表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/31

10 魔王、未来を見通す

 これは魔王が課金…いやソシャゲを始めた日の夜のことである。


 皆さん、お気づきだろうか?なぜ魔王が瞬時に課金できたのか?

 彼は、この世界の住人ではないため、当然、クレジットカードをもっていない。ではなぜ課金できたのか?

 通常、クレジットカードか課金カードがなければ課金できない。この当時、魔王はそのどちらももっていないし、課金カードに関しては、その存在すら知らない。


 では何故か?


 魔王はバカだが、その身体能力は異常に高く、某“オラワクワクすっぞ”系バトル漫画の主人公の、だいたい12分の1くらいの力はある。


 魔王は、師匠から課金の存在を知った時、即座に課金画面を開いた。そしてクレジットカードなるものの情報を入力しなければならないことを知る。

 魔王は、一日中リセマラ&爆死を繰り返していたことで精神がナノレベルまですり減ってしまっていたため、既に倫理観が崩壊していた。


 魔王は、この無間地獄から抜け出したい一心で、条件反射のように師匠の財布からクレジットカードを抜き取り、情報を入力してから即座に財布に戻した。この間わずか0.000001秒。人間の知覚をはるかに超える速度で一連の動作を終えたため、師匠はまったく気づかなかった。ここに至って魔王は勝利を確信した……しかしここで不測事態が発生した。


(な、なぜ課金ができない……ぬっ!?)


 暗証番号を入力しなければならなかったのである。


 この絶体絶命のピンチで魔王は、更なる能力を発揮する。一見バカにみえる魔王だが、実はIQ200超といわれる超高性能な頭脳の持ち主である。

 その頭脳をフル回転させ、これまでの師匠との全てのやりとりから暗証番号として最も可能性の高い4桁の数値を導き出し、見事に課金に成功したのである。


 以上のように魔王が課金した舞台裏には、知られざる魔王の驚異の身体能力を最大限に駆使した想像を絶する奮闘が隠されていたのである。


 ……


 しかし当然、師匠も数分後に「なぜ魔王は課金できたのか」という疑問を生じたので、魔王に尋ねてみた。

 その際、魔王はどういう訳か褒められたと勘違いして、自慢げに上記の内容を語ってしまった。


「うわぁ……マジかよ、信じられない。魔王って、最低だね……」

 師匠は、怒りを通り越してドン引きしてしまった。


(マズい…このままだと捨てられる)


 その瞬間、危機的状況を本能で察知した魔王の脳は、第六感をフル稼働させ、自分がこのままバカを貫いた場合の未来を“予知映像”として見せてきた……


「ん?……この感覚は、未来予知……なっ!!??」

 それはみすぼらしい姿のホームレスとして公園のベンチで幸せそうに雑草を食べている悲惨な自身の姿だった……


(ひひぃぃぃぃ!!!な、なぜ雑草をそんなに幸せそうに……その間に一体、何が!?)

 あまりの衝撃的な未来に、魔王は全身全霊で恐怖に震えた。


 ガタガタ


「あれ?地震……?結構大きいなぁ」

 師匠は、部屋の揺れにキョロキョロしている。


 魔王の震えは、震度3くらいだった。


 直前にトイレに行っていなければ、善福寺川を氾濫させるレベルで盛大に粗相していたかもしれない。


(ぜ、絶対に嫌だ!!お、おのれぇ……かくなる上は……)


 かつて「魔界の稲妻」とまで賞されたその機敏さで、音速を遥かに超える速さで、師匠の前に座ると、涙ながらに土下座した。


「大変申し訳ございませんでした! まだこの世界に来て日が浅く、魔王気分が抜けておりませんでした。お金はしっかり返します。もう二度としませんので、これからも弟子として養ってください!!『やった!野菊だ、ごちそうだぁ』なんて未来に行きたくはありません……ううっ」

 魔王の子として生を受けてから500年。常に誰かを支配してきた人生であり、今の今まで他者に頭を下げるなどということは、微塵も考えていなかった。

 しかし500年目にして初めて、頭を下げた魔王。しかも土下座。しかし魔王に後悔はなかった。


 かつて北の果ての凍てつく大地で「星をも凍らせる」と恐れられた氷の女王と対峙した時でさえ、眉一つ動かさなかった魔王が、一切の躊躇なく土下座をしたのである。彼が見た未来は、それほどに恐ろしかったのである。


(さ、さすがわが師匠……神話級の魔獣を遥かに超える何かを持っておるわい……)


 本当に恐ろしいのは、自身の生活能力のなさなのだが、魔王家のモットーは、「媚びぬ、退かぬ、顧みぬ」なのでそのことに気づく日は、永遠に訪れない。


「もういいよ。確かに異世界人だし、『こっちの世界の倫理観が分からない』って設定は定番だからね。でも以後は気を付けてね!!」

 師匠は、あっさり魔王を許した。確かに最初は魔王の蛮行に腹を立てていたが、転移者の非常識は異世界ものあるあるである。

 師匠は、クレカを勝手に使われたことに、最初こそご立腹だったが、定番ネタを体験できたので、少しご機嫌気味だった。


「おお、何たる寛容なる精神。さすが師匠!!」

 魔王の中で、師匠への評価がさらに3ポイント上昇した。


「まあ、君のお金でやる分には、とやかく言わないけど……そんなに課金したいなら、コンビニとかで課金カード買えばいいよ」


「おお、なんと!迷える子羊たる余に、助け船まで出してくれるとは……師匠、お主は一体どこまで聖人なのだ!?」

 さらに3ポイント追加された。


「して、コンビニとは何ぞや?」


「そこからかよ……」


 そしてこの後、魔王は、今後の生活のほぼ全てを担うことになる重要な業態へ突入することになる……



 魔王、師匠に6ポイント追加……が、ポイントに意味は無い……



 続く…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