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21 手紙

今回、手紙のやりとりだけになります。


親愛なるステファニーへ


手紙を出すのが遅れてすまない。

君が手紙でのやりとりを許可してくれたというのになかなか手紙が出せず、呆れさせてしまっただろうか。

だがいざ手紙を書こうとして、喜びに溢れていた俺は愚かにも大事なことを忘れていた。

君へ送るに相応しいレターセットを所持していなかったことを。


俺が持っているのは報告や伝令に使用する質素なレターセットとインクばかりで、華やかでいて品のある君に相応しいレターセットなど手元になかった。そう、インクもだ。高尚な君に相応しい色合いのインクも持っていない。失念していた。

悪いことに次の日からは仕事が立て込み、なかなか買い物にも行けなかった。友人はレターセットを譲ると言ってくれたが、自分で選んだセターセットを使用したかったが為、遅くなってしまった。


せっかく君が許してくれたのに遅れて、本当にすまない。遅くなった言い訳にしかならないが、友人が譲ると言ってくれたレターセットではじめての手紙を送りたくなかったんだ。

仕事が落ち着いてすぐレターセットを買いに走って、店を五軒も回ってしまった。付き合わせた友人には悪いことをした。彼は街に詳しいから、どこに何の店があるのか誰よりも把握している。


しかし今思えば、どんな形でもすぐ送れば良かった気もする。


今更時間をかけたことで君が心変わりしていたらなどと、弱気なキノコが生えそうだ。

すまない。君がそんな女性ではないとわかっている。俺が過剰に怯えているだけだ。


とにかく初回が遅くなったが、これからは君を待たせることなく手紙を書くと誓う。

そのためにも、たくさんレターセットを買った。

君の好みが知りたくてたくさん買ったので、好みの便箋などがあったら教えて欲しい。今回のワインレッドの封筒はどうだろうか。今回は使わなかったが、葡萄の香りのする封筒も売っていたのでいずれそれに君への想いを綴った手紙を入れて送りたい。

だから隠さず、君の言葉を送って欲しい。すぐにとは言わない。俺は待てる男だ。


いつまでも待っている。

君にいいことがありますように。

ヨーゼフ・アルガッツ



親愛なるヨーゼフ様へ

お元気にお過ごしのことと思います。

ヨーゼフ様が心配なさるほど長い時間待っていませんので、そこまで謝罪を繰り返さなくても問題ありませんわ。


だってあれから三日しか経っていませんもの。

むしろ丁度良い頃合いです。


もしかして、毎日手紙のやりとりをするつもりでいらっしゃいます? それは交換日記の頻度では? 交換日記を知っています? 奥ゆかしい男女だけでなく友情を深める文学的な交流です。私たちがはじめたのは文通ですから、お間違えのなきように。


確かに同じ王都にはいますけれど、お互い忙しいのですからテニスのように即座に打ち返さなくてよろしいですからね? 

私も都合の良いときに送り返しますので、気楽にお待ちくださいな。


それにしても、私に相応しいレターセットを求めて五軒も…これは毎回、趣の違う封筒に退屈しそうにありませんわ。今後も楽しみにしておきます。香り付きの封筒も楽しみですわ。

葡萄はワインの原料として我が領地でも生産しておりますし、香りも味も好きです。


いずれ賄賂としてワインを贈らせて頂きます。


ご家族の皆さんによろしくお伝えくださいな。

それではまた、連絡をお待ちしております。

ステファニー・リスクアール


……


親愛なるステファニーへ

手紙をありがとう。


…三日しか経っていなかったのか? とても長い間手紙を書いていない気持ちだったのだが…。

しかし君からの手紙はあっという間に届いたように感じる。封筒は品のある藤色で、白い便箋の縁に藤の花が咲いている。とても上品だ。

不思議なもので、待っている間は長く感じたが、届いてしまえば一瞬だ。文通をしながら、この時間感覚の謎を解明しようと思う。


交換日記という交流法は知らなかった。大変心惹かれるが、君への負担を考えれば文通が丁度良い。たくさんレターセットを購入したからたくさん手紙を書きたいが、君を腱鞘炎にさせたいわけではない。頑張って自重する。


興味を持って貰えたようなので、今回は香り付きの封筒を使って返信を書くことにした。ハーブの香りなど種類も豊富だが、一番多いのは葡萄だった。流石酒造の国だと思う。しかし麦や稲の香りは滅多にみない。酒の香りもだ。それは何故だろう。


