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百物語  作者: 奏 いろは
5/9

四本目:音楽室の呪い


次はじゅんすけだな。



最初に言っとくと、俺の話は作り話だ。一部で流行ってるふつうに聞くと全然怖くないが意味を考えてみると怖さがわかるってやつ。知ってる?まあ、とにかく話すぞ。



俺は学校に明日提出する宿題を忘れてしまった。しかもそれに気づいたのが夜の11時でさ。怖かったけど次の日みんなに笑われながらペナルティで校庭10週走るくらいなら、夜の学校に侵入するほうがまだましだってことで取りに行った。

夜の学校はやっぱり怖くて門の前に来てから帰ろうかと思ったくらいだ。

でもここで帰ったらただのビビりだってことで、フェンスを乗り越えて学校の中に入った。

学校の中は真っ暗で、廊下を歩いているとやたら自分の足音が響いた。俺の教室は二階にあるから壁伝いに階段のとこまで歩いて行って、ゆっくり階段を上った。

階段をのぼりながら、俺はクラスで噂になっている音楽室の呪いという怪談を思い出してしまった。二階にある音楽室から午前0時ちょうどにピアノの音と悲鳴が聞こえてきて、その音につられて音楽室を覗きそれを見てしまうと呪い殺されてしまう、という話だ。俺はこういうのには興味がないんだが、クラスの女子のYに無理やり聞かされてこの話を知った。Yは美人でピアノもうまいのに、こういう話が好きでやたら怪談話を提供してくるところはどうかと思うんだ。くだらないと思いながら俺は足がすくんでしまった。なんでこのタイミングであの話を思い出しちゃうんだよ、と自分を呪った。

階段をようやく半分上った。

もしかして、と俺はよせばいいのになんとなくライトをつけて腕時計を見た。

午前0時ちょうど…。

ぞくっと背筋が凍った。

音楽室の前を通りたくなかったが、俺の教室には音楽室の前を通らないとたどり着けない。

階段を上り終えて、また壁伝いに廊下をゆっくり歩いて行った。もうすぐ例の音楽室が見えてくる。

心臓が壊れそうなほどバクバクいっている。俺はいつの間にかじっとりと汗をかいていた。

自然と足が止まる。

落ち着け、そんな音聞こえるわけないじゃないか、呪い殺されるわけ、ないじゃないか。

俺はごくりと音を立てて唾をのみ、そろそろと足を一歩踏み出そうとした。


………………♪♪♬♫♪♪♫♬♪♫♪♪♬♬♫♪…


「……え?」

俺は思わず声を漏らした。

こんな夜中にピアノの音…?誰が?

  まさか………


次の瞬間キーッというような甲高い音が聞こえてきた。


これは、例の、悲鳴…?


俺は少しも動けなかった。

でも、なぜだろう。怖いのに俺はすたすたと歩いて行って、音楽室のドアを思い切りあけた。


がららっと音を立てながら開けると、ピアノの音がぴたりとやんだ。

そしてぱっと明かりがついた。


俺はびくりと体を震わせた。


明かりをつけたのは、趣味の悪い真っ赤なTシャツを着た俺の担任の音楽教師だった。

「あれ、先生?」

俺は拍子抜け、間の抜けた声を出してしまった。先生は大きな立派なグランドピアノの前に立ちはだかる体で、ポケットに手を突っ込んで立っていた。ピアノは大事そうにほこりよけの布を足までかけられている。

「おや、K君じゃないか。どうしたんだい、こんな夜中に。」

「明日出す宿題を教室に忘れちゃって…。ピアノの音が聞こえたから誰かいるのかなと思って。」

「そうかそうか。怖いだろうに。今教室のカギを持っているから開けてあげるよ。そして早く帰りなさい。」

「ありがとうございます。先生。」

俺はかなりほっとした。

先生は教室のカギを開けてくれて、俺は無事宿題を持って家に帰った。

さあ、これから徹夜で宿題だ。


次の日、宿題は朝のホームルームで回収された。結構宿題忘れたやつが多くて、怖い思いして学校に取りに行った俺は何だったんだよ~とちょっとがっくりした。

「ほら、早く席に着きなさい。」

先生がみんなに向かって言う。今日は普通の真っ白なTシャツだ。奥さんにでも趣味の悪さを指摘されたのかな。

「今日は誰も休んでないな~」

「あ、先生~、Yさんがいませ~ん。」

「はい、Yが欠席っと。」


いつもの朝の風景だった。

音楽室の呪いなんてないってわかったし、すがすがしい朝だなと俺は眠い目をこすりながら思った。





…そんなに怖くなかったかな。


まあいいや。


ふっと息を吹きかけ、ろうそくの火を消した。








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