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私の居場所を見つけてください。  作者: 葉方萌生
第二章 不穏なカルテ

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14/25

◾️八月二十五日月曜日Ⅰ

 昨日の二十一時ごろ、編集した動画をアップロードした。

 普段なら動画をアップしたらこまめにコメントやチャンネル登録者数の増加数を確認するのだが、前日の探索の疲れと編集作業の疲れが溜まっていて、諸々確認する前に眠ってしまった。朝、目が覚めてYouTubeを開くと、いつもより多くコメントが来ていることに気づく。


「三十件……」

 

 普段の動画だとコメントがついてもせいぜい十数件といったところだ。が、今回は三十件も……?

 出勤時間まであまり時間がない中、ざっとコメントに目を通す。「面白かった」と言ってくれる声とは別に、「声とノイズが入っている」という意見が散見された。


「声……?」


 まさか。

 探索中に私が聞いた声のことだろうか。

 昨日、撮影したばかりの映像を確認した際にはノイズなど何もなかったし、編集中もそれらしい声や音は聞こえなかった。

 すべてのコメントを漁りたい衝動に駆られたが、家を出なければいけない時間が迫っている。二日ぶりの出勤だ。後ろ髪を引かれる思いでスマホを閉じて、勤務先の小学校へと向かった。


 立山(たてやま)小学校に勤めるのは今年で三年目になる。最初の一年間は、とにかく教師としての心得や仕事を覚えるのに必死だった。二年目、ようやく身も心も慣れてきた頃に、受け持っていた五年生のクラスでちょっとしたトラブルが起きた。気性の荒い男子生徒がいて、気弱な男の子に怪我をさせてしまったのだ。それも、事故ではなく故意に。だが二年目の私はそういったトラブルに対処することに慣れておらず、あたふたと狼狽えるばかりだった。そこからたぶん、「藤島先生は頼りない」という感覚が子どもたちの間でも広がって、誰も私の言うことを聞いてくれなくなった。学級崩壊寸前のまま一年が終わりその学年の担任から外されてほっとしていたのもつかの間、例のオジサン教師——酒井邦彦(さかいくにひこ)が赴任してきたのだ。


 彼は赴任したばかりだが、五十二歳のベテラン教師。いかつい体躯に前髪が少々薄くなった頭、分厚い唇に吊り上がった目つきが生徒たちにとっては恐怖心を覚えるらしく、彼が通りすぎるだけで萎縮してしまう生徒も多かった。教師の間でもまことしやかに囁かれる、以前の学校での彼の“武勇伝”のせいで、誰も自ら世間話をしようというひとはいない。なんでも、前の学校で彼は十人以上の新人教師を退職に追い込んだとか。新人の誰かひとりを“ターゲット”に決めて、執拗に厳しい指導をする。なんでも、彼は家庭でうまくいっていないらしく、妻に浮気をされ、息子にもグレられてストレスが常に溜まっているらしい。

 そのストレスの捌け口となるのが、“ターゲット”というわけだ。


 そういうわけだから、彼とは仕事上、話しかけざるを得ない時だけ会話をする。それも、彼の機嫌を損ねないように「あのう……」と恐る恐る話しかけるのでみんな精一杯だった。

 そんな酒井先生だが……不幸なことに、赴任してきてすぐ、私が担任をしている二年生の学年主任に君臨した。最初はいかつくて怖そうなオジサンだとしか思っていなかったが、彼が権力をふりかざして無茶振りを始めるのにそれほど時間はかからなかった。新学期が始まり、半月も経てば同じ学年の担任教師たちに暴君のように振る舞いだした。


“お前、あと十五分以内に遠足のプリントを作成しろ”

“子どもたちが言うことを聞かない? そんなの、一発かますしかねえだろ”

“三組のモンペババアから電話が来てるぞ! おい、誰か早く折り返せ!”


 基本的に他の先生たちのことを「お前」と呼び、一ミリたりとも油断ならない険しい表情で怒鳴り散らす。仕事の指示をするのは結構なことだが、言い方が乱暴すぎて、彼のがなり声を聞くだけで背筋がぞわぞわとする。みんな、他の学年の担当の先生までも彼のめちゃくちゃな物言いにおそれをなして、反抗することができない。そのくせ、校長や教頭がいる場では静かに思慮深い教師を装っているので、上のひとたちは現状を知らないのだ。誰かがチクリでもしたら酒井先生につるし上げられる——そんな恐怖が、みんなの間に広がっていた。

 さらに不幸なことに——現在進行形で、酒井先生の“ターゲット”になっているのは他でもない、この私だった。


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