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19 魔王、元の世界を語る(その3)

「で、魔王自身の生い立ちは?」


「余か……500年前、先王ドグガロスの長男として生まれ、しばらくは甘やかされてハッピーに育っていたのだが、わずか127歳の時に母上が病で亡くなってな……それ以降、教育係として、かつて“武神”と呼ばれた爺やに壮絶なスパルタ教育を受けることになった。そのおかげで立派な魔王になれたのだが……その時のことを思い出すと、今でも悲しくないのに涙が止まらなくなるんだよな……爺やには感謝しかないのに、不思議だよなぁ……」


 魔王は、自身のトラウマを自覚していないようで、小刻みに震えながら、異常に早口で話している……。


「しかも、これまたわずか190歳で父上を勇者に殺された……たった190年で両親を失ったんだぞ……早過ぎるだろう……ううっ!」


 亡くなった両親のことを思い出して感極まっているらしい。


「そ、そうなんだ……それはお気の毒に……」


(だけど、190年は“たった”ではないな……時間感覚が違いすぎるな……)


 師匠はリアクションに困った。


「その後すぐに、若干190歳で王位についた。そして爺やのスパルタ教育はさらに加速し……おえぇぇ……」

 その頃を思い出して、吐き気をもよおす魔王。


「す、すまん……思い出したら吐き気が……で、でもそのおかげで余は、魔界最強の魔法戦士兼大戦略家になれたのだ。そして約300年で再統一を果たしたわけよ……その後に待ち受けていたのは、楽しい楽しい胃潰瘍の日々……」


 魔王は懐かしそうな表情で空を見上げた。恐らく胃痛の回復魔法を使いたいのだろうが、必死にこらえているようで、硬く握った拳からは血がにじんでいた。


「……辛かったんだね……」


 師匠は、魔王の半生が壮絶すぎて、気の毒すぎて、掛ける言葉も見つからなかった。


「しかも元の世界には娯楽なんて全くなかったからなぁ……今思うとゾッとするよ……」


 魔王は首を横に振りながらため息をつく。


「壮絶な上に娯楽もないのは相当キツいね……そういう意味では、こっちの世界に来て本当に良かったね!」


 アニメを紹介した張本人として、少しは魔王の役に立てたと感じて、ほっとする師匠。


「それなっ! でも、エンタメとか全く摂取してこなかったから、そういうものに対する耐性が全くなくてな……」


「廃人レベルでどハマりしてるもんね……」


「そう! だからこのエンタメに溢れた世界にいると、アニメやらソシャゲやらが楽しすぎて、頭がどうにかなりそうなんだよ……毎日、正気を保つのが一苦労だよ。ハハハッ」


 魔王はにこやかに笑っているものの、その目は完全に常軌を逸していた。


「……こっちの世界に染まりまくってるね……(かなり偏った形で……)でも、この世界を楽しんでくれてて、何よりだよ。」


 その偏りの一端を担っている自覚がある師匠は、若干の罪悪感を覚えた。


「こちらこそ、師匠にはとても感謝しているぞ……ただ、唯一気になるのは、妹のことだ……」


「妹?」


「かわいいんだよ。妹の旦那さんになりたいくらい可愛い。」


「えぇ……」


 師匠がドン引きした表情を見せたので、魔王は慌てて訂正した。


「ち、違うからね! 今のは例えだからね! 本当に結婚したいわけじゃないからね! 余はロジータちゃん一筋だから! う、浮気とかじゃないからね!」


 焦る方向性を間違えている魔王。


「まだ350歳の箱入り娘で、余に似て絶世の美女な上に、身長350センチもあるんだぞ! きっと母上に似たのだろうな……」


「まだって……つーか、でかっ!」


(魔王の母親、どんだけでかいんだろう……さすが魔族)


 師匠は、改めて魔王が人間ではなく魔人であることを痛感した。


 きっと母親のことを思い出したのだろう。魔王は、哀愁のある表情で遠くを見ている。


「ママ……」


 魔王は、ボソッと呟いた。


「ママ?」


 思わず反応してしまう師匠。


「ち、違う!! 違うよ!! 全然言ってないよ!!」


 顔を真っ赤にして“ママ”発言を全力否定する魔王。その狼狽ぶりが、むしろ肯定に聞こえてしまう。


「勘違いだからね! 『ままならない』って心の中で呟いたら、『ママ』だけが声に出ちゃっただけだからね! マザコンとかじゃないからね!」


 魔王の必死な言い訳に、師匠は魔王が母親を“ママ”と呼んでいたことを確信する。


「ハイハイ……別に気にしてないけど……」


 薄ら笑いを浮かべながら、適当に答える師匠。


「『ハイ』は一回でいい!!」


……


 その後、魔王は“ママ”発言を帳消しにするため、延々と自分の功績を語り続けた。つまり自慢話である。


「……まあ、そんなこんなでやっとのことで300年かけて魔界を統一したら、アルデンとかいう滅茶苦茶強い勇者が現れて、あれよあれよとめちゃくちゃにされたのよ……も、もちろん余の方が強いよ! そこ重要だからね!」


 師匠は、日々醜態しか晒していない分際で「昔はすごかった」と語ってくる魔王に、少々辟易していた。


「ハイハイ、魔王の方が強いんだね……」


 ぶっちゃけどっちが強いとか興味のない師匠は、テキトーに返事をする。


「だから、『ハイ』は一回でいいって言ってるでしょうが!!」


 勇者より強いと思われることは、魔王にとってかなり重要らしく、顔を真っ赤にして青筋を立てながら怒っている。


「分かったよ、ごめん! で、その後どうなったの?」


「でもやっかいなのは、それだけじゃなくてさ……良い参謀役の魔法使いがパーティーメンバーにいて、勇者様ご一行のくせに、裏でコソコソと調略とかしてくるのよ。それで支配地域をオセロみたいにひっくり返されて、あっという間に魔王城まで攻め込まれて……」


「うわぁ……それはキツいね。その対決の最中に、ワームホールでこっちの世界に来ちゃったってわけね……」


「そうそう。最初は国のこととか考えて、早く戻らなきゃって思ってたけど……アニメに出会ってしまったから……」


「アニメに出会ったの、転移した初日じゃん……」


「まあまあ……でもどちらにしても、今はもう……元の世界の状況とか想像すると……ぶっちゃけ帰りたくないよ……」


「それはそうかもね……」


「仮にアルデンっていう勇者を倒したとしても、また次の勇者が来るだけだからね。つまり……」


「……無限ループ?」


「そう!ソシャゲは、いくら爆死しても天井あるから、必ずロジータちゃんが出るから頑張れるけど……あっちの世界は、全然ガチャ回してないのに、人権級SSRの勇者が確定で出てくるだけだからね……だから、ぶっちゃけ、こっちの世界に骨を埋めるつもりだよ。もはやアニメもソシャゲもない世界で生きるなんて、不可能だよ……」


 魔王は遠い目をしてため息をついた。


「今の生活、楽しい?」


「……めっちゃ楽しい。」


 魔王の即答に、師匠は思わず吹き出した。


「そっか、ならよかったね。」


 師匠は、その一言に少しだけ救われた気がした。


 魔王、過去をベラベラ喋る(その3)


 続く…。


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