SCORE3: OL'MAN RIVER☆3
軋むような音とともに扉が一気に押し開けられた。
「馬鹿野郎! 誰だ? こんないい時に邪魔しやがって──」
すぐさまTMが体を起こして怒鳴った。
「?」
TMの体の下でギャリーは薄く目を開ける。
コニーが入って来た。
室内の、蟠っている闇の中を近づいて来るコニーは、逆光のせいで光に縁どられているように見えた。
ギャリーが先刻、校庭で気づいた通り、コニー・ヘイルは凄い迫力があった。
きっとジュヴナイルではない本物の修羅場を体験したから?
ゆっくりと進んで来るその男を、凌褥の最中、最悪の状態にありながらギャリーは思わず見蕩れてしまった。そう、あれ、ノーブルでクールでエクセレント……!
「お、おまえ、イコン? な、何の用だよ?」
TMが上擦った声で喚いた。
「あ、あっちへ行きやがれっ!」
「──」
コニーは無言でTMを見つめた。
ギャリーは思った。あれは、〝睨んでいる〟というのとも違うな?
驚いたことに、TMはギャリーから体を離すとジーンズを引き上げながらこう言った。
「ケッ、まあ、いいさ。今日のところは充分に楽しんだしな?」
それから、あくまでもそれが自分の決断であると言うように、首を巡らして周囲の仲間に怒鳴った。
「おい! 引き上げるぞ!」
一緒にいた連中も誰一人反対するものはいなかった。全員そそくさと引き上げて行った。
最後の一人が扉を摺り抜けて消えて行くまで、コニーは動かず、同じ場所に立って見届けた。
それから、床に転がっているギャリーに目を向けた。
惨め過ぎて、ギャリーはじっとしていた。
最も見られたくない場面を、最も見られたくない人に見られてしまった。
またしても、自分の非力さを痛感した。
失敗に終わった校庭の救出劇に反して、コニーは完璧だった。
こういうのを、まさに〝救出〟と言うのだ!
「大丈夫か?」
コニーは足下に落ちていたギャリーのシャツを拾い上げると、傍へ来て、膝を突いて尋ねた。
「先生を呼んで欲しいかい?」
急いで首を振る。自分ではそんなつもりはなかったのに涙がこみ上げてきた。
ギャリーは顔を床に向けて嗚咽を堪えようとした。が、だめだった。
コニーの腕が背中に回されるのがわかった。
そのまま肩を抱いて支えてくれた。
何処かで──
涙を止められないまま、ギャリーは考えた。
何処かでこんなシーン見たことなかったっけ?
デ・ジャヴー……?
はっきり思い出した。昨日の夢だ!
イエスの愛したもう弟子
イエスの御胸に寄り添いいたれば
彼 そのまま 御胸に寄りかかりて 寄りかかりて 寄りかかりて……
ギャリーの心の中で聖画は静止した──
どのくらいそうしていたろう。
やがて、コニーは低い声で囁いた。
「落ち着いたか?」
「落ち、落ち着きたくなんかないよ。こんな……サイテーだ、俺……」
「気にすんなよ。俺はもっとサイテーだから」
優しくギャリーの肩を揺すって、悪戯っぽくコニーは言う。
「ほら? サイテーのクズ野郎になら、何を見られても平気だろ?」
ギャリーはそっとコニーから体を離した。
「俺は、本当はおまえが最低だなんて思っちゃいない。そういう風に思ったことは一度もないよ」
さっきコニーが渡してくれたシャツを握り締める。
「知ってるだろ? あの時、俺はあいつらが怖かったんだ。俺は意気地なしで、連中に嘲笑されるのが怖かった。それで……だから……」
ギャリーは言葉を探した。何とかまともなことを言いたかった。真実を。
「おまえは最低じゃない。俺はずっと……ずっと……」
でも、それ以上、言葉にならない。
突然、コニーが体を捻って扉の方を振り返った。
そこはさっきTMと不良仲間たちが出て行ったそのままに大きく開いていた。
コニーは立ち上げると扉の前へ行き、それを閉めた。そして、中からしっかりと斡旋した。
それから、一層濃くなった闇の中を引き返して来た。
近づいて来るコニーを見つめて、つい、ギャリーは呼んでしまった。
「……イコン?」
コニーは吹き出した。
「チェッ、悪いことはできないな? 本当はそっちの名は秘密のはずだったんだ」
ギャリーは赤くなって、
「あ、ごめん。つい……」
「でも、いいよ。実際のとこ、その名、気に入ってるから。少なくとも、親からもらったコニーなんて間抜けでノンキな名よりは、な」
「俺もそう思うよ! いや、つまり、俺が言いたいのは──こっちの名の方がおまえに合ってる!」
「あんたも、さ、ガブリエル。……それは天使の名だ」
「!」
ギャリーは吃驚した。
── 聖画に褒められるなんて……!
ギャリーが膝の上でクシャクシャにしているシャツをコニーは取り上げた。
今度は、TMが投げた処よりもっと遠くへ投げる。
そうして、腕を伸ばして裸のギャリーを捕まえると引き寄せた。
そのまま、暗闇の中で二人は愛し合った。