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43 探していたのに

二話のつもりが三話になったので一気に投稿します。本日三話同時投稿です。

一話目。


 つばの広い白の帽子を被り、金髪を白いドレスの背に靡かせて、ステファニーは緩やかな坂を登っていた。付きそう侍女が白い日傘を差し、今までにない数の護衛を引き連れて目的地へと進む。

 馬車で移動できればいいのだが、目的地に置き場所がないので、馬車は坂の下で待機だ。


 白い肌を汗が伝う。真夏に坂を登るのは、緩やかだとしてもきつい。

 幸い乗馬を嗜んでいるので運動不足ではないが、炎天下の坂道というだけで気力を使う。


(どうして高い所にあるのかしら、こういうのって)


 坂の上にある目的地は、教会だ。

 リスクアール家が、ステファニーが課金…間違えた。多額の寄付している教会。


 少し離れた位置からでも子供達の笑い声が聞こえた。教会は教会だが、身寄りのない子供達のための孤児院としても機能している。

 勿論教会の人員だけでは不足なので、同じく身寄りのない女達…訳あって行き場のない女性が身を寄せて、子供達の世話や内職を手伝っている。

 駆け込み寺。女性のための相談施設。そういった場所を新しく作るより、教会と協力し合った方が駆け込む側も頼りやすいと判断してのことだった。


(真新しくできた施設の門を叩くのは、尻込みするもの。元からあった場を整える方が手間もないし、駆け込みやすいわ)


 追い詰められた人間は、神に縋る生き物なので。

 坂の上に辿り着けば、外で遊んでいた子供達がステファニーに気付いた。ステファニー様ステファニー様と跳ねて喜ぶ様子は健気で可愛い。土産の絵本やお菓子を護衛に配らせて、ステファニーは更に奥へと進んだ。


 教会の奥にある、共同墓地。

 更にそこから奥にある、侯爵家の霊廟に。


 共同墓地を通り抜け、立派な柵で囲われた侯爵家の霊廟は、貴族の眠りを守る墓守がいる。その墓守に鍵を開けて貰い、親族のステファニーだけが中に入った。

 大勢の護衛を連れ歩いても、霊廟には親族と墓守しか入れない。ステファニーは供えるための花束を抱え、侍女に帽子を預けて墓守の先導で通い慣れた道を進んだ。


 去年は、侯爵…父と訪れた。

 その前も、もっと前も…ステファニーが父と完全に二人になるのは、生母の墓前でだけだった。

 それが今年は、はじめて一人で来た。


「お久しぶりですお母様」


 硬質的でありながら上品な墓前に、抱えた花束を置く。


「お父様は、体調を崩されて来ていませんの。でも時期はずれますけれど、必ずお顔を見せに来られますわ。あの方、シュテインのお父様らしく真面目ですので」


 ステファニーが語り出せば、墓守はそっと姿を消した。声の届かぬ距離まで下がり、完全に姿が見えなくなる。いつもそうやって、家族の語らいを覗き見ないできた墓守だ。


「今年は例年以上に騒がしく、色々ありましたわ…貴族としての振るまいがまだまだ未熟だと思い知るばかりです。これでもだいぶ取り繕っているのですが、かつての感覚はなかなか抜けませんわぁ…」


 何せ、まだまだ前世で生き抜いた年月には届かない。

 裾が汚れないよう気を付けてしゃがみ込み、膝に肘を突いて頬を乗せる。ご令嬢が絶対しない行儀の悪い態度だ。


「それで、ご存じかもしれませんけれど、私公爵家の五男坊を伴侶と決めましたの」


 まだ親の決定を聞いていないが、ステファニーの中では決定事項だ。

 決定事項だが。

 頬杖を突いたまま、ステファニーは行儀悪くあからさまに大きく息を吐きだした。


 あーぁ。


()()()()いい男、探していたのにねぇ?」


 侯爵家を継がないために。

 侯爵家に()()()()()()()を捜していたのに。

 この人と定めた人が、これ以上なく侯爵家にとって有益な男だとは、なんとも皮肉なことだ。


(私が望む条件に合致する男、高位貴族にはいないと思っていたんだけどなぁ)


 そもそも高位貴族ほど婚約者が決まるのも早いし、自分を律するのが得意だ。ステファニーが求める性欲の強い男はいるかもしれないが、婚約者のいる男はお呼びではない。

 婚約者が決まっておらず、ステファニーが望む性欲を併せ持ち、それでいてステファニーを愛する男など、下位貴族にいてくれればラッキーなくらい希少な存在だと思っていた。


(せーっかく、いつまでたっても相手を決めない放蕩者の烙印を押されて跡取りの座を追われる計画がぱぁね。ううん、相手は真剣に探していたのだけれど)


 探してはいたが、なんだかんだ理由を付けて他に回していたのも事実だ。

 おかげさまで令嬢達に感謝される流れとなったが、ステファニーは自分が結婚しないために、令息達に難癖を付けて回っていたに過ぎない。それが上手くかみ合って令嬢達に令息を横流しする結果となったが、独断と偏見で篩にかけるのはとっても失礼なことだ。


(その辺りもっと怒られると思ったけれど、案外受け入れられていたのよね…まさかあんなに初心な子ばかりだとは思わなかったわ)


 気付いてしまえば放っておけなかったので、ここは結果オーライというヤツだ。


 ステファニーは、自分にとってのいい男が侯爵家にとっていい男にならないと自覚していた。

 それでも強行したのは、自分の性欲を制御するつもりがなかったから。制御できたら前世で恋人に別れを告げられていない。


 しかし貴族として生まれ跡継ぎとして生きるなら、愛人を抱えて欲の処理をするのが一番簡単なことだった。

 ステファニーは蒸留酒の存在を確立させ、侯爵家に多大な利益を約束している。その功績から自由に相手を選ぶ権利をぶんどったが、恐らくステファニーが下位貴族を伴侶と定めたならば、侯爵は愛人として抱えることを提案するだろう。シュテインもそうなるのがわかっているので、ステファニーに大人しく父の決めた相手にしろと言っていたのだ。自分で探さず、父に任せろと。


 むしろステファニーは、父がそう言ってくれるのを期待していた。

 出奔の理由になるので。


(たった一人が認められないなら愛の大逃走。手を取り合って地の果てまでも――を決行するつもりが、できなくなったわ)


 何せ選んだのが公爵家の五男坊なので。

 血筋はリスクアール侯爵家より上なので、文句があるはずがない。

 しかもヨーゼフはマニュアル人間。領地経営のノウハウも、マニュアル片手に吸収してとっても有能な補佐役になる未来が見える。

 喜ばしいことだが、ステファニーにとっては大変よろしくない。


「決めたのは私だけど、どうしたものかしらねぇ…お母様はどう思われます?」


 返事が来るわけないとわかっていながら問いかけて、ステファニーは苦笑を浮かべた口元をゆっくり撫でた。


「どうしたら、正当な血筋(シュテイン)が跡継ぎになれるかしら」


 リスクアール侯爵家長子、ステファニー・リスクアール。

 長女として、侯爵家の跡継ぎである彼女は。


 ――酒に酔った実兄に乱暴された母が身籠もった、罪の証であった。



チラチラ出ていた亡くなった叔父。

チラチラ出ていたステファニーの不穏な部分。


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