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5 魔王、居城を得る

「あ、そうだ! どうせ、住む場所とか無いんでしょ? ね? そうでしょ!? しばらくうちに居ていいよ! ぜひぜひ!!」

 男は興奮気味に、ぐいぐいと魔王に同居を勧める。


「えっ、あっ……」

 急な展開に困惑する魔王。あと、さっき逆ギレされてヘコんでしまっていて、未だにメンタルを立て直しきれておらず、しどろもどろになっている。


「さっきは怒ったりしてごめん。君に会えて事があまりにも嬉しすぎて、感情のコントロールが出来なくなってたよ……本当に申し訳ないよ」

 男は、頭に手を当てながら、恥ずかしそうに謝罪をしてきた。


「いや、別に気にしてないし……」

 ちょっと強がってみる魔王。


「でも、同居は本当にお勧めだよ。君、そのままの態度で外にいたら、大騒ぎになるだろうし…それに勇者に狙われているんでしょ?」

 確かに住む場所もない状態だったので、渡りに船なのだが、魔王の天よりも高いプライドが邪魔して、このまま世話になるとは言いづらい……。


 そこでこの世界でいうところのIQが200以上ある魔王の高性能な頭脳は全力で大義名分(屁理屈)を考え始めた……。


「そうだ! 今から余は、貴様、いや貴殿と同盟を結ぶことにする。異世界転移は言い換えれば、遠征のようなものだ……ここは貴殿の領土故、一部領土を租借させてもらい、わが陣地とする。もちろん対価は払う。それでよかろう。な!」

 魔王は、高性能な頭脳を駆使したものの、しょうもない屁理屈しか考えつかなかった…。


「対価なんて、別にいいよ…異世界人と同居なんて……それだけで

感無量だよ!ううっ……」

 ハイになっている男は、涙をぬぐいながら、感謝してくる。


「そうはいかん、そうでなければ、この地を征服し、わが領土とせねばならん。さすれば杉並の人口の半分は殺さねばならん…」

 あくまでも魔王の論理を展開する魔王。


「わ、わかったよ、それでいいよ…って言っても、君、この世界のお金を持ってないんじゃないの?」


「うっ……確かに……」

 見栄を張ったものの、よく考えれば無一文だったことに気付くおっちょこちょいな魔王。


「だ、だが、この世界の金は持っていないが、わが世界の金ならそれなりに持っている。陣地を借りるには、少ないかもしれぬが、受け取ってくれ。」

 魔王は次元の裂け目を作り出し、金の延べ棒を6本取り出した。


「うわっ……これって、本物の金!? っていうか、どっから出したのよ!?」


「無論、亜空間だ。それにこれはもちろん純金だぞ。これでは足りぬか?」

 男は思わずゴクリと喉を鳴らしながら、目の前に積まれた金塊を凝視した。


「す、すげー……でも、その額は多すぎるよ。僕からしたら、異世界転移者と生活できるだけで、十分な報酬だよ! そうだなぁ……お金はいいから、毎日、魔法を見せてよ!僕からしたらそっちの方が嬉しいし、勉強になるよ」


「えっ、ああ。別に余は構わんが……そんなことで良いのか?」

(この男……何たる謙虚さ!いかに善良な人間であってもこれだけの金塊を目の前にして、自らの清貧を堅持することは不可能に近い……恐らく元の世界でこのような謙虚な振る舞いが可能だったのは、東方の大賢人ゴルサードくらいであろう……)

 勝手に感極まって、思わず天を仰ぐ魔王。


(ああ、余は何たる幸せ者なのだ。アニメに出会っただけでなく、このような稀代の大賢人と生活を共にできるとは……これは僥倖……何たる僥倖!!)

 口では、素っ気なく答えているが、心の中は大興奮状態な魔王。魔王の中でのこの男の評価はうなぎ登りになっている。


「ホラ、それに多分このボロアパートが買えちゃうくらいの金の量だよ… これで貰ったら、詐欺と同じだよ……だから、こんなに受け取れないよ。家賃五万のボロアパートだし……」

 魔王は古臭い部屋を見渡した後、少し考えて、「まぁ、言われてみれば、確かにそうだな……それで手を打とう!」と言いながら、そっと金塊をしまった。



 ……



「よし、これでこの部屋をわが陣地、いや、居城とさせてもらうぞ。ぬはははっ!」

 こうして魔王は、ついにこの世界での居城を手に入れたのである。


「さて、次は……今度こそアニメを作るぞ…待っておれ、制作会社どもめ!余を不審者と勘違いしたことを後悔させてやる!」

 魔王は、案外根に持つタイプだった…。


「そんなことより、約束通り、早く魔法を見せてよ!! 僕のことを浮かせたり出来る? 何か召喚できたりする??」

 男は、少年のように目を輝かせ、魔法を楽しみにしている。


(何という向上心だ!全く底が見えない……)

 魔王は、好奇心に目を輝かせる男への尊敬心をさらに高めたのである。


「そうだな、約束だ。何の魔法が良いか? 申してみよ……ぐぅ~」

 そう言った途端、お腹が鳴り、魔王は顔を赤らめた。


「……ま、まずは腹ごしらえだな。お主、何か食べるものをくれぬか? ……そういえば、お主の名前をまだ聞いていなかった。名を名乗ることを許可する、申せ!」

 魔王は、あくまで魔王なので、悪気はないが、節々に横柄さが出てしまう。


「ああ、そう言えばそうだね…僕は坂田時男。改めてよろしくね。何も食べてないと思ってたから、朝ごはん作っておいたよ。さあ、食べよう。」

 坂田は、泊まりに来たゲストに朝食を作ることが当たり前だと思っている出来た子である。しかし一切名乗らないで、他人に部屋を貸すあたりから察するにこの男はかなりのお人よしである。


「おお、なんと!お主、料理まで作れるのか!?凄まじく気の利く男だな、坂田よ…早速いただくとしよう。」


(何という有能!手際の良さ!! 魔界でもこれほどの者は見たことがない! 気が効きすぎだろう!!さっきから何なの、コイツ!?謙虚だし、気が利くし……もはや国士だわ…… あー、ヤバい、何かもうちょっとファンになりそうだよ……)


 朝ごはんを作っただけで、魔界で一番の評価を得てしまう坂田。


「ん、なんだこの棒は? どうやって使うのだ?」


「あははっ、それは箸だよ。そっちの世界じゃないのかな? ほら、こうだよ。」


「こ、こうか……? う、うまい!! 坂田……ど、殿、貴殿はどれほどの天才なのだ!!」


(何ということだ、料理を作れるだけですごいのに、こんなに美味い料理まで作れるとは……どれだけ凄いんだ!!)

 案外、ハードルが低めな魔王は、もはや坂田殿にぞっこん。むしろ自分から胃袋を坂田殿に掴ませにいっている。


 ……


 こうして魔王は、この世界に来て初めての食事にありつくことができた。そして、坂田を「坂田殿」と呼ぶようになった。そして、新たな世界での日常が始まる――。



魔王、居候になる。


続く…。


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