SCORE5: STADD BY ME☆2
今、二人はモーテルにいた。
あのまま郡道を走って町外れのモーテルに宿を取ったのだ。
明日が土曜日だというのも幸いした。取り敢えず明日と明後日、これからどうしたらいいか、ここでじっくり考えるつもりだった。
でも、それは言い訳に過ぎないかも。 実際のところは、二人はお互いのこと以外、今は考えたくないし考えられなかった。
「何、考えてるんだ?」
コニーが枕に片肘を突いて訊いてきた時、ギャリーは正直に答えた。
「うん。俺って、丸っきり〝愛の奴隷〟だなあってさ」
コニーは吹き出したが、ギャリーはそんなコニーの鼻先に人差し指を突きつけると、
「差し詰め、ご主人様はおまえだ、コニー。この分じゃ、俺、おまえの言うことなら何だって聞いてしまうだろうな……」
コニーは持ち前のクールな笑みを浮かべたまま黙っていた。
「でもさ、そのくせ、俺、全く別のことも考えるんだぜ」
ギャリーは起き上がってチークのベッドヘッドに体を凭れさせると真面目な顔で言うのだ。
「おまえを縛ってしまいたいよ。レトリックな意味じゃないぜ」
コニーに別の相手がいると知ったさっきみたいな思いはごめんだ。実際は誤解だったのだが。
自分以外の誰にも恋人を奪われたくはない。だから、縛って、閉じ込めたい。
「やってみる?」
からかう調子でコニーが訊く。ギャリーは悲しげに首を振った。
「だって、知っちまったもん。俺よりおまえの方が力が強いんだよな?」
「当たり! 残念でした!」
楽しそうに笑ってコニーはギャリーに飛びつくとさっきの車内でのシーンを再現してみせた。
中古のアキュラの硬い座席ではなくて清潔なシーツの上の違いはあったが。
モーテルの糊のきいたシーツは湖の水のように冷たくて、裸の躰に心地良かった。
「実際に縛る側は俺さ! どう? 降参か?」
コニーの躰の下でギャリーはクスクス笑った。
「よせよ」
それから、捩じ伏せられたその姿勢のまま、ふと聞いてみた。
「あのさ、現実におまえを縛った奴っている?」
コニーは即答した。
「ああ。追加料金さえくれりゃあな」
聞かなけりゃ良かった、とギャリーは後悔した。
「だけど、気をつけなきゃ。その手の奴はマジになり易い。歯止めが利かなくなって危ないんだよ。俺は実際にはMってわけじゃないから、事前に──」
ギャリーの曇った顔にコニーは気づいた。
「何だよ? 聞きたがったのはそっちだろ?」
押さえつけていた躰を放すと、
「俺のことおぞましいか?」
「違う!これは嫉妬さ!」
畜生! ホントに縛った奴いたのかよ!
この世界には知らない方がいいことはたくさんある。そんなことはわかっている。それでも、もうひとつだけ、ギャリーはどうしてもコニーに訊きたくなった。
今、この時を逃したら一生聞けない類の疑問だった。
「聞いていいかい、コニー? どうして──」
早口に言い切った。
「どうして、売春なんてしてたのさ?」
「皆、それを聞きたがるな!」
明るくコニーは応じた。
「だから、俺は予めちゃんと答えを二種類用意してる」
ベッドに腹ばいになってコニーは人差し指を立てた。
「その1、『好きだから』。経験上、一番、誰もが納得してくれる。こうさ」
コニーは前髪を掻き上げながら悲しげに目を伏せた。
「『俺、男と寝るのが好きなんです。それで小遣いも稼げるなら、言うことないです』」
ギャリーがちゃんとこっちを見ているかどうか、チラとコニーは確認した。
「もう一つの方も聞きたいか? そっちはこれさ」
コニーは顎の下で腕を重ねるとしっかりとギャリーの瞳を見て、言った。
「『金のためです。これは独りで生きてくための純粋なビジネスです。だから、本当に切羽詰った時にしかやりません』──以上! 選べよ、どっちかが、神かけて俺の真実の答えさ」
「──」
ギャリーは目を閉じてコニーの隣に仰向けに寝転んだ。
コニーの手はシーツと同じくらい冷たかった。そのせいで、すぐには触れて来たのに気づかなかった。
「どっちを選んだ?」
脇腹にキスしながらコニーは知りたがった。
ギャリーは躰を動かさず、目も開けないままで、
「もちろん……二番目の方……」
ギャリーは可笑しかった。
(そんなの、決まってるだろ?)
だって、車内で、『愛してる』って言った俺の言葉に『俺もさ』と答えてくれた──あの安直な言葉さえ俺は即座に信じたんだもの。
あの喧嘩以来、ギャリーもギャリーでコニーと付き合う上でのルールを決めた。
つまり、コニーに関しては何だって自分に都合の良い方を信じることにしたのだ。でなきゃ、何度も殺す破目になる。大体、殺したり殺されるのは……ベッドの中だけでいい……こんな風な……
「二番目を採ってくれて嬉しいよ」
愛撫の手は止めずにコニーが囁いた。最も敏感な部分……
「だって、俺も、初めてだから。愛してるといったのも、それから──二番目の答えを実際に口に出したのも。どうだい? これも信じるかい、ギャリー?」
「あ……」
ギャリーとしては、コニーが欲しくってしかたなくって、もう無言で微笑むのがやっとだった。
kill me ……
kill me sweet……
大体、こういう風にして、今後の計画など検討されることなく、貴重な時間のほとんどが使われた。
気づくと、日曜日も夕方になっていた。