0 魔王、どうしてこうなった……
このエピソードは、作者が物語を結構書いた後に思いついたが、どこに入れていいか分からなくなったので、とりあえず0話としてぶち込んだものです。バカですみません……
「余は……なんてことをしてしまったのだ……」
魔王ヴァルナクスは、珍しく後悔していた。
彼はいつものように爆死して、スマホを素粒子レベルに分解してしまった。
だが今回は、何を血迷ったのか、テレビやパソコンまで素粒子レベルにしてしまった。これではアニメで気を紛らわせることもできない。
本来であれば、修復魔法を使えばすぐに元通りになる。
修復魔法にはマルチタスク&オート機能が備わっており、全ての機器を正確に再生してくれる。
しかし、これだけの機器を完全に修復するには、魔王の膨大な魔力をもってしても……約3時間かかる。
問題はそこだ。
魔王は、その3時間をどうやって過ごせばいいのか分からないのである。
普段なら、アニメを観ていれば気づけば終わっている。だが今回は、それができない。
「はてさて、どう過ごしたものかなぁ~……」
魔王はニートなので、時間に余裕しかない。そのため、暇つぶしについてものんびり考え始めた。
――2分後。
「はぁはぁ……やばい!スマホ触りたい……」
わずか2分で、深刻な禁断症状が現れた。
「ダメだ……思考がまとまらない……右手が……震えてきた……!」
パンッ! パンッ! パンッ!
あまりに強烈な禁断症状のせいで、手が極音速で震え始め、周囲に空気を裂くような音が響き渡る。
「そ、そうだ! ストレスには甘い物だ! よし、エクレアを食べよう!」
魔王は、テーブルの上に置いてあった昨日のコンビニエクレアに手を伸ばした。
パンッ!!
「しまった!」
震える右手で掴もうとしたため、エクレアは空中へ吹っ飛んだ――
しかし、それは女神の祝福だった。
天を仰いで嘆く魔王の口に、奇跡的にエクレアが落ちてきたのである。
バグッ!! ハムハムハム!!
「おおおおおおおおおおおおおおおお!! 糖分きくぅ~~~!!」
魔王はエクレアの糖分により、一時的に正気を取り戻した!
そして、ひらめいた。
「そうかっ! アニメが観れないのなら、漫画を読めばよいではないか!!」
わりと普通なことに、全力で気づいた魔王は、大人買いして読んでいなかった『デス○ート』を手に取った。
「ふふふ……なかなかスリリングで面白いな! これなら3時間なんてあっという間だ!」
意気揚々と読み始めた――
――5分後。
「はぁはぁ……ダメだ……台詞が多すぎる……小難しいことばかり言ってる……。今の脳じゃ処理しきれん……ま、まずい……禁断症状がっ……!!」
焦ったが、さすが魔王。リスクマネジメントは完璧だった。
ハムハムハム!!
昨日ついでに買っていたジャンボシュークリームを丸呑みする。
「ふぃ~……やっぱ糖分、落ち着くわぁ~……」
だが大量の糖分で血糖値が乱高下したため、魔王は一時トランス状態に突入した。
「はっ!! いかん、シュークリームがあと2個しかない!」
我に返った魔王は、このままでは後数分で糖分が切れてしまい、それが致命傷になることを悟る。
「甘い物の確保が、今は最優先事項だッ!!」
こうして魔王は、近所のコンビニへとダッシュし、大量のスイーツを購入。
その後、3分おきにトランス状態と禁断症状を繰り返しながら、修復完了を待ち続けた。
――3時間後。
シュークリーム、エクレア、どら焼き、プリン……
食べたスイーツの合計、54個。
限界を迎えかけたそのとき――
「スマホの修復が完了しました」
部屋に響く、修復魔法の完了通知。
「ああ……や、やっと戻ってきてくれたんだね……」
スマホを手にした魔王の頬には、自然と涙が流れていた。
そして、その涙のラインには、吹き出物が無数できていた。
「もう二度とこんなことはしない! 君を一生離さない! 君を守ることこそが、余の使命だ!!」
強く抱きしめすぎて液晶が破損したが、それはこのストーリーと同じくらい、もうどうでもよかった。
魔王は、その500年の人生の中で、これほど――
愛しさと切なさと心強さを感じたことはなかった。
――そして、1週間後。
「やべぇ……またやっちまった……」
魔王の前に、再び3時間の試練が立ちはだかったのである。
「どうして……こんなことになってしまったんだ……」
続く……。