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天国の扉  作者: sanpo
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SCORE1: WE'VE ENDED AS LOVERS☆2

 ギャリーは一瞬で悟ってしまった。

 今朝、この瞬間まで全く知らなかったモノを今は知っていた。心と体で。

 こんな気持ち(・・・)初めてだ。痛いほどの勃起(ディザィア)……

  

   ── これ(・・)が恋ってものか?

 

 ジジが奇しくも今朝、言ってたっけか? 人間にとって一番かけがえのない、それなしのは生きていけないモノ……

(そうだ、ジジの言う通りだ!)

 俺は何て子供だったんだろう?

 目の前のあいつ(・・・)を知らなかった、ついさっきまでと、見て、知っている今現在のこの決定的な差……

 世界の意味が大きく違ってしまったとギャリーは強烈に感じていた。

 呆然と佇んでいるギャリーの頭上で始業五分前のサイレンが響き渡った。


 目が離せなかった。

 そして、それ以外、どうしていいのかもわからなかった。

 〈初めての恋〉だから仕方がないとしても。

 今は同じ教室に座っているコニー・ヘイルを、唯々見つめるばかりだ。

 コニーはクールでエクセレンツでリラックスしていた。冷ややかで無口で、宛ら大聖堂の彫像のよう。

 気軽に声なんてかけられないムード。

 それで、ギャリーは憑かれたように前方の席のコニーを見つめ続けた。

 ふと、コニーが金色の髪を揺らして振り返った。

 二人、目が合った。

 あまりにも優雅でさり気ない動作だったので盗み見ていたギャリーは事前に察知することができなかったのだ。

 ギャリーは精一杯の何気なさを装って目を逸らした。

 ほとぼりの冷めた頃を見計らって再び視線を戻す。と──

 そこにコニーの翡翠色の目があった。

「!」

 慌ててまた目を逸らせた。

 コニーはギャリーと違っていた。

 全然動じる風もなく、肩越しにギャリーを見ている。いや、その後ろの壁を見ているのだろう。

(座る場所(・・)がまずかったな……)

 よりによって優秀のレポートを張り出した壁の前に座るとは!

 残る授業時間中、ずっとギャリーはコニーの視線を痛いほど感じた。けれど、その教室では二度と顔を上げる勇気がなかった。


(どうしたらいいかわからない。)

 鉛筆を固く握ってギャリーはノートに幾つも渦巻を描いた。

(どうやってアプローチを試みたらいいんだろう?)

 そんなこと誰も教えてくれなかった。だから、行動の起こし方がてんでわからない。

 ギャリーは苛立って次のページを✖で埋め尽くす。

 どだい堅物(・・)の伯父貴に恋の手解き期待するのは無理だし、考えてみたら俺って、今まではその意味じゃ受動的だったもんな?

 思えば今のジジ始め、付き合った女の子たちは皆、向こうから声をかけてくれたのだ。

「どうしたのよ?」

「ど、どうしたって?」

 聞き慣れたジジの声にギャリーはハッとして顔を上げた。

「帰らないの? もうとっくに授業終わってるわよ?」

 ジジはノートを覗き込んだ。

「え? あ、そうか、そうだった!」

 素早くノートを重ねて立ち上がる。そんなギャリーを見てジジは瞬きをして言った。

「ねえ? 変なのは(・・・・)伯父さんだけじゃなくて──あなたも(・・・・)なんじゃないの? おかしいわよ、今日一日」

「おまえこそ、行かなくていいのかよ?」

 精一杯の何気なさでギャリーは廊下の一画を指差す。薔薇の花びらのように女の子たちが取り囲んでいるその(しん)の部分にコニー・ヘイルの金色の頭が一際高く突き出ていた。

「やだ!」

 ジジは明るい声で笑い出した。

「じゃ、本気でそのこと気にしていたんだ? 私がコニーに(なび)いちゃうって?」

「だ、だって、あいつ、イカスじゃないか」

 何故が赤面してしまう。だが、ギャリーは懸命に続けた。

「無理すんなよ。行って、話をしてくればいい」

 実はそれにかこつけて自分も接近しようという魂胆だったのだが、意外なことにジジはきっぱりと首を振った。栗色の髪が川沿いの柳の葉みたいに優しく揺れる。

「別に無理してるわけじゃないわ。そりゃ、あの子、綺麗だけど、タイプじゃない。やっぱり私は──」

 ジジの青い瞳にはギャリーが映っていた。

 ジジはギャリーに腕を絡ませてぴったりと体を寄せた。柔らかな胸の感触。

「よ、よせよ、教室だぜ」

「よさないもーん。はっきり言って、今あそこに群がってる子って、私にあなたを盗られた負け犬ばっかじゃない」

 ジジは恋人の額に掛かる黒髪を掻き上げると耳元で囁いた。

「ねえ、ギャリー? あんたもっと自信を持ちなさいよ。都会からの転校生が何よ? 気後れすることなんてないわよ。あんたならコニーとだって充分に張り合えるわよ?」

 ギャリーは自分のコンバースのハイカットから目を上げた。

「え?」

「あんただってイイ線行ってるってこと!」

 肩に零れる真っ黒い髪といい、琥珀色の瞳といい、それから、すぐに俯いてしまうシャイな癖も含めて、ジジはずっとギャリーを自分の王子様だと思って来た。

 それだから、今日の朝の衝撃は本当のところジジにとっては二番煎じでしかなかった。

 ギャリーだって──

 かつては、ある朝、突然舞い降りてロッカーの影に立っていた天使だったのだ。

 場所は小学校で、背景の廊下の壁はテラコッタ色だったにせよ……


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