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鈴木くんとの帰宅!

   1


「えー、今日は転入生を紹介する」

 7月1日の月曜日、僕はこの高橋高校に転入することになった。学年は2年生。夏なので上はワイシャツで、下はまだこの学校の制服が出来上がってないので前の学校の夏用のズボンを履いている。

「じゃあ自己紹介よろしく」

 担任の横に立つ僕は、「はい」と短く返事しチョークを握る。

黒板に自分の名前を書き終えたところで自己紹介を始める。

「名前は曾久そく 輝太郎きたろうです。皆さんよろしくお願いします」

 クラスメイト達もそれにこたえる。

 「よろしく」

 「よろしくね~」

 「よろ~」

 わいわいと話声が静まらないうちに担任は、僕を席へと案内する。

 「曾久の席は1番後ろの空いてる席だ」

 担任の言う空いてる席に僕は腰を下ろす。

 担任がHRを終わらせると右隣に座っている女子が早速話かけてくる。

 「私は早瀬はやせ 恵梨香えりか、よろしくね。分からないこととかあったら気軽にきいてね」

 「うん、よろしく」

 これが僕がこの学校に来てからの女子との初めての会話となった。

 早瀬さんは茶髪の髪を肩のあたりまで伸ばしている。

 「ねえねえ、そっくん。そっくんは部活に入るのー?」

 「そっくん!?はやくもあだ名!?」

 「うん。どうかな?そくくんだからそっくん。」

 そくくんだからそっくんなのは言われなくても分かるとして、いきなりあだ名をつけられるとは思わなかった。

 「いやかなー?いやだったら普通に曾久くんとか輝太郎くんとか鈴木くんって呼ぶけどー」

 「いやじゃないけど、って鈴木ってどっから出てきた!?」

 「いやなんとなくそっくんって、苗字界で言う鈴木さんみたいな普通な感じだなーって思って」

 それは悪かったな!どうせ僕は普通ですよ!てか苗字界って何だよ!あと全国の鈴木さんに謝れ!

 まあツッコミを入れるほど親密度も高くないから口に出さないけど。

 「まあ呼び方はそっくんでいいよ。で、部活の話だったよね。僕は帰宅部に入部するつもりなんだ」

 そう、僕は帰宅部に入る。

 僕はこの学校の帰宅部に入るために転入してきたんだ。

 高橋高校帰宅部エースになるために。

 いち早く帰宅し、より長く家で休む。

 それが僕のしたいこと。

 だから帰宅部の強豪である高橋高校にきたんだ。


   2


 放課後

 僕は今から帰宅するところだ。

 まだ帰宅部へ入部届は出してないけど、今日は転校初日ということもあってかなんだか疲れたから即帰宅することにした。即帰宅、略してソッキ!今日は(も)ソッキっしょ!!

 さっきの話だけど、「早瀬さんは何部なの?」って聞こうと思ってたところにクラスの女子ズからの質問攻めを受け、聞けず終いでいた。まあ明日にでも聞けばいいことだが結構気になる。文系か運動部か無所属かではイメージが変わってくる。

 僕は下駄箱で靴に履き替え、正門に向かって歩き出す。

裏門から出る生徒はバスを利用する人達だ。裏門からだとバス停に近く、正門から出ると駅に近い。バス停までは徒歩5分、駅までは徒歩30分ほどだ。バスに乗れば7,8分で駅に着くが、徒歩で30分かけて駅に向かっても、バスの発車する時刻と電車の発車する時刻の関係上、結局は乗る電車は同じ。つまりここでバスに乗っても家に着く時間は変わらないのだ。(田舎なので通ってる電車の数が少ない)

 それとこれは7時間授業のときの話だ。金曜日以外は7時間、金曜日だけは6時間。6時間授業のときはバスに乗ったほうが早かったりする。

 転校初日からこんなに下校について詳しいのは前もって調べておいたからである。

 ソッキするためならどんな努力も惜しまない。それが僕。もちろん学校から駅までの道のりもバッチリだぜ☆

 ああ、やっぱり下校時なるとテンションが上がってくるな。今まさに『生きてるっ!』て感じがする。

 そんなことを考え歩いていると、正門にさしかかる少し手前で声をかけられる。

 「なあ、キミ、帰宅部に入るんだってな」

 見覚えのある顔だった。てゆうか僕の左隣の席の男子だった。名前はええと・・・

 「鈴木だ。鈴木 勇気だ」

 名前は鈴木くんだそうだ。

 そういや朝、早瀬さんと『鈴木』がどうのこうのといった話をしていた気がする。早瀬さん曰く『鈴木』は苗字界(←なんだそれ)の中で普通な感じなのだそうだ。それに加えて『勇気』っていうのも普通と言うかありふれている印象がある。(全国の勇気さん、すみません)つまり総合評価で『鈴木 勇気』という名前は(以下略)

