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15 魔王、日常を晒す(その1:主観モード)

 朝。


  目覚めると、すでに日が昇っていた。


「余は魔王である。朝は苦手だが、寝坊はしない。」


 ……師匠に怒られるからだ。


 布団を蹴飛ばし、ようやく起き上がる。昨日、ソシャゲの対人戦に夢中になりすぎて、寝るのが遅くなったのが、響く。寝起きの体を伸ばしながら居間へ向かうと、すでに朝食が用意されていた。師匠はすでに起きて支度を済ませ、準備万端の顔でこちらを見ている。


「ほら、さっさと食べて。今日は洗濯当番、魔王の番だからね。」


「あぁ……」

 魔王なのに、家事の当番がある。

 納得いかぬ。


「今日はサボるなよ?」


「わかってる、わかってる……」

 師匠の鋭い目に見つめられ、余は素直に頷いた。

 とりあえず、朝食は美味い。さすが師匠。


 師匠を見送ると、余の自由時間が始まる。


「さて……朝課金の時間である。」


 3日で500万円課金したことがバレて以来、師匠の前ではやりづらいので、お見送りの直後にやるのが習慣となった。

 お見送りの時に必ず満面の笑顔になるのは、決して師匠への感謝ではなく、これから始まる朝課金への期待からである。


 ──爆散。


 ……まぁ、爆死するんだが。これもまた日課だ。


「くっ……許せぬ……!」


 怒りにまかせ、余はスマホを投げる。これも日課だ。

 当然、画面が粉々になるが、大丈夫だ。


 余には、修復魔法という素晴らしく偉大なスキルがある。

 昔、爺やが教えてくれた時は「何に使うのか?」と首を傾げたものだが、今では大活躍している。頻繁に……!


「はぁ……余の課金運は尽きたのか……?」

 そんなことを考えながら、朝のさんp……見回りに出る。


 ──国土警備の一環としての見回り(兼コンビニ遠征)


 閑静な住宅街の朝は気持ちいい。今日は少し遠くのファ○マへ向かう。

 何故なら新作スイーツが出たからだ。ついでに、課金カードも補充しておこう。


 道中、通学中の子供たちとすれ違う。


「おはようございます、魔王さま!」

「うむ、今日も良い朝だな。」


 手を振ると、子供たちも手を振り返してくる。

 最初は警戒されていたが、今ではすっかり馴染んだ。


「ふふっ、奴等も子供なりに、誰がこの地の支配者か理解したのだろう。」


 少し誇らしい気持ちになる。

 子供の純粋な笑顔は、爆死した余の心を癒してくれる。


 途中で、老婆が重そうな荷物を持っているのを見かける。


「ふむ、王として当然の務めだな。」


 颯爽と荷物を持ってあげる。

 おばあさんは目を丸くしていたが、やがて「ありがとうねぇ」と微笑んだ。


「……こういうのも、悪くないな。」


 お目当ての新作スイーツと課金カードを買い、無事に帰還。

 昨晩、対人戦に夢中になって見逃した深夜アニメを消化しつつ、新作スイーツを頂く。余はすべてのアニメを愛する男。いかに作画崩壊していようと、必ず最後まで見届ける。これが杉並の真の支配者たる余の責務である。


「しかし、この作画崩壊はヤバいな…でもそこに制作陣の苦悩が垣間見えるのだ。頑張れ、後3話だ!……だが、このCGはもうダメかもしれんな。」

 ど、どんな作品でも余は常に親心をもって接するのだ。そしてスマホ片手に新作スイーツを頬張りながら、アニメを消化していく。


「そろそろ12時か…今日はガチャの更新日だからな。ロジータちゃんの新サポカでるし、スタートダッシュしないとな…」


 早速、プチ爆死…気分転換に昼の見回りへ。


「そろそろ紙の金が減ってきたしな……」


 課金が捗ると、現金がなくなる。

 仕方なく質屋へ向かい、資金を確保する。しかし、同じ場所に通うのは師匠に注意されているので、今日は少し遠出して別の店を訪れた。

(あー、めんどくせぇ…)


「さて……」


 金が手元にあると気が大きくなるのが、魔王の性。昼ガチャリベンジの時間である。


 !!!!


 なんと、一発でSSR二枚抜き!!そしてもう10連したらさらにSSRを引いた!衝撃のあまり、手の震えが止まらない。


「……こ、これは…祝いじゃ…祝杯を上げねば!」


 近くのロー○ンで唐揚げ弁当と最近ハマっているレモンサワーを購入。


「今日はご機嫌ですね、魔王様。何か良いことあったんすか?」

 初めてのおつかいの時に対応したコンビニの店員・田嶋が親しげに話しかけてくる。あの日以来、毎日、この店の課金カードを買い占めている。

 そのため、今ではすっかり仲良しになっており、店員・田嶋は魔王の堂々とした雰囲気に魅了され、まるで子分のように振る舞っている。


「お、分かるか?二枚抜きだよ!」

 余は、無礼講とばかりに店員・田嶋ごときに宇宙一絵になるどや顔を見せてやった。


「お、凄いっすね!俺も休憩時間にやろうっと!」

 元々は違ったが、魔王に勧められて、今ではすっかりロジータ信者になっている。


「殊勝な心がけだ。だが課金のし過ぎには十分注意するんだぞ!

 店員・田嶋はきっと堪え性がないので、杉並区の真の支配者として、特別に注意してやった。


……


(どの口が言ってるんだよ……)

 驚くべき発言が廃課金者の口から飛び出したことに店員・田嶋は驚愕した。


……


「魔王様には敵いませんよぉ~、ハハハ」

 軽快なトークをしつつ、店員・田嶋との別れを告げると、そそくさと家に帰り、レモンサワーで祝杯を挙げる。


「思わずロング缶買っちゃったよ、フフフッ。」


 満面の笑みで、さっき引いたSSRの性能を確認しながら、頬張った唐揚げをレモンサワーで流し込む。


「いいの出たな……フフフッ。」


 一通り満足したところで、アルコールが回ってきたのか、つい眠くなる。少しだけ……昼寝するか。なんだか良い夢が見れそうだ……



 ……



(んっ?なんだこのおどろおどろしい殺気のようなものは……はっ!しまった。この気配は……)


 ──そして目が覚めた時、師匠が枕元に立っていた。


「魔王、また昼間から酒飲んで寝てたでしょう?」


「いや、これは……その……お昼にSSRが3枚引けて、それでつい祝杯を上げてしまい……」


「はぁ〜。またそう言って……昨日は、爆死して落ち込んだ自分への励まし、とか言って飲んでたでしょう…って言うか、懲りずにまた課金したの?昨日は『今週はもうしまへん』とか言ってたじゃん……。」


「あははっ…つ、つい……。」


「………。」


 やばい。

 完全に師匠が怒っている。


「よぉーし、夜の見回り行ってこようかなぁ~。」


 そう言うと、余は急に支配者の責務としての夜の見回りを思い出して、とるものもとらずに家を飛び出した。


「あ、待って、洗濯物やりなよ!!」


 しかし、これもある意味、いつもの展開である。


「チッ、うっかりスマホと財布忘れて出てきてしまった…。」


 これでは何も出来ない。大人しく師匠に詫びて、部屋に入れてもらおうか…そんなことを考えていると、電柱の影から、奇妙な気配を感じた。



 魔王、ニートを満喫す……


 続く…。

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