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『白い鳥かごの中で』  作者: Celi
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第四羽 灰色の刑務所 ~和也編~

俺は高橋和也、19歳大学生

爽やかな容姿に運動神経抜群とさらに成績優秀の自他ともに認める完璧な男前!!!

そんな今の俺は刑務所の檻の中で逆立ちをしていた

「………ギャグじゃないぞ!?」

何故こんなコトをしているかと言うと、俺はどうも身体を動かしていないと落ち着かないタイプのようで

こんなちっぽけな檻の中は窮屈で仕方がねぇんだ

「うるさいぞ!!」

俺の独り言にまたお前かって顔をした看守が顔を覗かせる

「何時だと思ってんだ!?」

「真夜中の3時」

「とっとと寝ろ!!!!」

この看守はよく俺を大声で怒鳴るが、話をするとなかなか良い奴だ

俺は怒鳴られようが勝手に動く身体は止められなかった

「誰が反復横飛びしろって言ったんだ

それで会話するのやめんか」

「身体動かしてないと死ぬ病気なんだぜ俺!?」

「知るか、この馬鹿は…」

昔から格闘技とか大好きだった俺

5人までなら一度に襲い掛かってきても勝てる自信がある

かと言って、体格はそれほどってコトもない

みんなからは爽やかなイケメンと言われている

そう、俺は脱いだら凄いんですってタイプだ

…いやそうでもないかもしれない…

「そうそうそれ山崎さん、俺って学年トップの成績だったし運動神経も抜群でさらにこの爽やかなルックスだろ!?

なのに何故かみんなからバカだとかアホだとか言われるんですけどなんでなんすかね」

「なんでなんだろうな…」

看守の山崎さんが俺を哀れみの目で見ているような気がする!?

俺はバカやアホじゃなくて、ちょっとお調子者な所がある明るくて元気な好青年だろ

「あのなぁ、オレはお前の事が嫌いじゃないが

ここにいる意味をちゃんとわかっているのか?反省しているのか?」

「もちろんですよ!?なんですかその疑いの目!?」

わかってますって

人殺しなんて最低な行為だろ

俺の知り合いに拷問殺人カニバリズムが大好きなイカれた双子の殺人マニアがいるケド、俺はそいつとは違う

人を殺す事に興奮もしなければ楽しい気持ちなども持ってはいない

俺は自分の罪をちゃんと受け止めているし償うつもりさ

そういう気持ちはあるケド

「でも…好きな女を守る為にやった事だから、後悔はしていない」

本当に…後悔はない

唯は文人に依存しすぎていた

そのせいで、自分が嫌な思いをしても本当は逃げ出したくても我慢するコトしかできなくて耐えて耐えて…そこから抜け出せなかったんだ

唯の強すぎる依存から解放するには…文人を殺すしかなかった

…俺がカッとなったのもあるケド

きっと唯を文人から無理矢理にでも引き離してもダメだったと思うから…

殺すしかなかった

19年しか生きていない若造の俺にはそれしか思いつかなかったんだよ

自分の人生を懸けてもよかった

昔から今も、そしてこれからも俺は唯を愛してるから

俺はここで罪を償い、そして10年経ってここを出たら…唯にプロポーズするんだ!!

今度は俺が絶対幸せにしてやるからな!!

本当は…文人に取られる前に俺が唯のコトを振り向かせていれば

唯もあんなに傷付かなくてよかったのにな…

俺がバカだったから…俺のせいで唯は心からの笑顔を失ったんだ

あるとしたら後悔は俺が唯を振り向かせるコトができなかったコトかもしれない

「若いな…高橋は

その証拠に未来を考える頭がない」

「はっ?」

「いくら好きな女の為でも10年だぞ?

