表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/45

28 一方その頃

ヨーゼフ視点です。


 ヨーゼフは迷っていた。


「ここはどこだろう…」


 割りと本気で迷子だった。


 ステファニーから手紙で「うちくる?」されたヨーゼフは、大慌てで有休を取って飛び出した。仕事を休むか休まないか、その辺りの自己判断で悩むだろうと思っていたステファニーだが、ヨーゼフは悩まなかった。何故なら。


教本(恋愛小説)のヒーロー達は、ヒロインからの求めには全力で応えていた)


 これである。


 別にステファニーは「ヨーゼフ様に来て欲しいなぁ~」と書いたわけではない。しかし領地へ呼ばれるということは、会ってもいいと思われている、ということ。

 つまり接触のお許しを得て、仕事があるからと見送るのは愚策だろう。

 会ってもいいとステファニーが思ってくれた。ならば全力で乗らねばならない。


(そうだろう、教本(恋愛小説)


 妹のパルマがいたら、成長していないといい感じの棒で叩かれそうだ。

 確実に、教本に頼り切るなと怒られる。


 だが言い訳させて貰えば、ヨーゼフだってステファニーに会いたくて会いたくて仕方がなかったから、しようがないのだ。

 グッと我慢している所を誘惑されて、待てを継続できるほどヨーゼフはいい子ではない。


(ステファニーに会いたい。会って、祝福を…)


 自分など指先で転がされる男の一人でしかないが、許しを得たなら顔を見て、誕生日に祝福の言葉を告げたかった。


 手紙のやりとりをして、ヨーゼフはステファニーと距離が近付いていると実感している。

 それがヨーゼフの望む形とは限らないが、手紙を重ねるたびにステファニーはどんどん砕けていく。遠慮がなくなり、今回のような誘惑も混ぜてくる。

 ヨーゼフの言動を指摘することが多いが、基本的にステファニーは小悪魔だ。相手の反応を楽しむ愉快犯で、親しくなれば親しくなるほど弄られる。弟のシュテインがいい例だと思う。


(実弟とはいえ、ステファニーから甘えられているシュテイン殿が羨ましい)


 ――甘えているのだ、ステファニーは。


 どこまで許されるかを試して、試して。繰り返し試して。

 合格した者だけが、彼女の甘えた姿を見ることができる。

 ヨーゼフの知る限り、許されているのは弟のシュテインだけ。

 ステファニーは分け隔て無く慈悲深いが、全てを許しているのはシュテインだけ。

 つまり。


(俺の最大のライバルは、シュテイン殿…!)


 わかっていたが難関である。

 実弟を巻き込み、味方にしなければならないが、会う度に頭を抱えられていたのでどう味方に引き込めばいいのかわからない。賄賂も失敗してしまった。

 あの姉弟は周囲を巻き込みながら二人だけで完結してしまいそうなので、ヨーゼフは必死に食い付くしかない。


 だから餌をちらつかせられたら、躊躇ってなどいられない。


 覚悟を決めて飛び出したのだが、ヨーゼフは悉く運がなかった。

 配送予定だったプレゼントを抱えて飛び出すも、運悪く夏の長雨に引っかかり立ち往生。雨上がりを待てば予定日数で辿り着けない。祭りがあるらしく人の出入りも多く、雨天の混雑を避けて関所は一日で通れる人数を制限している。ならば誰よりも早く移動しなくては通れないかもしれない。

 どうすべきか教本に問いかけて、ヒロインに会うため馬で駆けるヒーローが多かったのを思い出す。なるほど真理、とヨーゼフも馬に飛び乗った。

 そこまではよかったのだが、気が付けば何故か街道ではなく山道を走っていた。


 何故。

 ほぼ一本道だったはずなのに、何故。


 正解は、小雨で案内表示を見逃しただけ。

 しかし迷ったヨーゼフは見逃した自覚がないので、どうすべきかと首を捻っていた。


「…迷子はその場で動かず助けを待つべきだが、俺がここにいることを知る人はいないからな…幸い一本道だし引き返すか…」


 村を出て、進めば関所に突き当たるはずだった。その気配が一向にないので、流石に迷子と気付いたヨーゼフは馬の脚を止める。

 地図を見れば、森の中を突き進めば辿り着くようになってはいる。しかし整備されていない道。道なき道だ。地図で見れば繋がっているだけ。


(無理をして進めば事故の元。慣れない場所で慣れないことをするべきではない。冒険するときは選べと兄様達は言っていた。今ではないな)


 無理をしてステファニーへのプレゼントが破損したら嫌だったので、ヨーゼフは馬を反転させた。

 引き返し、ふと気付く。


 ――木々の隙間から覗く、地面に転がる人の足。


「――おい! 大丈夫か!?」


 即座に馬から飛び降りて、木々を掻い潜って進む。

 進みながら周囲を確認するが、人の気配はない。倒れている誰かの気配も希薄で、意識を失っているのがわかる。


 ヨーゼフが辿り着いた先では、男が一人うつ伏せに倒れていた。

 壮年の男は身ぐるみを剥がされて、身元のわかる物を身につけていない。粗末なシャツとズボンだけが残されて、靴すらも奪われている。

 幸いなことに顔色は悪いが、呼吸はしている。しかし顔の半分が泥に埋まり、全身が濡れそぼっていることから長時間放置されていたとわかる。

 このまま放置するのは危険だ。


(外傷は…見当たらない。血が流れた様子はないが、持病か? しかしこの有様は明らかに強盗に遭っている。頭部が腫れている…後ろから殴られて、倒れた所を身ぐるみ剥がされたか)


 頭部の損傷ならば、動かすのは危険だ。しかし小雨とはいえ雨が降り続けている中で、長時間濡れて冷やされた男を放置するわけにも行かない。

 つれて村まで引き返すべきだ。しかし、馬で揺らすわけにはいかない。

 せめて多く揺れないように、男を背負う。ヨーゼフは冷え切った男の体温を背中に感じながら、なるべく揺らさないように来た道を引き返した。


 その足元に落ちた小さなビーズ。

 それは泥に紛れて、すぐ見えなくなった。



いきなり不穏要素がこんにちは。

教本片手に考えているけれど、ちゃんと自分自身の会いたいという気持ちを優先している。


面白いと思ったら評価かスタンプをぽちっとなよろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ええー落としたビーズが誕プレだったとか言う…? それはあまりにヨーゼフが不憫過ぎる…(;_;) でもでもステファニー様なら、会いたい気持ちを抑えて雨の中で人命救助に尽力した騎士道精神を愛でてご褒美をく…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