序章
せまい十畳の部屋に無数の蝋燭が灯っている。がらんどうな本棚の中、端に寄せられたちゃぶ台の上、ささくれてガサガサになった畳の上。至る所で赤や橙にぼうっと光っている。いや、光っているというより光そのものが仄めいているみたいだ。
暗闇の中に蝋燭の灯りから何かが浮き出て見える。よくよく見るとそれは人間の頭で、部屋の真ん中に身を寄せ合うようにしてかたまっている。五つほど見え、そのうち二つは少女、三つは少年のようだ。無数の蝋燭と彼ら以外何も無い部屋で、それらは何事かひそひそと言っている。彼らが何か言うたびに近くの蝋燭の炎がゆらゆらと揺らめく。そのちらちらとした灯りのせいで、彼らの顔はよりいっそう不気味に見えた。
「準備も整ったことだし、そろそろ始めるか。」
1人の少年がぽそりと言った。
「そうね。早くしないと夜が明けちゃうわ。」
今度は少女が言った。
「で、誰から始めるよ?」
五人の中で1番大柄な少年が言った。
「そうだな…。」
1人の少年がふと考え込んで、「じゃあ、この鉛筆を倒してその先にいた人から時計周りに話をしようか。」と提案した。
皆静かに頷く。
言い出した少年は胸ポケットから鉛筆を取りだし、皆の真ん中においた。鉛筆を倒す、たったそれだけのことを皆息を詰めて見守った。少年は鉛筆を放し、それは音もなくゆっくりと倒れた。
その先にいたのは1人の少女だった。
「じゃあ、かなからお願い。」
もう一人の少女が話しかける。
「1番最初だ。とびきりのを頼むよ。」
大柄なのが言う。
かなと呼ばれた少女はすうっと息を吸い込むと仲間の顔を見渡した。