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閉ざされた視界と、独りの塔

 お兄様と美桜様の裏切りを視てから、私の心は、凍てついた月光のように、静かに、そして深くひび割れた。


 私は、あの甘く清らかな愛の輝きが「偽り」であるという、あまりにも残酷な真実を、もう一度確認するのが恐ろしかった。


 憎悪するあの月ですら、私の恐怖に呼応したかのように光を失っていった。美桜様とお兄様の、あの夜から、月は日に日に細くなり、三日月となった。


(悠真様は、今どうしていらっしゃるのだろうか?一人で、寂しい思いをしていないだろうか?)


 美桜様の裏切りを知ってもなお、私は悠真様のことが気になって仕方なかった。しかし、私の想いとは裏腹に、夜空から月の光は完全に消え、ついに新月となった。


「月視」は発動できなくなり、外界との唯一の繋がりが絶たれた。私は、自分が塔に閉じ込められた化け物であるという、最も醜い現実に引き戻された。



 私の塔での生活は、外界の騒めきとは無縁の、孤独なものだった。


 兄が三日に一度、食材や生活必需品を運んでくる。パンなどはあるが、それ以外の食事は自分で用意しなければならない。しかし、私は幸いなことに、月の女神の愛し子であるため、膨大な魔力を持っている。


 私は、生活魔法と呼ばれる、単純だが日常に必要な魔術を使うことができる。指先一つで火をおこし、新鮮な水を出し、クリーンの魔法で身体を清潔に保つ。魔力が尽きる心配はないが、外界のものが一切ないこの塔で、孤独と空虚さを紛らわせるすべは少なかった。


 そんな私の唯一の愉しみは、お風呂だった。


 温かいお湯を出し、全身を清める時間だけは、私が穢れた存在ではないような錯覚を覚えることができた。この瞬間だけが、私が人間らしさを保つために許された時間のように感じていた。



 しかし、兄が塔に姿を見せるたびに、私の平穏は破られた。

 食材を運び終えると、兄は必ず、外界で自分がいかに楽しく、自由に過ごしているかを、私に細かく話した。

「この間、新しい酒場を見つけたんだ。お前には想像もつかないくらい、賑やかで楽しい場所だよ」

 兄はいつも、満面の笑顔でそう言った。

「お前が化け物じゃなかったら、連れていってあげられるのに」


 塔に入れられたばかりの頃、兄の瞳には私への深い憎しみが宿っていた。しかし、月日が経つにつれ、憎しみは消え、今は私の哀れな状況への優越感と、冷たい憐れみのような感情に変わっていた。その無慈悲な笑顔を見るたびに、私の中に凍りついた孤独が、さらに深く沈んでいくのを感じた。



 外界の情報が完全に遮断されたまま、どれほどの時間が経っただろうか。


 ある日、夜空を見上げると、月は半月、上弦の月となって、再び十分な光を取り戻していた。

 悠真様が出張から戻ってくる前日だった。


 私は、恐怖と知りたい衝動、そして悠真様を案じる気持ちの間で激しく揺れたが、ついに決意した。


 私は震える手で、久しぶりに美桜様の姿を思い浮かべ「月視」を発動した。


 光が集中し、映し出される異世界の光景。


 ――――目の前には、お兄様がいた。


(美桜様、なぜですか?なぜ、悠真様を裏切り続けるのですか?)

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