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26 誕生日プレゼント


 祭り当日。

 その日は連日の長雨など嘘のような晴天だった。

 そしてチラリと話題に出したが、それはステファニーの誕生日当日だった。


「お生誕おめでとうございます!」


 なので、祭り当日に街に出たステファニーは、領民達に満面の笑顔で祝福の言葉をかけられた。


「ありがとう! 嬉しいわ」

(格式張った知らない人に祝われるパーティーと、顔見知りの領民達に笑顔で祝われるのは違うけれど、これはこれで困るわ~!)


 笑顔で受け答えしながら、内心笑顔が引きつるステファニー。

 しかし色々と思う所はあるが、誕生日の朝はやはり特別だった。


 起きてすぐ山積みになっているプレゼントの山を確認して、クリスマスじゃないけどクリスマスの気分を味わったステファニーは頬を染めてプレゼント開封を行った。

 普段は意味深に微笑み相手を手玉に取るような言動をするお嬢様の幼気な姿を、使用人達は微笑ましそうに眺めていた。


 父親の侯爵からは新しいワイングラス。義母からは宝石の小物入れ。

 親友のアーシラとティルからは、それぞれ七色小瓶のインクセットと護身用七つ道具をプレゼントされた。


 イヤ最後。いきなり過激。

 思わず笑いが漏れてしまったがガチで過激なプレゼントだった。


 その他、多くはメッセージカードや領地の酒。つまみなど。アクセサリーやドレスを贈ってくる令息はちょっと要注意。

 プレゼントも山だが、メッセージカードも山だった。プレゼントを贈るほどではないがお祝いの言葉くらいなら…なんて距離感のお友達はたくさんいる。お友達じゃないがもっとお近付きになりたいという人達もいるので、カードはいつも三山くらい積まれていた。

 今年も大盛況。これが社交を頑張った成果。

 目に見えた影響力の証明だったので、ステファニーはとっても満足げだった。


 そして水祭り…いや、花祭り当日。

 ステファニーは参加者の一人として胸元にひまわりの花を挿し、シュテインと一緒に街を歩いていた。

 ちなみにシュテインの胸元に花はない。

 たとえ領地の祭りだろうと、ずぶ濡れになりたくないという強い意志を感じた。


(水も滴るいい男になるのは間違いないのに、勿体ないわね)


 普段眼鏡をかけてきっちりしている男性が、ずぶ濡れになって乱れた髪を掻き上げ、顔を顰めながら眼鏡を外す姿は一部の層に突き刺さること間違いなしだと思うのだが…。

 それはそれで若い娘の視線を独り占めしてしまうので、テロかもしれない。


(これ以上釣書が増えても対処しきれないし、仕方がないわね)


 山と積まれた釣書を見て愕然とするシュテインの顔を思い出し、ステファニーはそっと想像上の水も滴るいい男を封印した。


 そんなしょうもないことを考えながら祭りで賑わう大通りを抜けて、目的地へと辿り着く。楽しげな音楽からと遠ざかり、ステファニーは大きな扉を開けた。


「こんにちは。女将さんはいるかしら」

「まあステファニー様! ご無沙汰しております!」


 店の奥から飛び出して来た恰幅の良い女性が、ステファニーを見て目を丸くする。俊敏な動作で近寄ってきたのは、この街一番の宿屋の女将だ。

 宿屋には既に客がいて、胸元に花を飾っていた。祭りに参加するために遠方から来た観光客だろう。

 何人かはすでに出店や露天を巡ったのか、食べ物や似たようなアクセサリーを腕に着け、クスクス楽しそうに笑っている。

 祭りの時期だけでなく、侯爵家の領地は客人が多い。ワインの買い付けで来る者もいれば、栄えている領地なので職を求めて流れてくる者もいる。その中でも裕福層が宿泊するグレードの宿がここだ。


