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MMOで私のフレンドが姫プレイヤーで貢がれまくってるみたいだけど

 そもそも自分はネットゲームなんてする気はなかった。

 身内に廃人がいたからだ。

 廃人というのはネットで検索してください。

 ボトラーとかいいかもしれん。

 ともかく、ネットゲームをする気なんてなかったのだけれど、色々あってゲームの世界に逃げ込むことになった。

 やってみたらこれがけっこうおもしろい。

 どうせならと自分は超美形のアバタ―を作った。

 男だ。

 現実で自分の女性性というものが嫌になっていたからだ。

 いっそ荷物を全部まとめて、世界に冒険にいってやろうかと一時は妄想をしていた。

 しがらみから解き放たれたかったのだ。

 結局その解放というのは、ゲーム世界での冒険にコンパクトにまとまってしまったわけだが。

 自重はここまでにして、このアバター。

 最初は金髪だ青だと色々髪や目の色を変えて、長髪にしてはみたが、黒髪黒目短髪に落ち着いた。

 どうもカラフルは最初はいいものの、しっくりこなくて無難にまとめてしまった。

 我ながらなんだかなと思ったが、最後はまあいいんじゃねという気持ちになった。 

 さて、このゲームはオーソドックスなファンタジーもの。

 魔法使いや剣士や修行僧モンクや盗賊やなんやと無数の職業がある。

 その辺はまあいい。

 重要なのは自分がゲームの世界を男性アバタ―で冒険していたということだ。

 ゲーム世界では、プレイヤー同士で部活サークルみたいなものを作ることができる。

 そのサークルをギルドというのだが、かわいい女の子アバタ―のあゆゆちゃんという子がいた。金髪碧眼の女の子らしい防具に身を固めたふわふわした姿と言動だ。

 自称女子中学生。

 中身はおっさんかもしれないけれど、そんなものは蓋を開けてみないと分からない。

 そうやって夢をみた男性プレイヤーに、あゆゆちゃんはいわゆる姫プレイというやつをしていた。

 姫プレイもネットで検索するといいですね。

 で、あゆゆちゃんがある日狩りの最中に聞いて来た。


「タラオさんって、中身~リアルおとこのひと、なんですかあ?」


 私はモンスターをぶった切りながら答えた。


「中身オバハン」


 ちょっと沈黙が過った。


「え~そうなんだ~」


 この日はこれだけで終わった。

 どういうわけかたまたまあゆゆちゃんとはギルド内募集でパーティを組むことが多く、私はあゆゆちゃんに対して非常に言動が粗雑で邪険であった。

 ギルドの古株が、


「タラオさんって、あゆゆちゃんと仲悪いの?」


 と聞いて来ることもあった。

 しかしその時はすでに私とあゆゆちゃんは別の関係を築いていたのだった。

 私の中身が女でオバハンと分かって以来、あゆゆちゃんはたまに個人的に話しかけてくるようになった。


「こんにちは」


 とログインするとすぐさま挨拶に来る。

 これはあゆゆちゃんの策略である。男性アバタ―に対して、ログイン挨拶は彼女の親愛を示す常套手段であった。

 対する私の反応は、


「こん」


 こんにちはの略である。あゆゆちゃんはぷんぷんと怒った。実際にぷんぷんと言い出したのだ。


「もぉ~、こんにちは、っていわないとだめなんだよ」


 私は言い返そうと思ったが、まあ正論である。


「せやな。こん」


 認めたが改めない。めんどくせーからだ。

 あゆゆちゃんはいちいちログインのたびに挨拶してくる。そのたびにこんにちはと打つ労力をさく気にもなれぬ相手だった。


「ねえねえ」

「あ?」

「シズメの巫女装束もらっちゃった~」


 高額装備である。どんくらい高額かというと、初心者では手がでないレア装備だ。


「また巻き上げたんかよ」

「ちがうの、くれたの~。これで、かわいく装備して、みせてほしーって☆」

「あほやなそいつ」

「うん☆」


 酷い。もらっておきながらあゆゆちゃんはくれた男アホ呼ばわりに同意している。


「ホンマ悪女やな」

「えへへ~」

「えへへじゃねーよ。悪さもほどほどにな」


 しっぺがえしくるぞ、とまでは言わなかった。私も心から忠告しているわけではない。何事もほどほどに、という毒にも薬にもならない傍観者の立場で適当にいったまでだった。

