「致死量の毒薬」
メアリーはさっそく本を読む。その本は毒薬に関する本だった。
「お嬢様、その本、読んでいて楽しいですか?」
ルイがそっと後ろから覗きこんだ。
「ええ、楽しいわ。この本を使ってやりたいことがあるもの!」
「へー。」
「まあ、文字の読めない貴方には関係ないわね。」
「…はい。」
ルイは少し、しょぼくれた。
メアリーは準備に取り掛かる。本に書かれた通りの材料を用意すると毒薬を作った。あとはこれをラインハルトに、あの女に、飲ませるだけである。
「今回は失敗しないわ!」
毒薬を作るのは今回初めての試みである。運命は自分で変えてみせるとメアリーは意気込んだ。
★★★★
数週間後、招待状が届いた。舞踏会への招待状。そう、この舞踏会は城ではラインハルトとひかりの婚約発表会がある舞踏会である。毎回あの女、ひかりから届くのだ。ひかりは転生者で日本という国から来たらしい。王子は彼女の不思議な魅力に魅せられて一目惚れしたらしい。私という婚約者がいたのにだ。
「お嬢様、手紙にはなんと?」
「舞踏会への招待状よ。婚約発表会があるそうよ。」
「!?」
ルイの顔は曇った。
「申し訳ありません!そんな手紙を渡してしまうなんて!こちらで処分しておきます!!」
「いいのよ。参加するから。」
「え?!でもっ!」
「いいの。」
そこにコレをもっていって飲ませればいい。夕日が沈むとメアリーは城に馬車で向かった。
「お嬢様。強制参加じゃないんですから、参加されない方が……。」
「いいの。私も2人をお祝いしたいの。」
「メアリー様。」
そう、2人の死をね。
会場へとはいる。舞踏会は想像を絶する賑わいをみせていた。
2人はグラスをテーブルの上に置いた。そして2人は踊っていた。
その隙に毒薬を王子とひかりのグラスに入れる。バレていない。メアリーはその場をそっと去った。2人が再びグラスを手に取る。
この時を、待っていた。
ひかりがグラスに口をつける。
「ぐぁっ?!」
ひかりは口から泡をふいて倒れる。ラインハルトは慌ててひかりを支える。
「ひかり?!誰か!医者を!!」
「医者です!」
小太りの男が人混みをかき分けてやってきた。
「ひかりは?」
小太りの男は脈を確認した。
「死んでる……。」
「そ、そんな?!どうして?!誰がこんなことを?!」
ふふふっ、バレてないわ。私が入れたこと。今度こそ、成功ね。
メアリーは成功したとほくそ笑んだ。
「誰だ?!こんなことをして!許さないからなっ!!」
ラインハルトがそう叫ぶ。その場は静まり返った。すると1人の中年の男が証言し始めた。
「俺は見たぞ!その女が2人のグラスに何かしているところを!!」
中年の男はそう言ってメアリーを指さした。
「なんだと?!」
ラインハルトはメアリーを睨みつける。
「あら、なんの事かしら?」
しらばっくれてみる。見られていたなんて思わなかった。だが、証言だけではメアリーが犯人だと証明できない。そこにルイがやって来た。
「メアリー様がそんなことするはずがありません!!毒で殺されたならまだ毒の瓶をもっているのでは?確認してください!!」
なんて余計なことをいってくれた。メアリーは青ざめる。ラインハルトはメイドに命じる。
「誰か、メアリーを調べてくれ!」
直ぐにメイドが調べる。
女が裾に入っていた小瓶を見つけた。
「私じゃ……。」
「じゃあ、これはなんだ!?」
「知らない!誰かがいれたのよ!」
「しらばっくれるな!お前が犯人だと言う決定的な証拠だ!!おい!誰かこの女を牢屋にいれておけ!!」
「何かの間違いです!お嬢様がそんな恐ろしいことするわけがっ……!」
ルイはメアリーの無実を訴えたが意味はなかった。メアリーは兵士達に取り押さえられる。そして牢獄へと連れていかれた。ラインハルトは吐き捨てる。
「なんて卑怯で醜く醜悪な悪女だ!」
ルイはもう我慢できなかった。
「…………やめろ」
「なん、だと?」
「お嬢様を悪く言うのはやめろ!!」
「ただの使用人ごときが王子である私になんという口の利き方だ!!捕らえろ!罰を与えてやる!」
「ぐっ!」
ルイは捕らえられて連れて行かれた。ルイはメアリーの入れられた牢屋の向かい側に入れられる。
「ルイ?」
「お嬢様、申し訳ありません。僕、お嬢様の汚名を返上できませんでした。」
「いいのよ。貴方は貴方、私の為に捕まるなんておかしいわ。明日にでも出して貰えるようにお願いしてみるわ。」
「いいえ、いいんです。」
メアリーは看守にルイの無実を訴えた。無駄だった。結局メアリーはルイの処罰をなかったことに出来なかった。ルイは口をさかれた。そして、メアリーは処刑された。また過去に戻る。
「…………はぁ。」
ため息をつくと部屋の外にでる。どんっ。
「いったた……。」
彼はそこにいた。
「お嬢様、急に……」
ぎゅっ。
私はソレを抱き寄せる。
「お嬢様?!」
「ありがとう。私の為に、ありがとう。」
「?!」
ルイはなんの事かわからない。でも褒められるのはうれしかった。
「でも、もういいの。私の為に犠牲にならないで、自分を犠牲にしないで。」
メアリーはそう言ってルイの頭を撫でる。
「お嬢様。僕っ!」
「貴方は私の執事なのよ?他の誰の物でもない、私の物なの。その自覚を持ちなさい。誰にも処刑なんてさせない。」
「…………お嬢様。」
ルイは泣いていた。何故泣いているのかメアリーにはわからない。
だが、その毒はルイを殺すには致死量だった。