10年の人生をこの灰色の刑務所に閉じ込められてそれでも後悔はないと言うのかい

思い出してみろ自分が生きてきた今までの10年を

色んな事があっただろう

それがこの先10年丸つぶれなんだよ

後悔しろよ…

そんなお前の人生をめちゃくちゃにした女なん…」

山崎さんが俺を心配して言ってるのはわかる

でも、そんな気遣いに気付けるほど俺はまだ大人じゃなかった

「それ以上言ったら許さない」

鉄格子を叩くと音が鳴る

それを聞いた山崎さんはやれやれと一度引いてくれた

この人は俺と喧嘩したいワケじゃなかったから、俺よりずっと大人だった

「俺は唯のせいで自分の人生がめちゃくちゃにされたなんて少しも思っちゃいねぇ

自分の命を人生を懸けてでも好きな女を守るのは当然だろ」

「…お前はいまどき珍しい男だな

見た目や性格と違って意外に硬派な所に驚いてるよ

そういう考えも立派だが、いまどきらしく軽く考えてもいんじゃないかい

そんな考えだと高橋はいつか大きくなりすぎた負担に押し潰されるな」

「あんたには俺がそんな軟弱な男に見えるって言うのかよ」

面会に来た友達だってみんな驚いてたさ

いくら好きだからってそこまでやるか?ってな

でも、俺は誰に何を言われようと自分の信念を曲げるつもりはない

唯は俺が守るってはじめて好きだと気付いた時から誓ったんだ

俺は唯の為なら、なんだってする

唯が文人から暴力を受けて傷付いているコトに気付くのが遅すぎた俺は自分が許せない

みんながみんな、俺が間違っていると言っても

俺は唯を見捨てたりしない

「だから未来を考える頭がないって言ってるのに

10年お前はここにいて、その女は自由な外にいるんだ

10年の間に好きな男の1人や2人くらいできるだろ

自分が殺人なんて大罪の前科持ちって事もわかってるのか

普通に考えて女からしたらお前なんて嫌に決まってる

オレはお前が嫌いじゃないから意地悪を言ってるわけじゃない

女なんてそんなものだって教えてやってるんだよ」

この人、過去に女の人から酷い仕打ちでも受けたのか…

「………………。」

いやでも…普通に考えれば山崎さんの言ってる事は間違いじゃない

「今のお前のまま10年経った時、またその女のせいでここへ逆戻りされても困るからな

よく考えろ

……長話しすぎたな、とっとと寝な」

山崎さんは俺にそう言うと立ち去っていった

身体を動かさないと死ぬ病気とか言っていた俺だが、そんな気分じゃなくやっとベッドへと横になる

目を閉じると山崎さんの言っていたコトを思い出す

10年後は外の世界は変わってて当たり前だ

弱っている唯を近くで支えてくれる男が現れてもおかしくない

俺は唯の傍にはいられなくて、何も知らずに何もできずに…

10年後に唯に会いに行った時…また嫌な気持ちになるかもしれない

他の男と幸せそうにしてる唯を見るのは死ぬほど辛い…

唯が幸せならそれでいいと思えるほど、俺は優しくないからな

でも……俺は唯を忘れるなんてできない…

俺は唯が傷付けられたから文人を殺したんじゃなくて、本当は唯を手に入れた文人に嫉妬して殺したのかもしれない



いつの間にか眠ってしまっていた俺は目が覚めても昨日のモヤモヤが晴れないでいた

自由時間になった時、俺の元に1通の手紙が届けられる

高橋和也様と書かれた見慣れた可愛い文字は裏面を見なくても唯からなのだとわかった

「マジかああああああああ!!!!!!」

「うるせぇぞ高橋!!」

唯からの手紙に毎回喜び叫ぶ俺、誰かにうるさいと怒鳴られる

いつもの流れだ

俺はわざわざ正座して唯の手紙を読む

身体を動かさないと死ぬ病気とかあれウソだから

この瞬間が今1番の幸せなんだ

後、晩飯がからあげとかハンバーグだった時とかも幸せだ!!

もう随分、唯の顔を見ていないのに忘れるコトなく鮮明に思い出される

『和也へ

いつもお手紙ありがとう

私は今日も元気だよ

和也がいつも楽しい話をしてくれるから、私はいつも昔のコトを思い出した

たくさん…色々……楽しかったコトも、嬉しかったコトも、幸せだったコトも

でも、私には思い出せないコトもたくさんあった』

あれ…なんかいつもと雰囲気が違うような

唯はいつも楽しいコトを書いて手紙をくれていたのに、何かあったのか?