 ご覧のとおり、私はあゆゆちゃんに対して言動が非常に雑である。他のプレイヤーには一応丁寧に話していた。あゆゆちゃんは姫プレイヤーであれな言動を繰り返すため、次第に気を使うスキルが摩耗して言った結果である。なげやりな対応をする私に対して、あゆゆちゃんはめげずというかこりずというかまだ貢がせようとしているのか色々話しかけてくる。

 次第にあゆゆちゃんの人心掌握術にはまっているような気がしないでもないが、気を使わないでいいというのは一種の楽さもあって、ますます私は雑に対応した。


「ねね」

「なんや」

「いまね、アレクさん落とそうとしてるんだ~」

「アレクさんか。あれ手ごわいで」

「うん。でも落とす~」


 アレクはあゆゆちゃんがあの装備ほしいけどお金な~いと言っていた時に、「自分で頑張って買いなさい」と説教していたギルドの古株である。

 内心私は感心していたくらいだ。

 しかし一週間もしない内にあゆゆちゃんから「ねねね」と報告があった。


「アレクさん落とした~」


 アレクさんちょろすぎる。おい、ちょろ過ぎるだろお前。

 複雑な気持ちになった。


「今からデート~」

「デートって何するん」


 ゲーム内デート。私には理解不能だった。


「狩りでもするんか」


 狩りというのはモンスターを倒す行為のことだ。


「ううん、おうちに行ったり~お話ししたり~」

 

 私たちプレイヤーは自らの住宅を持つことも可能である。そのうちに招いてお茶会めいたこともできるのだ。

 私はめんどくせーからやらないが、あゆゆちゃんは頻繁にやっているらしい。


「それから茶エッチ」


 茶エッチとは、チャットで性的な会話をすることである。おいアレク。おいアレクぅうううう!


「おい」

「えへ~」

「えへ~じゃねーよ。おい女子中」

 

 さすがにどうかと思って私は「もっと自分を大切に」などという赤面物の台詞を吐かされることになった。


「大事にしてるよ~」


 あゆゆちゃんは言う。


「自分がいちばんたいせつだもん」

「ならいいけど、間違ってもオフ会誘われても行くなよ」

「・・・」


 あゆゆちゃんは「・」を三つうった。「……」と書かないところがなんかあるんだろう。


「おいおま」

「えっとね、これないしょね」


 内緒話で新密度を上げる。あゆゆちゃんの人心掌握術恐ろしい。


「実はね、オフであったことある~」

「! アレクとか」

「ううん、別の人~」

「オフ会?」

「ううん、一対一~」


 サシオフというやつだ。私はぞっとした。男は狼よ、なんて古臭い台詞が脳裏をかけめぐる。ネットで女子中名乗る女の子と一対一で会おうという男の脳味噌の中身なんて……


「危ないことされなかった?」


 思わず真剣に聞いてしまった。くっそ、くっそ、あゆゆちゃんの人心掌握術ぱねえっす!


「うん、だいじょうぶだったー」

「カラオケとかいってないだろうね? 危ないからね、ああいう密閉空間は」

「お茶しただけ~」

「ならいいけど、もう行ったらあかんで。誘う奴おったらそいつ直結厨やからな」

「うん」


 本当に分かっているのかこの子は。

 私はなんだかもんもんとした。

 中身はおっさんかもしれないあゆゆちゃん。これもあゆゆちゃんの手なのか。

 ちなみに、私はあゆゆちゃんにはっきりと「私の性別きいたのって、カモにできるか確認するためだったんやろ」と聞いて、「うん!」と元気な返事をもらっている。

 悪びれないあゆゆちゃん。メンタルつえー。

 自称女子中学生のあゆゆちゃん。

 私もだんだんなんだかどうでもいい気持ちになってきて、「中身40のオッサンでも許すわ」と本人に告げた。


「え~ひどい~」


 とあゆゆちゃんはいっていたが、知らんがな。お前に貢いだ全男性プレイヤーも同じ気持ちじゃ。

 そんなこんなで今日も私はレベル上げをしていた。


「タラオさん、狩りレべあげとレア狩りいきます?」


 ギルドチャットで誘いが来て、私とあゆゆちゃん、ギルドマスターの次点の副ギルマスソウメイさん、あゆゆちゃんに落とされたアレクさんの四人で行くことになった。

 あゆゆちゃんとは久々にパーティを組む。

 

