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29 楽しい時間からの


 腹拵えを済ませて、リスクアール姉弟は今年初参加の露天を見て回った。

 水祭りから恋人達の花祭りに変化しただけあって、露天に並ぶ雑貨は恋愛に関連する物が多かった。


 想い人をイメージした配色が選べるブレスレット。一つのモチーフが二つに分かれるペンダント。色ガラスの小物に、恋愛成就のお守り。


(うーん、前世で廃れた文化と最新の文化が混ざっている気がする)


 人気なのは想い人をイメージした配色を選べるブレスレット。前世の推し活、概念グッズの考え方だ。流行るのも頷ける。やはり世界が違っても、推しの配色は身につけたくなるようだ。推しと好きな人は厳密に言えば別物だが、広い意味で、好きな人の色は身につけたいよね。


「キラキラしたブレスレットを付けている子が多いなと思ってはいたけれど、こういうことだったのね」


 思ったより流行っているようで、男女共にブレスレットが光っている。

 ラストダンスを踊るとき、互いの手に互いの配色があれば勝ち確かもしれない。この世界、庶民も貴族も関係なくカラフルだし。

 リスクアール侯爵家の姉弟だって、同じ金髪だが目の色は違う。


 ということで。


「シュテイン、金と赤のブレスレットは如何?」

「いりません」

「私は金と紫にしようかしら。それとも…んふふ、匂わせちゃおうかな~」

「香りはしませんが?」

「そういうことじゃないのよ~」


 ここでお初の露天は最後だ。

 見回りも終わったし、祭り本番に入る前に、エンテ達とおしゃべりで花を咲かせに行きたい。


「私達、今から姦しくするけど、シュテインはどうする?」

「姉様が姦しくないときなどありませんでしたが…役員達に問題がないか確認しに行きます。姉様はそのまま、祭りを楽しんでください」

「あらそう? 問題があったら声を掛けてね」

「はい」

「じゃ、手を出して」

「はい?」

「えいっ」


 シュテインが差し出す前に掴んだ左手に、無理矢理ブレスレットを取り付ける。

 金と赤の配色の、ステファニー概念のブレスレット。


「んふふ、私を防波堤にしてよくってよ~」


 ぎゅっと眉間に皺を寄せたシュテインだが、文句をグッと呑み込んだ。


 開放的なのは客だけではない。

 役員だってテンションが上がって普段しない行動に出る者もいるだろう。

 そう、これを機にお近付きに…なんて人、どこにでもいる。

 シュテインの手で輝くブレスレットは、そういう人達への牽制になるだろう。


 配色があからさまに(ステファニー)だが、シュテインがステファニーに可愛がられているのは周知の事実。無理強いする人にはお仕置きしちゃうぞぉ~っなんて副音声が聞こえてきそうだ。

 そう、これが匂わせ。

 親しみやすいステファニーだが、やると言ったらやる。

 余程のお馬鹿でない限り、この牽制は効くだろう。


「…ありがとうございます」

「んふふ。じゃあ後は任せたわ」


 自分の手に金色と紫のブレスレットを装着して、ステファニーはひらひら手を振った。


 ちなみに後ろに控えていた使用人がステファニーの代わりに支払った。出店もそうだった。貴族なので、自分で財布を持たないのだ。財布を持たないで買い物をするので、実は背徳感でドキドキしている。

 おわかりだろうか。金があるとわかっていても、手元に支払手段のない状態で買い物をする恐怖。

 電子支払とは違う。あれだって携帯が財布代わりだ。今のステファニーは携帯すら手元にない状態での買い物。

 金額が多い少ない関係なく、心ともない恐怖でソワソワするステファニーだった。


(屋敷に商人を呼んで買い物する方がまだマシだわ。我が家は財布)


 侯爵家という名のでっかい財布である。


(さーて、魂に残っている肝の小さい庶民の感覚はどうしようもないとして…エンテ達はどこかしら)


 祭り本番に入る前に話そうと約束したが、場所はちゃんと決めていなかった。

 取り敢えず宿屋に戻ればエンテはいるだろう。そう考えて、ステファニーは宿屋に引き返した。

 出店や露天から遠ざかり、日常に近い通りを歩く。それでも祭りで行き交う人は多く、日常との相違点が多々見付かる。道の端に積まれた樽なんかもそうだ。


 通りのあちこちには、水の入った樽が多く積まれている。

 広場周辺が一番多いが、広場で水がなくなったときの補充用が積まれているのだ。ひっきりなしに使用するので、この時期は使用前と使用後の樽が通る道が敷かれている。井戸で補充するよりルートを敷いた方が早くて多く運べるのだ。


 ポンプ式の水道なら着手できる気がするが、細やかな調査や計算に自信がないので専門家を探すことからはじめるべきだ。蒸留酒を造るときだって、一人で着手せず協力者を作って専門家に話をまとめて貰った。


(酒造のプロはあちこちにいたけど、設計や水質のプロってどこにいるかしら)


 残念ながらアテがない。地道に探していこう。

 水汲みが容易くなれば、祭りだけでなく日常生活の質が安定する。侯爵だって説得すれば許可してくれるだろう。


(婿捜しの方が頓挫するかもしれないけれど、わかってくれるわよね)


 だってステファニーは、領地のために、侯爵家のために行動しているのだから。


「…あら?」


 祭りを楽しむ人々を流し見ていたステファニーは、その中に目当ての少女が紛れているのに気付いた。

 人通りを挟んだ反対側で、エンテが見知らぬ男と話している。


(後ろ姿しか見えないけれど、あれがエンテの想い人かしら。帽子を被っているし、人相がよくわからないわね…あら、でも、待って?)


 何やら動きが不穏だ。エンテは必死に首を振っている。

 だが男はエンテの腕を掴み、そのまま通りから外れた路地裏にエンテを引きずり込む。

 ステファニーの眉が上がった。

 そんなステファニーが指示を出すより早く、護衛の一人が動き出す。他の使用人も近くにいた警備の者に声を掛けた。残った護衛がステファニーを背に庇い様子を窺う。


 そのときだ。

 エンテが連れ去られた道から、こぶし大の物が通りに放り投げられ――…。


 パァンッ!


 爆発音に悲鳴が上がる。


(は!? 爆弾!? …違う、何あれ?)


 しかし飛び散ったのは火薬ではなく、水だった。飛沫が地面を黒く染め、破裂した何かがしぼんで落ちている。


 水風船だ。


 材質はゴムではなく、動物の腸を膨らませた物。限界まで水を入れて膨らませ、前世と違って整備されていない小石だらけの地面に投げつけた。

 恐らく先程の破裂音は、そうして響いたものだろう。


 だが、何故。


 戸惑ったステファニーを横目に、歓声が上がる。

 歓声を上げた人々は――我先にと水風船を取り出して隣人にぶつけ出した。

 まるで祭りが始まったと言わんばかりに突然、彼らは水をかけ出した。


(え、ええええー!?)


フラグが! 立派なフラグが回収された!!

ちなみに祭りの主催は侯爵家ではないです。なので挨拶回りも軽く済ませる。


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