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第九話 桃田味の桜餅

 よーし。ばれてない。

 桃田の後ろ姿を見失わないように距離を保ちつつ、商店街の端まで来たところで、でかい看板が目に入った。


 桃田まんじゅう。


 ……分かりやすすぎる。ここか。

 周りを見渡すと、妙に古い町並みだ。壁の色も、道の幅も、時間が一段だけ遅れてるみたいな感じがする。


 掲示板には「鈴宮神社 例大祭のお知らせ」。

 ……鈴宮さんの実家、ここか。

 そう思った瞬間、背後から声がした。


「あれ、黒木くん?」

「うわっ……!」


 振り向くと、桃田が首をかしげて立っていた。

 まさか、真正面から鉢合わせるとは。


「奇遇だね。なんでここに?」

「いや、まあ……腹が減って。寄り道してただけ」

「寄り道でここまで来るんだ」

「……来たんだよ。つーか、ここ、すげえ古い町だな。珍しい」


 桃田は、ちょっとだけ申し訳なさそうに笑った。


「この辺、開発の話は何回か来てるんだけどね。地元の人が、断り続けてるんだ。」

「へえ。伝統ってやつ?」

「うん。現代化して町がうるさくなるのが苦手な人もいるし、見慣れた建物が消えるのが嫌な人もいるから」


 桃田は俺の腹のあたりをちらっと見て。


「黒木くん、お腹すいたんだよね? 僕の実家、あそこ」


 指さした先に、さっきの看板。

 俺は小さくうなずいた。


「桃田まんじゅう……分かりやすい」

「じゃ、今日のお詫びで、僕の得意なの、一個出すからこっち来て」


 桃田が当たり前みたいに俺の手首を掴んで、店に入った。


 入った瞬間、空気が変わる。

 甘い、木と紙の匂いが混じって、妙に落ち着く。


「ただいまー」

「おかえり。――あら? 後ろの子は?」

「転校生の黒木日和くん。今日、隣の席になったんだ」

「お、お邪魔します。黒木日和です」


 女性はにこっと笑って、


「いらっしゃい、黒木くん。春臣、うるさくしてない?」


 ……そこ、本人の前で言うんだ。


「いえ、そんな。むしろすごく熱心で……助かりました」


 すると桃田が、真面目な顔で割り込んだ。


「いや、謝るべきことは謝るべきだよ。僕が喋りすぎて、僕ら二人そろって先生に怒られたから」

「お前、そこは胸張るな」

「というわけで今日は、黒木くんもお腹すいてるし。お詫びに、僕の得意なのを出します」


 ……素直なときは、素直なんだよな。腹立つくらい。


「いや、でも……俺も悪かったし。そこまでしなくても――」


 言いかけたところで、桃田のお母さんが笑って言った。


「黒木くん、気にしなくていいよ。この子がその気になったら止まらないから」

「……」

「お店の席はお客さんが使うからね。黒木くん、上で待ってて。春臣、案内してあげな」

「うん。黒木くん、こっち」


 靴を脱いで、階段を上がる途中――店の入口が開いた。


「お、春臣。今日は早いな。いつもなら部室で小説書いてる時間だろ」


 入ってきたのは、若い男と、もう一人、年上の大人。

 若い方は、朝に鈴宮さんと話してたやつだ。

 桃田が嫌そうな顔で母親を見る。


「……お母さん。言ったな?」

「何、今さら。春臣が文芸部なの、みんな知ってるって」

「先輩まで!」


 ――先輩。こいつが鈴宮さんの身内か。

 桃田が慌てて俺を紹介した。


「今日は特別なお客さんが来てるの。転校生の黒木くん」

「あ、初めまして。黒木日和です。お邪魔してます」


 若い男は、にやっと笑った。


「俺、鈴宮秋人。小春から聞いた。そっちのクラスに変なの来たって」

「鈴宮さん……」

「どう? 剣道部、興味ある? 小春の木刀、俺が仕込んだんだぜ」


 鈴宮秋人――そう名乗った男は、小春より背が高いのに、雰囲気がどこか似ていた。紫寄りの黒髪と、丸眼鏡。感情を表に出さない、静かな顔。

 ……なるほど。あの木刀、血筋か。


「……そ、それは、相当すごい腕ですね」


 桃田がすぐ会話を割り込んだ。


「はい、そこまで。黒木くんはこっちのお客さんだから」


 桃田は階段の上を指して、


「僕の部屋で待ってて。すぐ用意するから」

「え、入っていいのか?」

「もちろん」


 背後では、いつもの注文みたいな会話が続く。


「俺たちはいつものでいい。あと今日は小春の分も持ち帰りで」

「神社の行事の手伝い、いつもありがとな。差し入れ持ってきた」


 ……すごい、この店、町の中に溶けてる。


 桃田の部屋は、畳の和室だった。

 やけに整ってる。掃除も行き届いてて、生活感が少ない。

 壁際に写真があって、小学生っぽい桃田と、……鈴宮さん。

 幼なじみってやつか。

でもあの二人は言われないと分からない距離感だけど。


 本棚には漫画、文学、ラノベがたくさん。

 その中に、数学の参考書も混じってる。


「……苦手なのに買ってるんだ」

 

 苦手なものから逃げようとせず、学業、家の手伝いや町の行事まで同時にやるなんて、尊敬したくなるな

 俺は何となく手に取って、ページをめぐると


「……薄っ」


 俺も一応この参考書持ってるんだけど、こんなに薄いのか?

 嫌な予感がして、カバーをずらした。


「……おい」


 中身が、違う。


「うわ……」


 まぁ、年頃の男の子だから仕方ないか。

 でも気になるのが、やけに眼鏡の人が多かったな。


 え!?まさか鈴宮さんの影響で!?


 俺は秒速で元の位置に戻した。

 見なかった。

 俺は何も見ていない。


 尊敬しかけたのに、これかよ。

 いや、その隠し方は結構上手からそこは尊敬できる……のか?


 変な関係に巻き込まれたくない。

 俺は深呼吸して思考を切り替える。


 ふと、ベッドの横で立ち止まった。


 ……念のために確認を

 くん、くん


 同じ匂いがした。

 やっぱり、あの甘い匂いはシャンプーじゃない。生活の匂い――というか、家の匂いだ。


「黒木くん?」

「うわっ!」


 背後。桃田が皿を持って立っていた。


「入るときノックしろよ!」

「一応したよ。返事なかったから」

「……それは俺が悪い」


 桃田は皿を差し出した。


「はい。僕の手作りの桜餅。お詫びのやつ」

「だから、初日なのにそこまでしなくていいって」

「いいから。味、どう?」


 ……レビュー待ちの顔。

 

「……じゃ、いただきます」


 一口目。

 柔らかい。甘さは強くない。

 桜の香りがふわっと広がって――


 二口目で、違う匂いが混じった。

 ミント……?


(いや、桜餅にミントって何だよ)


 でも不思議に合ってる。

 むしろ、後味が軽くなる。


 噛んで、飲み込む直前――あの匂いがした。

 どこかで嗅いだ匂い。


 そう思うと同時に桃田が顔を寄せてくる。


「どう? おいしい?」


 近い。匂いが重なる。

 ……理解した。

 俺は、考えるより先に口が動いていた。


「……なんか、この桜餅。桃田の味がする」

「え?」


 桃田が固まった。

 俺も固まった。


ここまで読んでくださって、ありがとうございます!


自分は文章の投稿などすべてはほぼ初めてで、

まだまだ勉強中です。気になるところがあれば、

そっと教えていただけるととても助かります。

感想や指摘など一言でも

反応をいただけると、ものすごく励みになります。

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