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天国の扉  作者: sanpo
7/30

SCORE3: OL'MAN RIVER☆3


 軋むような音とともに扉が一気に押し開けられた。

「馬鹿野郎! 誰だ? こんないい時に邪魔しやがって──」

 すぐさまTMが体を起こして怒鳴った。

「?」

 TMの体の下でギャリーは薄く目を開ける。

 コニーが入って来た。

 室内の、蟠っている闇の中を近づいて来るコニーは、逆光のせいで光に縁どられているように見えた。

 ギャリーが先刻、校庭で気づいた通り、コニー・ヘイルは凄い迫力があった。

 きっとジュヴナイルではない本物の修羅場を体験したから?

 ゆっくりと進んで来るその男を、凌褥の最中、最悪の状態にありながらギャリーは思わず見蕩れてしまった。そう、あれ、ノーブルでクールでエクセレント……!

「お、おまえ、イコン? な、何の用だよ?」

 TMが上擦った声で(わめ)いた。

「あ、あっちへ行きやがれっ!」

「──」

 コニーは無言でTMを見つめた。

 ギャリーは思った。あれは、〝睨んでいる〟というのとも違うな?

 驚いたことに、TMはギャリーから体を離すとジーンズを引き上げながらこう言った。

「ケッ、まあ、いいさ。今日のところは充分に楽しんだしな?」

 それから、あくまでもそれが自分の決断である(・・・・・・・・)と言うように、首を巡らして周囲の仲間に怒鳴った。

「おい! 引き上げるぞ!」

 一緒にいた連中も誰一人反対するものはいなかった。全員そそくさと引き上げて行った。

 最後の一人が扉を摺り抜けて消えて行くまで、コニーは動かず、同じ場所に立って見届けた。

 それから、床に転がっているギャリーに目を向けた。

 惨め過ぎて、ギャリーはじっとしていた。

 最も見られたくない場面を、最も見られたくない人に見られてしまった。

 またしても、自分の非力さを痛感した。

 失敗に終わった校庭の救出劇に反して、コニーは完璧だった(・・・・・)

 こういうのを、まさに〝救出〟と言うのだ!

「大丈夫か?」

 コニーは足下に落ちていたギャリーのシャツを拾い上げると、傍へ来て、膝を突いて尋ねた。

「先生を呼んで欲しいかい?」

 急いで首を振る。自分ではそんなつもりはなかったのに涙がこみ上げてきた。

 ギャリーは顔を床に向けて嗚咽を堪えようとした。が、だめだった。

 コニーの腕が背中に回されるのがわかった。

 そのまま肩を抱いて支えてくれた。

 何処かで──

 涙を止められないまま、ギャリーは考えた。

 何処かで(・・・・)こんなシーン(・・・・・・)見たこと(・・・・)なかったっけ(・・・・・・)

 デ・ジャヴー……?

 はっきり思い出した。昨日の夢だ!


   

   イエスの愛したもう弟子

   イエスの御胸に寄り添いいたれば

   彼 そのまま 御胸に寄りかかりて 寄りかかりて 寄りかかりて……


 

 ギャリーの心の中で聖画は静止した──




 どのくらいそうしていたろう。

 やがて、コニーは低い声で囁いた。

「落ち着いたか?」

「落ち、落ち着きたくなんかないよ。こんな……サイテーだ、俺……」

「気にすんなよ。俺はもっとサイテーだから」

 優しくギャリーの肩を揺すって、悪戯っぽくコニーは言う。

「ほら? サイテーのクズ野郎になら、何を見られても平気だろ?」

 ギャリーはそっとコニーから体を離した。

「俺は、本当はおまえが最低だなんて思っちゃいない。そういう風に思ったことは一度もないよ」

 さっきコニーが渡してくれたシャツを握り締める。

「知ってるだろ? あの時、俺はあいつらが怖かったんだ。俺は意気地なしで、連中に嘲笑されるのが怖かった。それで……だから……」

 ギャリーは言葉を探した。何とかまともなことを言いたかった。真実を。

「おまえは最低じゃない。俺はずっと……ずっと……」

 でも、それ以上、言葉にならない。

 突然、コニーが体を捻って扉の方を振り返った。

 そこはさっきTMと不良仲間たちが出て行ったそのままに大きく開いていた。

 コニーは立ち上げると扉の前へ行き、それを閉めた。そして、中からしっかりと斡旋した。

 それから、一層濃くなった闇の中を引き返して来た。

 近づいて来るコニーを見つめて、つい、ギャリーは呼んでしまった。

「……イコン?」

 コニーは吹き出した。

「チェッ、悪いことはできないな? 本当はそっちの名は秘密のはずだったんだ」

 ギャリーは赤くなって、

「あ、ごめん。つい……」

「でも、いいよ。実際のとこ、その名、気に入ってるから。少なくとも、親からもらったコニーなんて間抜けでノンキな名よりは、な」

「俺もそう思うよ! いや、つまり、俺が言いたいのは──こっちの名の方がおまえに合ってる!」

あんたも(・・・・)、さ、ガブリエル。……それは天使の名だ」

「!」

 ギャリーは吃驚した。

    

   ── 聖画に褒められるなんて……!

 

 ギャリーが膝の上でクシャクシャにしているシャツをコニーは取り上げた。

 今度は、TMが投げた処よりもっと遠くへ投げる。

 そうして、腕を伸ばして裸のギャリーを捕まえると引き寄せた。


 そのまま、暗闇の中で二人は愛し合った。



 

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