「ふえぇえ~」


 とあゆゆちゃんが言った。私は「w」と打ち込んだ。通称草。失笑の意である。その後も私は草を生やしまくった。

 ソウメイさんがコメントした。


「あゆゆちゃんて、女の子らしい女の子だね」

「ふふふ~」


 その時私はあゆゆちゃんにフレンドチャットで「ふえぇえじゃねーよ鳥肌出るだろがおい」と文句をつけていたところだった。

 対するあゆゆちゃんは「でしょー」と返してきた。分かっててやりおるこいつ。更には、


「ソウメイさんももう半分落とした~」


 とまでのたまった。

 鉄のメンタルの女、あゆゆちゃん。私はむしろ感心して、「ホンマ尊敬するわある意味」と漏らした。

 現実でのふるまいに日々ストレスを感じている私は、ゲーム内でまで女性らしさといった言動をする気は全くなかった。粗雑なくらいがちょうど疲れない。常識程度ならともかく、相手のご機嫌とりに終始気を使うなんてごめんだった。

 その意味で男どもを『飼って』『管理』までしているあゆゆちゃんに本気で感心していたのである。

 その後、ソウメイさんから「タラオさんって……あゆゆちゃんに雑だね」とコメントをもらた。

 それこそ知らんがな。

 しばらくして後日のことだ。


「あ」


 ある日あゆゆちゃんが言ってきた。


「もうやだ」

「?」

「前彼がストーカーしてきて今家の前にいる」

「!」


 小一時間あゆゆちゃんの話につきあった。リアル呼べる友達もいないあゆゆちゃんはご両親帰宅まで怯えていたので家を出ないように言った。

 しかし翌日、私は変な気持ちになっていた。色々と話に整合性がつかず、破たんしている気がしていたのである。

 なので私はそのことに触れないことにきめた。

 でもって、やはり私はレベル上げをしていた。

 すると、ポーン、と間抜けな音がなった。

 副ギルマスのソウメイさんだ。個人チャットのため、二人の間のみの会話表示となる。


「なんすか?」

「タラオさん、今ちょっといいかな」

「はあ、大丈夫っすけど」

「実はあゆゆちゃんのことなんだけど」


 そういえばあゆゆちゃん、ソウメイさんのことも落とした報告くれたな~と私の脳裏を彼女の笑顔が過った。

 この間の雑な対応を注意されるかなあと思いつつ私は「どうぞ」と促した。


「タラオさん、この話は内密にお願いしたいんだ」

「はい。自分フレもほとんどいないんで漏れることもないっす」

「そんな寂しいこと言わんで^^;」


 事実だが。そういうフォローされると余計に辛いんだが。


「これはできればなんだけど、あゆゆちゃんのこと気にかけてあげてほしいんだ」

「はあ?」

「あ、僕みたいに彼女に貢げって話じゃないから」

「何や気づいてたんすか、副ギルマス」

 

 正直驚いた。貢がされてるの自覚していたのかこの人。


「うんw それはさすがにww」

「自覚して貢いでるんすか。マゾプレイっすね」

「www」


 草を生やされまくった。


「うん、僕はあの子に貢いで喜ぶのみるまでが育成プレイで楽しいからいいんだよ」

「昔そんなゲームありましたね。プリン〇セスメーカーか。副マス、一人だけ別ゲーしてるんすね」

「w」

 

 草生えまくって話が進まないので私は口をつぐんだ。


「あゆゆちゃん、ご両親が共働きでいつも一人って話をこないだしてたよね」

「そうすね。彼女、ご飯も自分で作ってるって言ってましたね」

「でもね、あの子作ったご飯自分は食べてないみたんなんだよ」

「!」

 

