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第十話 友だち、ってことで

しまった、俺なんて変なこと言ったんだ?

桃田の味がするって、よく考えたらどんな比喩だよ。


「えっと……僕の味、ですか?」

「いや! その、ほら『人の気持ちが込めた』的な意味で!」

「なるほど。……で、それでどんな味なの?」


良かった、さすが俺、なんとか回避できた。


「そうだな。最初は桜の香りふわっときて、そのあとミントの味が来る」

「それで? それで?」


いざ言語化しようとしたら、難しいな。自分の語彙力はこんなに低いのか?

お茶で口直しして、もう一口に。


「えーと、最後は甘いって感じだけど、ミントが効いてるから、甘さを逆に引き立つ感じ」

「それだけ?」

「いやほら……最近のお菓子って香味料をたくさん入れるやつ多いだろ。逆にこういう癖のない甘さの方が、俺的に……好きかも」


 ただの食レポなのに、なんか恥ずかしい。


「とにかく美味しいかったです。ごちそうさま!」

「いえいえ、気に入ってよかった。これからどうする? ゲームでもする?」

「ゲーム? 桃田、ゲームするのか」

「ゲームというか……囲碁ですけどね」


囲碁、それは白と黒の石で陣地を取り合うゲーム。

人の先読み能力や全体を見る力が試される。


「運動が苦手でさ、いつも家で遊んでるんだ」

「でもは囲碁は普通に面白そうじゃん、桃田は得意なの?」

「小春と暇な時やってるくらい」


桃田は苦笑いして


「とはいっても、いつも負けてるけどね」

「へえ。派手に取りに行くと逆に損することは多いしな、局所のケンカと、全体の利益のバランスを考えないと」


桃田はやけに優しい顔でにっこり笑った。


「おお、詳しいね。じゃ、さっそくやろう!」

「では、お手並み拝見しようか」


俺は内心で、こっそり計算する。

いきなり本気で潰しに行ったら印象が悪い、ここはちょっとした手加減で程よく負ける。

そして「桃田さすがだな」って言って距離を縮める。完璧。

フフフ、さすが俺!