「急にごめんなさいね。優待室は空いているかしら?」

「優待室ですか? 先日の雨の影響か、今年は客入りが左程多くもなかったので、空いていますが…」

「よかったわ。一室空けておいて貰える?」

「ええ、構いませんが…」


 不思議そうな女将は深く問わなかったが、ステファニーの横でシュテインが苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


「…姉様がそこまで気を回すだなんて…随分と気にかけるのですね」

「あらぁ、万が一宿無しになったら可哀想だと思ってのことよ? 別に我が家に泊めてもいいのだけれど…」

「何の関わりもない赤の他人を泊めていらぬ噂の的になるのはごめんです」

「ほらぁ、嫌がるじゃないの」


 んふふ、と笑いながらシュテインをつつく。シュテインは嫌そうな顔をしてそっぽを向いたが、反論はしなかった。

 仲のよい姉弟のやりとりを見ながら、宿屋の女将は小さく首を傾げていた。


 今朝、プレゼントの開封をしているステファニーを見ていたシュテインがふと気付いた。

 それは、あれほどマメに手紙を出す公爵令息、ヨーゼフからプレゼントが届いていない。


 それはおかしい。

 ストーカー一歩手前まで行った男が、ステファニーの誕生日情報も入手済みの男が、ステファニーの誕生日をスルーするなどありえない。


 そこで思い至る、馬車の中でステファニーが書いた手紙。

 その日のうちに、宿屋に到着次第出された手紙。逆算するとシュテイン達が領地に辿り着いたあたりで相手に届いただろう手紙。それが一体誰に向けたものだったのか。

 気付いてすぐステファニーに確認を取ったシュテインは頭を抱えた。


「公爵令息からのプレゼントが届いていないようですが」

「ああ、それならご本人が直接届けるとお手紙が届いていたわ」

「直接!?」

「そろそろご褒美を上げないと、って思って」

「やはりあのときの手紙か!」

「だけど私は、誕生日は領地にいるけれど、来る? って聞いただけよ。決めるのはヨーゼフ様。お仕事の調整も、間に合うかどうかの逆算も、自分で考えないとでしょう? だって私、おいでって言ったわけじゃないもの」


 マニュアルあってのヨーゼフは、きっと困っただろう。マニュアルに、慕う人の誕生日のため仕事を休むなんて載っていないだろうし。

 しかしその後届いた、慌てて書いてちょっと歪んだ文字の手紙から、彼が本日到着を目指して飛び出した様子が窺えた。

 ステファニーに振り回されてテンパっているヨーゼフを思えば、とても愉快。


 しかし思った以上に大慌てのようだし、きっと宿のことなど考えていないだろうから、こうして宿の確保に動いているステファニーだ。

 侯爵家に泊めるのも考えたが、求婚している男を泊めるのは了承したみたいでよろしくない。公爵令息だが、騎士でもあるので質のよい宿屋を取ることにした。


 ちなみに、夏の長雨の影響で、今日中に領地に辿り着けるかは不明である。

 ヨーゼフだけでなく、いくつかの行商人も領地入りが間に合わず、今回の祭りは露天が少し寂しいことになりそうだ。


(商人はそういうのも慣れっこだけど、きっと慣れないヨーゼフ様はアクシデントにオロオロしているのでしょうね)


 なんかもう、素直に振り回されるのでかわいそかわいく思えてきた。


(これが、馬鹿な子ほど可愛いって感情かしら)


 親心っぽいのを覚えたステファニーだった。



本来なら使用人に任せることだけど、祭りに参加するついでに領民達の様子を確認したかったので自ら予約を取りに言ったステファニー。

領民達と距離が近い。何故なら領民達は、お嬢様が自分たちのために一肌脱いでくれるお人だとわかっているから。

ちなみに護衛はちゃんと居ます。ちょっと離れているけれどいます。

ちなみにステファニー、領地の貴族はつまみ食いしたが領民はつまみ食いしていない。


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