 そういや食べることが嫌いと言っていたな。


「不登校児だし」


 この話も本人が皆の前で漏らしていたことだ。

 

「心配なんだよね、おじさんは」

「たすかに」


 本当なら実に心配な話である。


「それであゆゆちゃん寂しいから構って癖があって」

「!」


 私は先日あったあゆゆちゃんのリアル構って事件について話した。元彼がストーカーしてきて怖いという話である。しかし後から考えると色々破たんがあって、構ってほしいあまりの虚言癖だった可能性について私はここ数日悩んでいた。


「誤解しないでほしいんすけど、あゆゆちゃんて虚言癖ありますか?」

「うん、あるね」


 このおっさんはきっぱり肯定した。あゆゆちゃんに落とされたアホ男性プレイヤーの一人と思っていたが、ソウメイさんはちゃんと分かっていてそれ自体を楽しんでいたようだ。

 深い……


「それもやっぱりさびしさからくるものだと思うだよね」

「ソウメイさん、正直ソウメイさんてあゆゆちゃんのあほ取り巻きと思ってました」

「ww」

「でも今は申し訳なかったっす」

「いいよ~ソウメイも自覚して貢いでたし~」


 ソウメイさん急に砕けた。


「ソウメイ、リアル娘がいるから心配になっちゃうんだよね~」

「なるほど」


 子煩悩パパの貢ぎ甘やかしプレイだったらしい。

 ホンマ深いすな……


「でね、話ちょっと飛ぶけど前のギルマス別の人だったの知ってる?」

「えーっとコジロウさんですよね」

「うん。このコジロウさんがね、オフ会してあゆゆちゃんを呼び出そうとしてたんだ」

「!」

「だからソウメイ止めたんだよ~」


 ソウメイさん、あんたホンマパパさんや。今まで誤解していました。ごめんなさい。


「でもあゆゆちゃん構ってほしいから、行っちゃいそうなんだよね」

「……実は」


 悩んだ末、あゆゆちゃんが過去にサシオフをやっていたことを話した。本当は個人的なことな上内緒と言われたことだからいうのはマナー違反だ。しかし女子中学生をオフ会に誘おうとする大人の男がギルド内にいる現状、情報を共有しておいた方がいいと判断したのだ。

 まあ、いいわけだ。自分でもよろしくないと分かっている。


「え、あのこ行っちゃったことあるのか~。危ないな~」

「危ねーよねホント」


 私もしみじみと言った。


「オフ会への心理的抵抗が下がってると思うんで、注意した方がいいすよ」

「うん。あの子は本当にも~」


 も~という40代子持ちのおっさん。新しいな。


「オフ会自体は否定しねーっすけど、あれは自己責任の大人同士がやることで、未成年を誘おうとすること自体が通報ものっすね」

「うん。とりあえずソウメイが中に入って立ち消えにしてもらったけど、また再発しかねないから~。で、あゆゆちゃん構ってほしくて行くっていいかねないでしょ」

「はあ」

「だからね、あの子のことを気にかけてほしいんだよ~。そんな媚うったりしなくても、あゆゆちゃんのこと好きな人がいるよって、分かってほしいんだよ~」


 こんなことがありました。

 そして一年後。

 ソウメイさんがふと言った。


「あゆゆちゃん構って癖が減ったね~」


 私も感じていた。特別なことは何もしていないけれど、良いことだと思う。


「いい傾向だよね~」


 相変わらずソウメイさんはあゆゆちゃんの育成プレイに熱を注いでいた。貢ぎものもあゆゆちゃんからしょっちゅう報告が入る。

 しかし何を思ってこの子はいちいち戦果を誇らしげに報告してくるんじゃ。

 ネズミをとってきて枕元に置いて行く猫みたいなところがある子だ。


「おいエロ親父。エロ装備プレゼントしてんじゃねーよ」

「どき」

「通報するぞ」

「それだけはご勘弁を」


 下心もあるかもしれぬような気がして時々釘をさす。

 あゆゆちゃんはやっぱり姫プレイがはかどっているようだ。

 



 MMOで私のフレンドが姫プレイヤーで貢がれまくってるみたいだけど、まあまあ私は彼女が好きです。

 終わり。


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