 「ああ鈴木くんね、よろしく。そうなんだ、僕、曾久輝太郎は帰宅部に入ろうと思ってるんだ」

 と、さりげに僕も名前を教えてみたりする。

 「キミ、知らないのか?この学校じゃ、部活をやりたくない奴は普通『無所属』だぞ。わざわざ『帰宅部』に入らなくとも帰宅出来る」

 「知ってるよ。てゆうか僕は『帰宅の強豪』であるこの学校の帰宅部に入部するためにわざわざ転校してきたんだ」

 「へえ、成る程ね。じゃあキミも相当なキタラーなんだ?」

 「ああ、少なくともそこらのキタラーには負けない程度にはね」

 説明しよう!『キタラー』とは『ソッキ常連者』のことである!マヨラーみたいな。

 「じゃあ『無所属』のオレなんかには負けないってことだ」

 「誰にも負けないつもりさ。『エース』を目指しているんだから」

 「ならバトろうぜ」

 「何故そんなに鈴木くんがやる気満々なのかは知らないけど、受けて立つよ、このバトル!」

 「よし。なら早速始めよう。オレが投げるこの石が地面に着地したらスタートだ。目的地は馬沢駅でいいな?」

 「うん、オーケーだよ」

 そう言って僕は右手に持っている学生鞄からストップウォッチを取り出し、首に掛ける。

 『タイム測定』をするためだ。『ソッキモード』だとどれだけ早く駅まで着くかを計るため。

 『ソッキモード』とは全力で帰宅するときのことである。

 と、そこで鈴木くんが石を空へ向かって投げる。

 「『無所属のエース』と呼ばれているこのオレの全力を見せてやる!」

 コツッ、と石が地面に落ちる。

 両者が一斉に駆け出す。正門を抜け一気に道路を駆け抜ける。

 やはり『無所属』と『帰宅部』では(まだ入部していないが)スピードが違う。僕は鈴木くんとの距離をどんどん広げていく。

 僕は思う、きっと鈴木くんがバトルを挑んできたのは、『キタラーの性』ってやつだろう。「強いやつと戦いたい」と思うのはキタラーなら至極当然のこと。僕には『タイム測定』があったし断る理由もない。

 僕は最短ルートで駅へと向かう。鈴木くんとの距離は2,30メートルほど。だがここで信号にぶつかる。学校から駅まで3分の1ほどの距離に位置する、人通りの少ない十字路だ。今は僕と鈴木くんを除いて、人通りもなく、車も走っていない人気ゼロの状態だが、信号無視はしない。それは、例えば野球の試合で選手達が審判にしたがうように。また囲碁で整地のときにごまかしをしないように。信号に従うのは当然のこと。交通ルールを守るのは当然のこと。それが真のキタラーだ。

 信号待ちをしているとすぐに鈴木くんに追いつかれる。

 「はあ、はあ・・・エースを目指しているだけのことはあるな・・・ただ走っているだけでは勝てないことは分かった・・・はあ、はあ・・・悪いが手を出させてもらうぞ・・・バトルを引き受けたからには覚悟しているのだろ?」

 「ああ。勿論覚悟は出来ている。・・・こい!!」

 これはただの帰宅ではなく『バトル』なのだ。どちらが早く目的地へ着けるかのプライドをかけた真剣勝負。バトルを挑んだときから、バトルを受けて立つと言ったときから、互いに覚悟は出来ている!


   3


 気付いたときには鈴木くんはすでに目の前にいた。

 そして拳がとんでくる。

 バコッ!!腹に直撃する。バコッ!!肩に直撃する。バコッ!!脇腹に直撃する。バコッ!!腕に。バコッ!!胸に。バコッバコッバコバコバコバコバコバコバコバコッ・・・・・・!!!!!!!

 拳がとんでくる。まるでガトリング砲のように拳が僕の体を打ちつける。腕で顔を庇うので精一杯だ。

 なす術もなく僕の体は後方へ吹っ飛ぶ。まるでガトリング砲に打たれたかのように。いや実際に打たれたことはないけれど。

 「そういえばまだ言ってなかったな。オレは今じゃ『無所属』として怠けているが、2年前の中学生3年のときには空手で空手で全国制覇している」

「どうりで動きが早い訳だ」

そう言って僕は立ち上がる。

「何故だ?どうしてキミはオレの攻撃をあんなに受けたのに、まるで何事も無かったかの様に立ち上がるんだ?」

「鍛えてるからね」

「・・・なら、加減はいらないな!!」

鈴木くんは僕のところに突っ込んでくる。だが来ると分かっていても体がついていってくれない。迎え撃つことも避けることも出来ない。

そして再びその拳はガトリング砲の如く連続射出される。バゴバゴバゴバゴバゴバゴバゴバゴバゴバゴ!!!!

