14 魔王、拡大解釈をする。
働く魔王に説教をするために笹塚にきたものの、当然発見できず…。やけ酒を飲もうと駅の近くの居酒屋を初体験することになった…。
……
魔王は、初めての居酒屋を満喫し、楽しく飲んだくれていた。
近くのテーブルでは、アニメの話をしている男たちがいる。ふと目をやると、その中の一人がロジータちゃんのTシャツを着ていた。
(ほう、良き信者がいるではないか。やはりこの笹塚にもロジータちゃんの素晴らしさを理解する者達はいるのだな…さすがロジータちゃんだ!)
どんな会話をしているか気になったので、魔王の魔法で聴覚の出力を微妙に調節して、オタク達の会話を盗聴した…。
なんと全員、ロジータちゃんの信者のようだ。しかも今日は急遽、新宿でロジータちゃん関連のイベントがあったらしく、その帰りらしい……。
(なんということだ!イベントがあったなんて、知らなかったぞ!くそぉ~、スマホさえ忘れてこなければ、公式の情報をチェック出来たのに……)
頭を抱えて激しく後悔する魔王。
(おのれぇ~……憎い…働く魔王が憎い!笹塚にいないし、可愛い勇者とイチャついてるし……)
そんな馬鹿なことを考えに気を取られていたら、そのオタクたちが酔っ払ったヤンキーに絡まれ始めた……。
「おいオタク、キモいTシャツ着てんじゃねぇよ!」
「い、いや、これはロジータちゃんの…」
「ロジータ?はぁ?知らねぇし!」
(愚かな……ロジータちゃんを知らぬとは…消すか…いや、ここは異世界。無用な争いは避けねばならぬ。それに、あと1時間くらいすると、『く⚪︎り屋のひとりごと』始まるし…信者には申し訳ないが、見殺しにせざるを得ない…許せ…)
魔王は、この争いに関わるのを止めようと思った瞬間、ヤンキーは信じられないことを言い放った…
「こんなブスのTシャツを着てるから、キモオタクソ童貞のままなんじゃねぇの?」
ブヂッ
その瞬間、魔王の中の何かがキレた…
魔王は静かに立ち上がると、音速を遙かに超える速度でヤンキーの背後に回り、二人の首筋に軽く「トン」と手を当てた。
「………んがっ!?」
その瞬間、ヤンキーたちはバタンと崩れ落ちた。あまりにも一瞬の出来事で、周囲の客も何が起こったのか分かっていない。
(愛しのロジータちゃんの前でなければ、今頃貴様らの首は胴体と永遠におさらばしていたぞ…ロジータちゃんに感謝しろ…そしてロジータちゃんのために課金しろ…!)
魔王は気絶したヤンキーたちを一瞥すると、オタクの耳元にそっと囁いた。
「信者のよしみだ……ロジータちゃんよ、永遠に…」
そう言い残すと、残ったレモンサワーを豪快に飲み干し、店員を呼ぶと、「釣りはいらなん」と言い残し、1,875円をテーブルに置き、会計を済ますと、颯爽と店を後にする魔王。
我ながら完璧な立ち振る舞いだったと悦に浸る。
店を出ると、速攻で自販機で水を買い、駅前のガードレールに腰掛けながら、水をガブ飲みした。レモンサワーの一気飲みが堪えたようだ……。
「いやぁ、しくじった…完全に飲み過ぎた。この状態で電車で帰るのは無理そうだ……どうしよう…しかたない。路地裏で瞬間移動魔法を使って帰るか。じゃないと『薬○のひとりごと』に間に合わん……」
そうひとりごとを言うと、都合の良さそうな路地裏を探そうと辺りを見渡した…。
しかしその時——ふと、物陰に不穏な気配を感じた。
「……何者だ?」
魔王は静かに気配を辿る。
やがて、大通り沿いの小さな塚に行き着いた。そこにはどことなく不吉な雰囲気が漂っている。
(……これは、ただの塚ではないな)
少し魔力を解放すると、薄暗い影が漂い始めた。
(ふむ、なるほど。ここは昔、処刑場だったのか。それで怨念が溜まっているのか。このまま放っておくと、いや既に……)
「やれやれ、全くどんなに素晴らしい世界も完璧という訳にはいかんな。笹塚の魔王は一体何をしておるんだ……よし。」
魔王は手をかざし、わずかに魔力を放出し、天への道標を作った。
すると、怨霊たちは徐々に光に包まれ、やがて静かに消えていった。
「これでしばらくは大丈夫だろう……はっ!!」
魔王の脳内に、電撃のような閃きが走った。
「そ、そうか……そうだったのか……!」
その瞬間、魔王は確信した。これは天啓だ。
「こ、これなら師匠も間違いなく納得するはずだ……ふっはっはっはっ!」
……
翌朝4時ーー
魔王は、寝ている師匠を叩き起こして、大声で演説を始めた。
「ここは我が城。故に杉並区は我が領土。故にアニメーターは我が領民。故に余はこの国を守らねばならぬ!」
朝っぱらから、訳の分からない屁理屈を捏ねだして、近所迷惑を始めた。
「故にこれより余は、国土防衛、つまり杉並区の防衛を行うのである!」
魔王は誇らしげに師匠へ宣言した。
「……つまり、自宅警備?」
冷めた目線で、鋭い一言を返す師匠。
「いや、故に国土防衛だ……!」
「故にが多いな……で、具体的には何をするの?」
「えっ…ま、毎日、見回りするとか……」
「それ、散歩でしょ?」
「いえ、見回りです……」
「じゃあ、どこを見回るの?」
「えっ、あー、いやー、その辺とか……?」
「だから散歩でしょ!!」
「………ねぇ、師匠。家賃の金額を増やすよ。」
苦し紛れで話をすり替えようとした。
「あれ?施しじゃないの?」
「あっ、ほ…、んー、や、家賃です…」
「あははっ!ついに認めたね!」
「ぐぬぬ……」
師匠は笑いながら、魔王の肩をポンと叩いた。
「冗談だよ。でも無駄遣いしちゃダメだよ?それと、恥ずかしいから他所で『防衛』とか『警備』とか言わないでね。」
「は、はぃ……」
魔王、拡大解釈失敗……
続く…。