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天国の扉  作者: sanpo
13/30

SCORE5: STADD BY ME☆2

 今、二人はモーテルにいた。

 あのまま郡道を走って町外れのモーテルに宿を取ったのだ。

 明日が土曜日だというのも幸いした。取り敢えず明日と明後日、これからどうしたらいいか、ここでじっくり考えるつもりだった。

 でも、それは言い訳に過ぎないかも。 実際のところは、二人はお互いのこと以外、今は考えたくないし考えられなかった。


「何、考えてるんだ(・・・・・・)?」

 コニーが枕に片肘を突いて訊いてきた時、ギャリーは正直に答えた。

「うん。俺って、丸っきり〝愛の奴隷〟だなあってさ」

 コニーは吹き出したが、ギャリーはそんなコニーの鼻先に人差し指を突きつけると、

「差し詰め、ご主人様はおまえ(・・・)だ、コニー。この分じゃ、俺、おまえの言うことなら何だって聞いてしまうだろうな……」

 コニーは持ち前のクールな笑みを浮かべたまま黙っていた。

「でもさ、そのくせ、俺、全く別のことも考えるんだぜ」

 ギャリーは起き上がってチークのベッドヘッドに体を凭れさせると真面目な顔で言うのだ。

「おまえを縛ってしまいたいよ。レトリックな意味じゃないぜ」

 コニーに別の相手がいると知ったさっきみたいな思いはごめんだ。実際は誤解だったのだが。

 自分以外の誰にも恋人を奪われたくはない。だから、縛って、閉じ込めたい。

「やってみる?」

 からかう調子でコニーが訊く。ギャリーは悲しげに首を振った。

「だって、知っちまったもん。俺よりおまえの方が力が強いんだよな?」

「当たり! 残念でした!」

 楽しそうに笑ってコニーはギャリーに飛びつくとさっきの車内でのシーンを再現してみせた。

 中古のアキュラの硬い座席(シート)ではなくて清潔なシーツの上の違いはあったが。

 モーテルの糊のきいたシーツは湖の水のように冷たくて、裸の躰に心地良かった。

「実際に縛る側は俺さ! どう? 降参か?」

 コニーの躰の下でギャリーはクスクス笑った。

「よせよ」

 それから、捩じ伏せられたその姿勢のまま、ふと聞いてみた。

「あのさ、現実におまえを縛った奴っている?」

 コニーは即答した。

「ああ。追加料金さえくれりゃあな」

 聞かなけりゃ良かった、とギャリーは後悔した。

「だけど、気をつけなきゃ。その手の奴はマジになり易い。歯止めが利かなくなって危ないんだよ。俺は実際にはMってわけじゃないから、事前に──」

 ギャリーの曇った顔にコニーは気づいた。

「何だよ? 聞きたがったのはそっちだろ?」

 押さえつけていた躰を放すと、

「俺のことおぞましいか?」

「違う!これは嫉妬(ジェラシイ)さ!」

 畜生! ホントに縛った奴(・・・・・・・・)いたのかよ(・・・・・)

 この世界には知らない方がいいことはたくさんある。そんなことはわかっている。それでも、もうひとつだけ、ギャリーはどうしてもコニーに訊きたくなった。

 今、この時を逃したら一生聞けない類の疑問だった。

「聞いていいかい、コニー? どうして──」

 早口に言い切った。

「どうして、売春なんてしてたのさ?」

「皆、それを聞きたがるな!」

 明るくコニーは応じた。

「だから、俺は(あらかじ)めちゃんと答えを二種類用意してる」

 ベッドに腹ばいになってコニーは人差し指を立てた。

「その1、『好きだから』。経験上、一番、誰もが納得してくれる。こうさ」

 コニーは前髪を掻き上げながら悲しげに目を伏せた。

「『俺、男と寝るのが好きなんです。それで小遣いも稼げるなら、言うことないです』」

 ギャリーがちゃんとこっちを見ているかどうか、チラとコニーは確認した。

「もう一つの方も聞きたいか? そっちはこれさ」

 コニーは顎の下で腕を重ねるとしっかりとギャリーの瞳を見て、言った。

「『金のためです。これは独りで生きてくための純粋なビジネスです。だから、本当に切羽詰った時にしかやりません』──以上! 選べよ、どっちかが、神かけて俺の真実の答えさ」

「──」

 ギャリーは目を閉じてコニーの隣に仰向けに寝転んだ。

 コニーの手はシーツと同じくらい冷たかった。そのせいで、すぐには触れて来たのに気づかなかった。

「どっちを選んだ?」

 脇腹にキスしながらコニーは知りたがった。

 ギャリーは躰を動かさず、目も開けないままで、

「もちろん……二番目の方……」

 ギャリーは可笑しかった。

(そんなの、決まってるだろ?)

 だって、車内で、『愛してる』って言った俺の言葉に『俺もさ』と答えてくれた──あの安直な言葉さえ俺は即座に信じたんだもの。

 あの喧嘩以来、ギャリーもギャリーでコニーと付き合う上でのルールを決めた。

 つまり、コニーに関しては何だって自分に都合の(・・・・・・)良い方(・・・)を信じることにしたのだ。でなきゃ、何度も殺す破目になる。大体、殺したり殺されるのは……ベッドの中だけでいい……こんな風な……

「二番目を採ってくれて嬉しいよ」

 愛撫の手は止めずにコニーが囁いた。最も敏感な部分……

「だって、俺も、初めてだから。愛してるといったのも、それから──二番目の答えを実際に口に出したのも。どうだい? これも信じるかい、ギャリー?」

「あ……」

 ギャリーとしては、コニーが欲しくってしかたなくって、もう無言で微笑むのがやっとだった。


   kill me(イカセテ) ……


   kill(オレヲ) meイカセテクレヨ sweet(ヤサシク)……




 大体、こういう風にして、今後の計画など検討されることなく、貴重な時間のほとんどが使われた。

 気づくと、日曜日も夕方になっていた。

 

 


 

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