数十分後……


「えっと、桃田?本当に暇なときやってるだけ?」

「うん」

「『うん』、じゃないよ!前の学校では将棋部だったけど、こんな負け方は初めてだ。もう一回!」


数十分後……


「……」

「あら、僕の負けだね、参った参った」

「桃田」

「ん?」

「その接待プレイはやめろ。さっきと違い過ぎでしょう?」

「まさか。そんなことはしてないよ?」


こいつ目が笑ってる。絶対してる。

俺は目を細めて、真面目に言った。


「……まあいい。最初は俺だって気を抜いてた。今度こそ、お互い本気でやろう」

「それも楽しみだけど、もうこんな時間だよ?」


「うわ、本当だ。そろそろお母さんが帰る時間だ」

「道、大丈夫?送ろうか?」

「いい、来る道くらいは覚えてるから」


それを聞いた桃田は笑顔で


「じゃ、いつでも来れるね」

「……とりあえず今日は帰る、招待してくれて、ありがとうな」

「うん、まだ明日」


階段を降りると、桃田のお母さんが顔を出した。


「あらもう帰るの?食べてから行ってもいいのに」

「大丈夫です。今日は邪魔しました。ありがとうございます」


そのまま、家に向かった。

着いたころには、もう家の電気がついてた。


「ただいま」

「お帰りなさい、今日は遅かったね」

「はい、いろいろあってな」

「いいことじゃない、部屋に引きこもるより」

「はいはい。俺も用事っていうのがあるんだよ」

「ったく、今度は連絡ちょうだい。心配するからね」

「うん、分かった。ご飯できるまで部屋で待つ」


部屋に戻りかけて、ふと思い出す。


「ああ、お母さん。俺昔買った囲碁の本、どこ?」

「自分のものでしょう?テレビの隣の本棚においてるわ」

「ありがとう、じゃ、ご飯まで邪魔しないで」

「はいはい。イヤホンはだめよ。ノック聞こえないでしょ?」


カシャン


 ――そして俺は、翌日の学校に向かうことになる。


「おはよう、黒木くん」

「おはよう、桃田。……あと、鈴宮さんも」

「黒木くんが良ければ、私のことは小春でいいよ」


え。女の子を下の名前で? 人生初かも。


「あ、いいんですか? では、こ……小春さん」

「ふふ。じゃあ、ハルちんも日和くんと仲良してあげてね」


 呼ぶのも、呼ばれるのも、なんか嬉しい


「おい、僕より先に下の名前で呼んでるじゃん?ずるいって」

 小春が俺の方を見て、さらっと言う

「桃田のことも、春臣って読んだら?」

「それはまだ早い! ていうか、本人はまだ何も」

「僕は別にいいけど、日和次第だね」

「ほら、日和って名前、可愛いよね」


 いや、待て。なんだこの状況。とりあえず緊急脱出を。


「俺は日直だから、早く教室いかないと、それじゃ!」


逃げるように教室へ入って、黒板と教壇を拭いて席に戻る。

すると隣から、小声が飛んできた。


「ね、日和。今からの社会のノートはみせるから、二限目の理科のノートも見せてよ」

(もう呼んでるのか……)

「わかった、頼む」

「ありがとう、へへ」


そのまま、何こともなく昼休みになった。

俺の無愛想な顔のせいか、相変わらず誰も話しかけてこない。

代わりに、桃田の周りだけは賑やかだった。


「桃田?この後一緒に食べる? 面白い漫画を見つけてさー」

「おい、携帯しまってよ。バレても知らないよ」

「だから、いつものとこでだべよう」


いいよな、話しかけられて。……羨ましい。

でも、俺は話しかけられたら、それはそれで困るんだけど。


「今日はやめとく。……それに、文芸部の部室は今後使えなくなるかも」

「いよいよ廃部?お前と鈴宮以外に活動するやつ見たことないぞ」

「僕だって頑張ってるから、なんとか文化祭で形にしないと、続けられるか怪しい」


そうか、文芸部は廃部か。

気の毒だけど、俺小説なんて書けないし、絵も下手だけどな。


桃田は友達とどこかへ行って、俺は一人で席に残って昼飯を済ませた。

昼休みが終わって、三限目は体育、種目はマラソンだ。


「先生! 全員、あと最後の一周です」


……いつも通り、俺は最後尾に走っていた。

別にサボったわけじゃないけど、ただ単純に向いてない。

空気が冷たく感じて、足も重い。


気づけば、前の集団はもう校庭に戻っている。

クラスメイトが並んで俺を待っていた、公開処刑って、こういう気分か。


そのとき、横から足音が増えた。


「日和、ペース落として。……僕も走る」


桃田が、息を切らしながら並んできた。


「……は? カッコつけか?」

「なにそれ。カッコつけてないよ」

「昨日、運動苦手って言ってただろ」


 桃田は前を見たまま。


「じゃあさ。日和の言い方だと、全員に見られながら一人で走れってこと?」

「……」

「僕、運動ヘタなの、みんな知ってるし。最後の一周くらい、一緒でよくない?」


 桃田は息を吸って、へらっと笑った。


「ほら。せめて二人で遅くれよう」


 ……ああ、もう。そういうとこだ。


「分かった。……無理させて悪い」


 俺たちは、クラスの視線の中へ並んで走った。

 足の重さが少しだけ軽くなった気がした。


 最後の一周を走り切って、二人は芝生の上に倒れ込んだ


「はぁ、こういうとき、横になるより歩いたほうがいいって、どこかの医者が言ってた気がする」

「無理。日和自分で歩いて」

「……ったく」


 空を見上げたまま、俺が言った


「なぁ、桃田?」

「ん?」

「今日は三限で終わるんだろ、部活ある?」

「あるね、どうしたの?」

「文芸部の話、紹介してよ」


 今度は、俺が助ける番だ。


ここまで読んでくださって、ありがとうございます!


自分は文章の投稿などすべてはほぼ初めてで、

まだまだ勉強中です。気になるところがあれば、

そっと教えていただけるととても助かります。

感想や指摘など一言でも

反応をいただけると、ものすごく励みになります。

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