 一切の加減を無くした全力の攻撃は、さっきよりも激しい音を轟かせる。

 手も足も出ない。

 そしてさっきと同じように後方へ吹っ飛ぶ。

 「このバトル、降参もありなのは分かってるよな?」

 僕は起き上がる。

 「このバトル、実はまだ僕が本気じゃないってことは分かってるよね?」

「!?・・・・強がりはよせよ」

「強がりじゃないさ。」

そう言って僕はワイシャツを脱ぎ捨てる。

脱ぎ捨てたワイシャツは夏の風に吹かれて空を舞うことなく手を離した位置から垂直に落下する。

ボトッと音を立てて。

「実はこのワイシャツは特注品でね。かなり重くなってるんだ」

上半身裸の僕を見て鈴木くんは言う。

「重りをはずして今まで隠してた力を発揮して敵をカッコよく倒す、ってか?輝太郎くん、キミは以外と漫画好きだったりするのか?それと、キミは勘違いしてるようだけど、」

一拍子おいて、

「キミが今脱ぎ捨てたのはキミを縛る重りなんかじゃ無い。『鎧』だよ。防御力が0になった訳だが、どうするつもりだ?」

そんなことは分かっている。

今まで鈴木くんの攻撃を受けても平気でいられたのは間違いなく『特注ワイシャツ』のお陰だ。

だけど・・・

「ポケモンなんかじゃ勝敗は先制出来るかどうか、つまり『すばやさ』で決まるもんだぜ」

「漫画好きじゃなく、ゲーム好きか」

互いに身構える。

おそらく鈴木くんは『連続攻撃』ではなく『素早い一撃』をはなってくるだろう。ポ●モンで例えるなら『マッハパンチ』。ド●クエで例えるなら『しっぷう突き』。鈴木くんのあの攻撃の前じゃ、今の僕はまさに『防御力0』の状態と言えるだろう。

次の一撃で決まる。

そして

僕は前に踏み込む。

鈴木くんも前に踏み込む。


拳がとぶ!


鈴木くんのものだった。

『はやさ』を追求した一撃。

今までの攻撃ですらただ一度も避けられなかったのに、さらに早い一撃が僕の顔面に迫る!

だが僕も、ついさっきとはステータスがまるで違う!

僕は『防御力』と引き換えに『すばやさ』を得ている。

今まで攻撃を避けられなかったのは体が重かったから。


避けられはしなかったものの、今までの攻撃は全部見えていた!


ブンッ!

鈴木くんの拳は空を切る。

さあ、ここからは僕のターンだ。

先制攻撃こそ出来なかったが、ゲームとは違う現実では『すばやさ』は『攻撃力』、『回避率』に大きく関係している。

『すばやさ』だけではない、僕は『動体視力』にも自信がある。

それらの数値をフル稼働させ、僕は『最善の一撃』をはなつ。



『かみなりパンチッ!!』


ボコ!

直撃。

鈴木くんは地面に倒れ込む。

「痺・・れ・・る・・・」

『かみなりパンチ』をくらった鈴木くんはおそらく暫く立てないだろう。

と、そこで音楽が耳に入る。

どうやら信号が青に変わったのを知らせる音楽の様だ。

青に変わった信号。

『重り』を外した僕。

痺れている鈴木くん。

どうやら勝敗は決まった様だ。

「降参だ・・・オレの負けだ」

倒れ込んだまま鈴木くんは言う。

そう。キタラーはいさぎよい。


   4

 

 後日談。

 ネタばらしをすると『かみなりパンチ』とは肘の打つと痺れるところに撃ち込むパンチのことだ。『ファニーボーン』って言うんだっけか?実際にやられてみると分かるが、そこを思いきり殴られると痺れて暫く動けなくなる。だから別にかみなりを纏ってなくても使えるんだぜ☆みんなもやってみよう☆

 と、ネタばらし終了。

 あのあと僕は鈴木くんといろいろと話をした。

 どうやら今回のバトルで再び、戦うことに目覚めた鈴木くんは部活を始めるらしい。

この高校には空手部が無いためボクシング部に入るのだそうだ。

その他いろいろと話を聞いたが、それはまた今度話すとしよう。


「今日こそは入部届出すか・・・」


そう呟いて僕の新たな高校生活は2日目を迎える。

 読んで下さった方、本当にありがとうございます。

 この作品は僕にとって初めてのものとなりました。

 つまらない、読みにくい、などと思った方もいると思いますが、一生懸命書いたものなので許して下さい。

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