1:学校で
1 「学校で」
「杪さん。」
教師に名前を呼ばれる。高橋光といい、格好いいと女子に人気な教師だ。
やっぱり――と周りがざわつく。
主人公―――杪冬衣の通っている学校は音楽家を目指す学生のエリートの中のエリートしかいない。その中の特Aクラス、つまり特進クラスでバイオリンの腕が1番と言われている冬衣は何というか・・・何にでも投げやりな性格だった。
今日、全校が集まったのはこの高校の定期的な発表のため。表向きには福祉事業と言いながら1人で演奏することができる者の中で最も優れた者の名を呼び、学校の評価をあげるため、その者に何かと働かせる。今回の場合でいくと、冬衣は近くの病院へ行き、音楽を聞かせる。患者は回復へ向かっている患者ではなく、望みを失った、精神的ショックで立ち直らない患者ばかり。
冬衣は1瞬目を細めると前を向く。漆黒のくせ1つない髪がゆれる。少し度の入った眼鏡の奥の瞳はまっすぐ名を読み上げている教師を見据えた。
「曲は各自で考えてこい。患者の気分を害しないように、以上。」
1言で言い切り、教師は脇へ下がる。生徒は少しずつ散らばっていく。
1週間後に迫っているそれに名前を呼ばれた生徒はパラパラと楽譜をめくる。
帰ろうと鞄を傍に引き寄せたとき、こんな声が飛び込んできた。
「1年の杪って子、多分先生とできてんじゃない?」
・・・・・・・・・。
「多分そーだよっっ!中学ン時もずっとトツプだったらしいし。」
「えーでもさー?できてるのとトップってなんか関係あんのー?」
「あるある大あり。できてるからひいきすんのよ。」
「あーなっるほど。」
視線がチラチラと背中に突き刺さる。
・・・・・・やってられない。
スッ
冬衣は帰るため立ち上がり校門の方へ歩き出す。
1度振り返り、2年らしき2人の眼を見つめ、目を細める。2人が固まる。やがて顔を前に戻し校門へ向かう。冬衣は2人が今どんな表情をしているか、手に取るように分かり、口の端を上げ、音もなく笑った。
学校を出ると、すぐのところに先程とはまた違った女子2人を見止めた。
「キャーーーー!!どうしよっっ!名前呼ばれちゃったよ!!」
1人はしゃいでいる女子をもう1人は言う。
「よかったじゃん。あたしの分も頑張ってよっっ!」
口先だけの笑い方。はしゃいでいる女子はそんな笑い方にも気付かず、くみのほうが断然うまいのにー。あたし、くみだと思ってたー!!とはしゃぐ。
・・・・・・あの子はこの世界では長生きはしないだろう。
冬衣は静かにそれを悟って家へ帰って行った。
プロローグ書いてからかなり時間がたったような・・・。更新を早くしたいものです。