『私、いつも和也に伝えなきゃいけないと思ってたの

ずっと楽しい話だけをしていたかったけれど、そろそろちゃんと伝えておかないと

もう伝えられないような気がするから』

ちょっと待てよ…唯、何言ってるんだ

『和也、本当にゴメンなさい

私のせいで和也の人生をめちゃくちゃにしちゃったね』

唯の手紙に書かれているコトは昨日山崎さんに言われたコトと同じだった

唯自身もそう思っていたみたいで…ずっと気にしていたのか

だから…面会にもずっと来てくれなかったんだな

『ずっと和也のコトが心配だった

あんなコトになったのに、和也はそれでも私を気遣って手紙をくれて

私は和也に何をしてあげられるのか考えても思い付かなかった

私はただ和也の幸せを祈るコトしかできないのだと思った

和也、もう幼なじみだからって私に気を使わなくていいんだよ

自分だけの幸せを考えて

私はそれを強く祈っているからね

幸せになって、頑張って、和也なら絶対大丈夫だから

私の願いだよ』

どういうコトだよ…

何言ってるんだよ唯

こんな文面…もう一生会えないみたいな言い方

俺は幼なじみだから唯に気を使ってるワケじゃないんだぞ!?

なんにもわかってねーよ!!

俺の幸せは唯が幸せじゃないと意味がない

唯を幸せにするコトが俺の幸せなのに…

手紙を読み終えた俺は混乱している

唯に何かあったのかって心配でいてもたってもいられなくなった

「どうした高橋?

好きな女からの手紙が届いた割には世界の滅亡みたいな顔して…フラれたか?」

山崎さんが軽くからかうように言ったが、今の混乱している俺はいつものように会話ができない

「いや…フラれてはいない

えっ…でもこれ一生のお別れみたいな書き方だし、俺はフラれたのかよ?」

何も考えられない

「高橋っどうした!?お前が元気ないとこの世の終わりかと思うんだけど!?」

「しっかりしろよぉお!!」

「お前から元気を取ったらバカしか残らないんだぞ!?」

魂が抜けたようになっている俺に気付いた他の囚人達が騒ぎ出す

なに…俺って意外に人望あったの

いや、助かった

仲間達が俺を励ましてくれたおかげで少し冷静になった(ほぼ罵られているコトには気付けない)

唯は自分が辛い時は辛いって言えないやつだ

それが今回の手紙はハッキリとは言ってないが、文面からして弱々しさを感じる

やっぱり何かあったんだ

もしかして、また変な男に騙されたとか?

事故に遭って命が危ういとか、大きな病気にかかったとか…

バカか俺は…こんな所で想像でしか考えられない

今すぐに唯の所まで駆け付けたいのに

この檻が俺を邪魔する…

俺は手紙を握りしめ、何もできない無力な自分を呪った

山崎さんの言う通り俺は本物のバカだな

未来のコトを考えられていない

こんな鉄格子の内側にいてはすぐに駆け付けるコトもできないのに

俺は唯を文人の依存から解放したコトで満足していた

本当に唯のコトを考えてやるなら、未来もずっと傍にいないと意味がないのに

今すぐ…会いに行きたい……

「妙な事は考えるなよ高橋…」

山崎さんは思い詰めた様子の俺の横を通り過ぎる時、そう呟いた

妙なコト…?

まるで俺の未来が見えているみたいな言い方だ

「山崎さん!俺はどうしたらいいんだ!?」

通りすぎる山崎さんの背中に質問を投げつける

「…高橋のやる事は1つしかないだろう

ここで10年、反省して罪を償う事だ

それ以外にお前がやる事はない

オレはお前が嫌いじゃない

だから、意地悪で言ってるんじゃない

その女の事は忘れろ

お前を不幸にしかしない」

確かに…今俺のやらなきゃいけないコトはそれしかないかもしれない

山崎さんはいつも囚人達のコトを考え思ってアドバイスをしてくれる良い人だってのもわかる

でも、俺とは考えが合わない

成績トップで自称頭が良いなんて俺はお笑いだ

みんなが言う通りバカだよ

それでも…みんなに反対されても

例え、俺が山崎さんの言う不幸になっても

「唯を忘れるコト以上の不幸なんて俺にはない」

「長生きしないタイプだな」

構わないさ

そんなのは最初からわかってた

唯の為に人生を懸けたのだから、唯の為なら俺の命だって懸けてみせる



-続く-

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