硝煙の空に、体温という名の太陽を──ガラクタ拾いのオレは、軍に捨てられた少女を拾う
今回の短編は、ガラクタ拾いのクロウと少女兵器ちゃんのお話です!
前回の短編よりも長めになっております。
楽しんでくれたら幸いです。
空を覆うのは、太陽の光ではなく重苦しい硝煙の灰だ。
ガラクタ拾いの【クロウ】は、瓦礫の山となった廃墟の街を、金属探知機を片手に彷徨っていた。
「……まともな電子部品すら残ってねえか」
忌々しげに吐き捨て、1週間前の航空爆弾によって倒壊した軍の研究施設に足を踏み入れる。そこには、爆風でひしゃげた強化プラスチックの扉と、中身の漏れ出した培養槽が転がっていた。
―――ビーッ!ビーッ!
探知機が、今まで聞いたこともないような激しい警告音を鳴らす。
クロウは期待を込めて瓦礫を退けた。だが、そこにあったのは高価な動力核ではなく、真っ白な肌をした一人の少女だった。
「……チッ、生きてるガラクタかよ」
少女は、軍の認識番号が刻印された薄い布切れ一枚を纏い、胎児のように丸まって横たわっていた。
年は十二か、十三か。細い手足の関節には、神経を強制的に制御するための真鍮製のプラグが埋め込まれ、その周囲は化膿して赤黒く腫れている。
(ふーん、金属探知機はこれに反応したのか……)
クロウがその細いうなじに刻まれたタグを確かめようと指を伸ばした、その時。
少女の瞳が、カチリと音を立てるように開いた。
「――目標、認識。排除フェーズに移行」
感情を一切排した、鈴の鳴るような声。
次の瞬間、少女の指先がクロウの喉元へ向けられ、隠し持っていた細い針状の刃が突き立てられた。
コンマ数秒、クロウが身を引くのが遅ければ、喉笛を正確に貫かれていただろう。
「……おいおい、なんだ元気そうな人形じゃねぇかよ」
クロウは喉から流れる一筋の血を拭いもせず、少女の細い手首を力任せに掴み上げた。
驚くほど軽く、そして氷のように冷たい。
少女は手首を折られかねない力で掴まれているというのに、眉一つ動かさず、ただ空虚な黒い瞳でクロウを見つめ返している。
「…敵対反応無し。味方陣営と判断。個体番号06、出力低下。自壊処理の承認を求めます。……貴方は、私の新しい『主人』ですか?」
「『主人』だぁ? 冗談じゃねえ」
クロウは少女の顎を掴み、自分の方を向かせた。
泥を拭うと、そこには恐ろしいほど整った、だが「生気」を完全に除去された少女の顔があった。
「いいか、よく聞け。オレはこの辺りのガラクタを食い荒らしてるハイエナだ。軍が捨てたお前も、今この瞬間からオレの獲物だ。……お前の『死』を承認してやる権利があるのは、世界中でオレだけなんだよ」
少女は瞬きを一つした。
プログラムにはない返答。彼女の演算回路は、目の前の「熱い」男をどう処理すべきか答えを出せず、ただ微かなノイズを走らせた。
「了解。自爆命令の待機を解除。……現時刻を以て、私の所有権を貴方に委託します」
少女の力が抜け、糸の切れた人形のようにクロウの胸に倒れ込んだ。
クロウはその小さすぎる身体を、乱暴に、けれど落とさないように抱き上げる。
「……チッ、最高に手のかかりそうなガラクタを拾っちまった」
クロウは少女を抱えたまま、彼の住処であるトレーラーハウスがある砂塵の舞う荒野へと歩き出した。
◇◇◇◇
トレーラーハウスの奥。オイルと錆の匂いが混ざり合う作業台の上で、少女は横たわっていた。
クロウの指先は、絶えず触れている機械部品のせいで黒い油が染み付いている。
彼は傍にあった酒で手を清めると、少女の脚に埋め込まれたひしゃげたプラグを、ペンチで慎重に引き抜いていく。
(よくこの損傷で生きてたな……)
「……あ」
少女の唇から、かすかな漏れ出た。痛みはないはずだ。痛みを感じる神経は、軍がとっくに焼き切っている。
だが、機械油で汚れ、ひび割れたクロウの大きな掌が、自分の柔らかな肌に触れるたび、彼女の中の「何」かが激しく波打っていた。
「痛むか?…… んなわけねぇか。お前らの身体は、痛みを感じねぇようにできてるはずだ」
「……痛みは、検知されません。ですが、貴方の手が触れる場所が、……熱い。不快な熱ではありません。これは、どのような物理現象ですか」
「そりゃ『体温』だ。お前には関係なかったもんだよ」
クロウは少女の傷口に薬を塗り、手慣れた手つきで包帯を巻いていく。
少女は自分の細い脚に巻かれた白い布を、不思議そうに見つめていた。
「……マスター。私は兵器です。傷を塞ぐより、内部回路の洗浄を優先すべきでは。肉体は、交換可能なパーツに過ぎません」
「黙ってろ。オレの所有物をどう直すかは、オレが決める。……いいか、お前はもう『06』じゃねえ。『キャス』だ。俺がそう決めた」
「キャス……。それが、私の新しい識別符号ですか」
「ああ。気に入らなくても上書きしろ。オレのそばにいる限り、お前はただのガラクタなんだよ」
クロウは最後に、機械油で汚れた手のまま、キャスの頭を乱暴に撫でた。
少女――キャスは、その手の重みと熱に、生まれて初めて「安心」という名の致命的なエラーを感じ、そっと瞳を閉じた。
これから少女は、『06』ではなく『キャス』として生きていかなければならない。
兵器として作られた彼女にとって、それは未知の不安に満ちた、果てしない荒野を歩むようなものだ。
だが、不器用なほどに熱いこの手がある限り。
硝煙に覆われた灰色の空の下でも、少女は自分だけの太陽を見失わずにいられる。
――そんな気がした。
最後まで読んでくださりありがとうございます!
この物語は、機械油で汚れてる男とサイボーグ女子いいな〜と思って組み合わせて、書き上げたものになります。
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