そして賄賂の件だが、それは俺が君の弟に贈るべきだな。

わかった。お勧めの酒を数点賄賂として贈っておく。ステファニーも好みの酒があったら教えてくれ。贈り続けよう。


そう、ステファニーの好みが知りたい。


俺は君を知ったつもりになっているが、それも君の一面でしかないとわかっている。悪戯に翻弄する猫のような君も、慈悲の翼で全てを包み込む鳥のような君も、全て君だ。

もっと君を知りたい。そして俺を知って欲しい。


というか知って欲しい。

俺という存在の自己アピールが不足していると最近気付いた。これではいつまでたっても好きになって貰えるわけがない。

取り敢えず思いつく限りのことを書いていくので質問があったら教えて欲しい。


・ヨーゼフ・アルガッツ アルガッツ公爵家五男 二十二歳

姉が二人、兄が四人、妹が一人いる。

誕生日は十二月十二日。好きな色は赤。酒は赤ワインならどれも好きだ。

好きな食べ物はカルパッチョ。

家族の勧めで騎士になり、王宮を同僚達と共に守っている。

家族と友人からは「教えたことはちゃんとできる」と褒められるが「指示しないと動かない」とも言われている。改善点なのはわかっているので今後に期待してくれ。

剣を習い始めたのは五つの頃からで――…

………

……

……

………


親愛なるヨーゼフ様

素敵なプレゼント、ありがとうございました。


ですがこの賄賂、数が多くてあからさますぎてシュテインがひっくり返ってしまいましたわ。高級で貴重なお酒が数種類、一気に届くのですもの。お父様もシュテインと仲良くひっくり返ってしまいました。


こんなにわかりやすい賄賂はいけませんわ。

少しずつ、様子を窺って、効果的に贈らねばなりません。


というわけで、一度に量を贈りすぎたヨーゼフ様は二年ほど賄賂を送ってはいけません。正直それ以上の価値がありますが、永劫に賄賂を禁止するのは可哀想ですから。二年に納めて差し上げます。


それと、封筒を上品と褒めて頂き嬉しいですわ。考えて使った封筒を褒められるのも嬉しい物ですわね。季節を意識してみましたの。

今回の、賄賂と一緒に届いたお手紙ですけど、本当に葡萄の香りを感じましたわ。

甘みが強めの葡萄の香り。強すぎず弱すぎず…流石に高級な封筒は香り付きまで格が違いますわね。大変気に入りましたわ。ありがとうございます。

これで適量だったら一番良かったのですけれど…。


…色々突っ込みどころが多くて困りますわ。一体どんな教本から知識を得てこの言動なのでしょう。もしくは得ていないのかしら…。


ヨーゼフ様。手紙と書類は違いますので、途中から濃厚な履歴書を作成されてもこちらで受理できませんわよ。

自己アピールの方法が、履歴書ってどういうことですの?

封筒がパンパンになるくらい精密に、経歴を綴る必要はありませんわ。

久しぶりに困惑しましたわ。個人情報が堂々と送られてくるなんて…おもしれー男狙いですの? おそろしー男になりそうですわ。


…今のうちにお約束ください。

手紙は一度に三枚までです。

緊急事態がない限りは三枚です。

これを破ったら私、産業で返信することにします。あ、三行ですわ。三行。

おわかり頂けまして?

履歴書の内容については、また今度質問することにしますわ。

ああ、最後に一つだけ。私の誕生日は八月二日ですわ。

それではご機嫌よう。

お身体にお気を付けて。

ステファニー・リスクアール



おそろしー子

「○○…おそろしい子!」なノリ。

ちなみにステファニー、藤の花を使いましたが「歓迎」の意味で使っています。どんどん手紙を送るといいよ! あと季節。

所々躾けられながら文通は続く。

次回はいつも通りです。


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― 新着の感想 ―
ものすっごくおもしろかったです。手紙だから、ヨーゼフ氏のすっとんきょうな行動な言動もかわいらしく微笑ましく思えるマジック。 あと、分厚い履歴書(個人情報満載)・・・産業なネットスラングをうっかり使いた…
枚数制限したらしたで小っさい文字でびっしり埋めつくされた便箋が届く未来しか見えない。 文字数制限の方が良くない? 履歴書並みに書かれた個人情報の中、あれだけ濃い個性に一切触れられず人数のみ書かれた兄達…
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