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百物語  作者: 奏 いろは
7/9

六本目:ヘッドフォンから

あ、もう一周回ったね。じゃあかな、二つ目、お願いね。






もうあたしの番なんだ、早いなあ。




ええと、じゃあ話すよ。



あたしの通ってる塾は、一応県内に何校かあるんだけどかなり小規模な方で、最近大手の塾にとりこまれちゃったの。


それまでは普通に少人数クラスで先生に直接教えてもらってたんだけど、とりこまれてからはクラス授業が無くなって、代わりに映像授業になったのね。

塾の制度がいきなりがらりと変わって驚いたし戸惑ったけど、画面の中で授業をする大手塾の先生は教え方も本当にうまくて、慣れたらむしろこっちのほうが便利に思えて満足してたの。



映像授業ってね、塾のデスクに固定してあるパソコンを立ち上げてヘッドフォンをつけて受けるの。

ウォークマンとか持ってる子は自分のイヤホンを持っていてそれを使うのだけれど、あたしはそういうものはまったく持っていないから、いつも塾に置いてあるヘッドフォンを借りて授業を受ける。

高そうでかっこいいヘッドフォンだよ。

いかにも最新ですって感じなの。



でもそれをつけて授業を聞いてると、ヘッドフォンの奥から小さくザーッザーッて音が聞こえるの。

最初はパソコンかヘッドフォンの調子が悪いのかなって思ってたんだけど、その音がそのときの一回だけじゃなくて毎回授業を聞くたびにするの。

友達になんか雑音入るよね、って言っても、かえってくるのはみんなえ?なんのこと?って反応ばかり。

席が固定されていたらあたしのパソコンだけが壊れてるのかなって思えるんだけど、パソコンもヘッドフォンも毎回違うのを使うから…他の人も何も言わないし、おかしいなって思ってた。



小さな雑音に気が付いてから二週間くらい過ぎたころ、いつものように先生が決めた席についてパソコンを開いてヘッドフォンをつけて授業を受けてた。


雑音が入るのは決まって授業開始から12分26秒後。

デスクトップに表示される時間を見て、ああ、もうすぐあの音が来るなぁって思いながら授業を受けてた。



12分26秒。



何も聞こえなかった。

あたしはあれ?と思わず声を上げてしまった。

だって音がしなかったときなんてなかったから。


授業そっちのけで不思議に思って耳を澄ませていると、突然、



「ぎゃははははははははは」



狂った笑い声がはっきりと聞こえてきた。


男とも女ともわからない声。


狂気じみた声にあたしはとてつもない恐ろしさを感じてとにかく映像を止めようとパソコン画面を見た。



画面に映っていたのは…



あれはいったいなんだったんだろう。


あれが何だったのかはあたしには分からない。


でもとても恐ろしいもの。


ただ、その画像に、真っ赤な、乱雑な文字で画面に「死ね」って書かれてたのは覚えてる。



あたしは悲鳴を上げながら後ずさった。



でもほかの人たちはこの異変に気付かない。


みんなパソコンを前にして微動だにしない。



…何かがおかしい。



その状況にも恐怖を感じて部屋を出ようとしたらドアが開かない。

何でドアが開かないのかわからなかった。


別に何かに追われていたわけじゃないけど、怖くて怖くて、パニックになった。


バンバンドアをたたいても開かないし、だれもうるさいとも何も言わない。


なんだかあたしは外に出なきゃ大変なことになると思って、必死にドアをたたいた。


そしてもうだめだ…って思ったその時、誰かの携帯が鳴った。



するとふっとドアが開き、あたしは必死に事務所に走って先生に泣きついた。



もちろん先生には何をわけの分からないことを言っているんだって怒られたよ。

まあ生徒が泣いているもんだから先生も戸惑って、一緒にパソコン画面を見に行ってくれた。


そしたらなあんにも映ってなくて。


結局こってり怒られた。



そのあと引きつづき授業を受けたけど何も起こらず、あたしの勘違いだったのかな、と思うことにした。


その二日後、スケジュール通りあたしは塾に行って授業を受けた。


平静を装いつつもあたしの心臓はバクバク。


授業に集中できずに時計ばかり見てた。



そして、


12分26秒。


何も起こらなかった。



小さな雑音もしなければ変な笑い声も怖い画像も映らない。



なぁんだ。あたしの勘違いだったのか。


ほっとして一息ついた瞬間、




「次は死んでね」




はっきりと耳元で聞こえた。






おしまい。


あ、あの後何も起こらなかったんだろなっていうのは今のあたしを見てわかるよね。


塾?

さすがに怖くなってやめちゃった。



あれは勘違いとは思えないんだもの。



だってあのとき、あたしはヘッドフォンをつけてなかったから…。








六本目の火が消える。




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