◾️八月二十二日金曜日Ⅰ
□とある大学生のXのポスト
ERI@eriiiiiii0706 Oct4,2025
私の友人が行方不明になりました。
名前:相澤ひなの
年齢:二十一
性別:女
身長:160cm
髪型:ショートボブ
当時の服装:黒Tにジーパン
場所:岩手県某市霜月町清葉病院付近
情報を求めています。
少しでも何か見つけたという方はDMください。
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『ねえおかあさん、みよ子のおとうさんって、どんなひと?』
台所でシャキシャキと玉ねぎを刻む母に何気なくそう問いかけたのはいつだっただろうか。物心がついたころ……だったかな。小学校に上がる前くらいかもしれない。母が、私の大好きなカレーを一生懸命つくってくれる後ろ姿を眺めるのが好きだった。その日もカレーをつくってくれるというので、るんるんとした気分でお絵描きをしながら待っていた。
母は普段、温厚で優しい。「お母さん」と聞いて想像する母親像はまさに母のようなひとだろう、と思われる。
そんな母のことだから、「お父さん? そうねえ……」と昔を懐かしみながらも、きちんと答えてくれると思っていた。父は私が一歳の頃に亡くなったと聞いている。ゆえに父の記憶はまったくない。亡くなった原因ははっきりと教えてもらったことはないけれど、事故か病気のどちらかだろうということは幼い私も薄々気づいていた。
期待しながら母の返事を待っていたのだが、母は、私が質問をすると同時に肩をびくんと揺らして腕の動きを止めた。シャキシャキという耳に心地よい音も一緒に消える。一瞬、私と母の間には静寂が横たわる。母は私のほうを振り返ることもなく、ボソリとつぶやいた。
『ごめんねみよ子。お父さんのことは、あまり思い出したくないの』
血の通っていない、冷徹な声だった。
てっきり普通に教えてもらえると思っていた私は、母の口から出てきた予想外の返事に面食らう。さらに、母の声がそれまで聞いたことのないくらい冷たくてかすれていたため、驚いて私のほうが固まってしまった。
しばらく二人の間には沈黙が漂っていたが、やがて何かを思い出したかのように、母がまた玉ねぎを刻み始めた。規則的な包丁の音が聞こえるたび、母が、私の知らないひとに見えてきて恐ろしいと感じてしまった。
うまく言葉にすることはできないけれど、あのとき確かに私の中で母という人間像が鈍く揺らいだのを感じたのだった。




