかる

「今日は山崎さんの言う通り大人しく檻の中で寝てやりません!

俺の好きな女にはもう時間がないから、俺は今会いに行かなきゃ絶対この先死ぬまでずっと後悔する」

「その女の事は忘れろと言ったはずだ

脱獄して罪を重ねる事に意味などない、諦めろ

…と言った所で馬鹿な高橋が聞くはずもないか」

和也くんは山崎さんの言いたいコトがちゃんとわかっていても

それは聞けない…

彼は人に正しい事を言われても自分の意思を優先する人だった

「オレは全力で高橋を止めるぞ」

「…山崎さんは俺に勝てないよ」

和也くんは自分の邪魔をするって言うならどんな相手にだって負けやしない

和也くんの唯さんへの想いは誰にも負けないから、和也くんは誰にだって勝ってしまう…

決着は一瞬でつく、和也くんの目の前には膝をついて意識のない山崎さんの姿がある

殺してはいない

数時間もすれば目を覚ますだろう

きっと山崎さんも和也くんには勝てないと思っていた

それでも和也くんを必死に止めようとしてくれたのは

和也くんの為に、これ以上罪を重ねさせない為…

「雪村先生、行こう」

和也くんに言われて刑務所の外へと一歩を踏み出した


刑務所から少し離れた所で、私はこれに着替えなさいと和也くんに私服を渡した

「用意周到でありがたいです!!

……いやちょっと待て、雪村先生の用意してくれた服がなんか奇抜すぎて着方に少し苦戦するんだケド

目立つだろこの服…嫌がらせか」

それは二ノ宮の選んだ服です

彼は奇抜で派手な格好を好むのを忘れていました

私はまぁいいかと思っただけで…決して嫌がらせなどではありませんよ…たぶん

「先ほどの…」

「ん?」

二ノ宮の選んだ私服をどうやって着るのか考えている和也くんに私は話しかける

「山崎さんって方は和也くんの事を心配していました

彼の言っている事は正しい

貴方はこれで良かったのですか」

「えー!?もう脱獄した後にそれ聞くのか!?」

「私は唯さんの為に貴方を脱獄させました…

私は貴方の事なんて少しも考えずに」

看守の山崎さんの事を考えると、私は本当に自分勝手なのではないかと

いくら唯さんの為とは言え、まだ20歳にもならないこの小鳥をさらに不幸にするなんて…

「えっそれでいいんじゃん

雪村先生が変に俺のコトを考えちゃったら、俺は脱獄なんてできなかったかもしれねぇし

俺は…唯に会いたいんだよ

唯が10年生きられないって言うなら、今会いに行くしかない

山崎さんも雪村先生も俺を心配してくれてるってわかるケド」

「いえ、私は別に和也くんの事は心配していません」

「しろよコラ!!!!!!!

俺は…これから唯に会いに行くケド

もし、唯が雪村先生を好きだったとしても

自分の想いが届かなくても

このコトを後悔しねぇ

今度こそ自分の気持ちをちゃんと伝えられたら…それだけでいいよ

本当は唯と両想いになれたらって願望もあるケド、そればっかりは唯の気持ち次第だからな

唯を俺に振り向かせるには唯の時間が足りなさすぎて、いまさら自分がどうこうなんて……

小さい頃からずっと一緒にいたのに、あの時までに何もできなかった俺が悪いんだよ…

あの時に俺は唯に気持ちを伝えたハズなのに

でも、唯にはちゃんと伝わっていなかった

だから今度こそ…俺の気持ちをちゃんと知ってほしい

俺は自分の気持ちのコトしか考えられない

自分の身がこの先どうなろうと、どんな人生が待っていようとも

俺は自分のこの気持ちの言う通りに動きたい

後悔したくないから」

私は…和也くんの『もし、唯が雪村先生を好きだったとしても』の言葉に何も言えなかった

本当は違うとわかっているのに

私からそれを言いたくなかった

なんて…私はまだ心の弱い人なんだ

和也くんを脱獄させて唯さんに会わせると決意して実行した今でも

私は弱かった…

和也くんが眩しく見えるくらいに、私の心は弱い

「意志の強い人…それが正しいかどうかは置いておいても

本当に心が強いと言うのは貴方みたいな人の事でしょうね

羨ましいくらい…」

「えっ…?」

私の声は弱々しく呟くように

私が最初から和也くんに勝てる事なんてなかったんだ…

着替えも終わってそろそろ病院に向かおうとした時、私の肩に一羽の小鳥が止まる

それを見た和也くんが小鳥を指さして叫んだ

「あーーー!!もしかしてその小鳥、前に唯が手紙で書いてたやつか!?

真っ白で綺麗な小鳥だって」

言われて見ると肩に降り立ったのはいつもの私の小鳥だった

こんな所まで来るなんて…私はこの小鳥にとても好かれ懐かれているようだ

「今思えば、唯が手紙に書いてたコトって名前は書いてなくても雪村先生のコトばかりだったのかも」

それは入院してから唯さんが私以外と話す事がなかっただけで…

「やっぱり唯は雪村先生のコトが…」

「脱獄をやめるなら今のうちですよ

看守達が眠っている今なら貴方は今までと変わらない檻の中の生活に戻れます」

まさか私が…こんな意地の悪い事を言う日が来るなんて

今になってあの時の朝日奈先生の気持ちがよくわかる気がする

「まさか!雪村先生、俺はそんな事で諦めたりなんてしないぜ

唯に「和也なんて死んでもないわ~」って言われるまでは…諦めない……うっ」

自分で言っておいて泣くのか…

このまま和也くんが唯さんを諦めてくれたらと思うのに

でも、それじゃ唯さんは本当には救われない

私では彼女を救えないとわかったから、ここに来たと言うのに

「さっ雪村先生、案内してくれよ

唯のいる病院に!!」

「わかりました

もう戻れませんよ…いいのですね」

「何回言わせんの!?

いいって、俺はそれがいいんだよ」

和也くんは自分がやっている事がわからない人ではない

それでもずっと笑顔で迷いがなかった

あの檻を開ける時、私はその事に後悔するかと思ったが

和也くんの強い心を知った今は彼ならきっと唯さんを本当に救ってくれる

その役目は私がよかったが…

私では駄目なのだとわかっているから



-続く-

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