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29 魔王、勇者と再再会す

 一週間後、再び勇者が魔王のもとを訪れた……。


 髪はボサボサで、顔色は土気色。目の下にはクマが濃く刻まれ、頬はこけ、唇はひび割れていた。服もシミだらけで、かすかに腐った野菜のような匂いがする。


「ど、どうしたの?」


「なぁ、魔王、自由って、何だろう…?」

 俯いたまま、呟くように言った。その顔には生気はなく、かつて勇者と呼ばれたものとは思えない覇気のない姿だった。さすがの魔王も、この没落ぶりには哀れさを通り越してドン引きしてしまった。


「ま、まぁ、とりあえず風呂でも入れよ!話はそれからだ。」

 相変わらず臭かったので、とりあえず風呂に入れた。今回は静かだ。


 (シャワーの使い方は覚えたみたいだな…これで少しは元気になるだろう。)


 しかし風呂から出てきても、綺麗になったのは身体だけで、勇者の辛気臭さ、負のオーラは誰の目にもハッキリ見えるレベルだった。


「な、何か食うか?大したモノないけど…は、腹減ってるだろ、な?」


「うん…」

 蚊の鳴くような声で頷く勇者。

 魔王は、昼に食べようと思っていた師匠がバイト先から持ってきてくれた余った弁当を勧めた。

 勇者は、弁当を一口、口に運んだ瞬間、泣き出した。


「う、美味い…」


 今までの孤独な日雇い労働&ホームレス生活がよっぽどきつかったのだろう。魔王は察した。


(よく考えたら、一銭も渡さず追い返したから、直後にホームレスに逆戻りした訳か…悪いことしたな)


 ヒ⚪︎アカのリアタイ視聴を優先したことに罪悪感を覚えた魔王だった…


 勇者は食べ終わった後、魔王に深々と頭を下げて「この借りは必ず返します」と言い、外へ出ようとした。


 その瞬間、勇者の身体は小刻みに震え出し、目から涙が溢れ出した。


「アレ、おかしいなぁ。何でだろう?アレっ?」

 震えがどんどん大きくなっていく。


「ダメだよ、勇者アルデン…君は勇者だ。自由を怖がっちゃダメだよ…」

 ブツブツと自分に言い聞かせる様子を見て、魔王は段々怖くなってきた。


「自由って、何なんだろうな…?」

 不自然に小首を傾げ、自由について考え出す勇者。


「僕はずっと、戦うことしかしてこなかった。敵が目の前にいれば剣を振るえばよかった。命令されれば、それに従えばよかった。」

 勇者は手のひらをジッと見つめながら、ブツブツと呟いている。


「お、おい。勇者?あ、アルデン、大丈夫か?」


「えっ…?あぁ、大丈夫だよ……。」

 虚ろな表情で魔王の方を向くと、完全に瞳孔が開いた目でそう言った。


「でも、今は…僕には何の命令もないんだ。何をすればいいのか分からない…」


「僕は…ただの“アルデン”なのか?でも、“アルデン”って何をする存在なんだ?」


「自由って、何をすればいいのか、誰も教えてくれないんだな…」


「そういえば、前の世界では“魔王を倒せ”って命令されて、それだけやってればよかったんだよな…。楽で良かったのになぁ…」


「……あっ、こんなところに魔王がいる。斬ったら、元の世界に帰れるかなぁ?」


 不意に、勇者の目つきが鋭くなる。殺気すら感じさせる視線が、魔王に向けられた。


「……あ、ダメダメ。魔王は僕を助けてくれたじゃないか。それに今日だって、お風呂も、ご飯もくれたんだぞ……」


 ふっと視線が緩む。だが次の瞬間、再びブツブツと呟きながら、怯えた表情へと戻る。


「自由……じ、自由か……こいつのせいで自由なのか……許せねぇなぁ……」


 再び目が鋭くなる。そうかと思えば、今度はハッとしたように顔を上げ、額に手を当てる。


「イケナイ、イケナイ……自由が悪いんじゃない……これは仕方がないことなんだ……戻り方も分からないし……とにかく……頑張らなければ……」


 そして、再び徐々に怯えたような表情になっていく。


「あぁ、ダメダメ…いや無理だよ、こ、怖いよ自由…ダメだ、頑張らなきゃ…アレ、おかしいなぁ、足が動かない…あれれ……」


 勇者は、もはや錯乱していた。目に涙を溜め、顔を掻きむしりながら、小刻みに震え、ブツブツと何かを呟いている。


「もう、いい!もう十分だ!悪かった!俺が悪かった!!」


 魔王は耐えられなくなり、口を開いた。


「師匠に掛け合うから、少しここでゆっくりしてけよ、な!」


「えっ、いいの?いやでも悪いよ…」


 勇者は、明らかに魔王がそうしてくれることを期待しており、いやらしいほどに媚びた目をしている。それは魔王にも分かった。しかし、それでも魔王は耐えられなかった。


「任せておけ、何とかするから…」


「あ、ありがとう魔王!!感謝するよ!」

 なんとも気味の悪い笑顔を作り、感謝する勇者。


「あ、ああ。でもしばらくだぞ!落ち着いたら、出てけよ!」


 一抹の不安を拭えない魔王は、念を押してみた。しかし……。


「ありがとう、親愛なる魔王。君は一生の恩人だよ…」


 手応えはなく、その胸にあった一抹の不安は、さらに大きいものになった。

 バイトから帰ってきた師匠に顛末を説明した。

 師匠は、呆れて言った。

「まぁ、いいけどさぁ、もう空いてる部屋なんて無いよ…」


「あ…」


「そっちで何とかしてね。それが条件だよ!」


「あ、ああ、任せろ…」

 魔王は、ニュースでたまにやってる不良債権というものの意味が分かった気がした。


「勇者よ、今日からここがお前の家だ!青いジャージ着てるし…。」


 そして魔王は押し入れを指差した…。



 魔王、ド○えもんと同棲開始……


 続く…。


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